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知っておきたい!「パリSG対バルセロナ」直接対決の因縁。今回の対戦も何が起こるかわからない!?

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

因縁まみれのバルサ対PSG

 2月16日にカンプ・ノウで行われたチャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16のファースト・レグで、パリ・サンジェルマン(PSG)に1-4という予想外の大敗を喫したバルセロナ。逆転を期してアウェーに臨むセカンド・レグは、相当に厳しい戦いが予想される。

 とはいえ、両クラブの過去の歴史に照らしてみれば、必ずしも下馬評通りに事が運ぶとは言い切れないのも事実。近年におけるバルセロナとPSGの間には、ピッチ内外を問わず、誰も予測できなかった数々のストーリーがあるからだ。

 もちろん今回の直接対決にも、まさしく“因縁まみれ”と言うべき背景が存在する。

 たとえば、バロンドール選定メディアとしても知られる『フランス・フットボール』誌の報道もそのひとつだ。2月9日号において「PSG秘密のカルテ」というタイトルでバルセロナのリオネル・メッシの特集記事を掲載。特に本拠地パルク・デ・プランスを背景に、PSGのユニフォームを着たメッシの合成写真を表紙にしたことは、フランスとスペイン両国で大きな波紋と憶測を呼んだ。

 しかも、時はCLラウンド16でバルセロナがホームにPSGを迎える、大一番の1週間前というタイミングである。権威ある専門誌が、まるでゴシップ紙のような"仕掛け"を表紙に施したこと自体が異例と言えるが、少なくともその反響はいい意味でも悪い意味でも予想以上だった。

「フランス・フットボール誌がそのような表紙をデザインしていることと、我々PSGは何も関係ない。混同してはいけない」

 会見の場でそうコメントしたのは、1月からPSGを率いるマウリシオ・ポチェッティーノ監督だった。自身の就任前から話題となっていたこのテーマの憶測報道に、心底辟易しているというのが新指揮官の本音といったところだろう。

 これまで数多くのエピソードを積み重ねてきた両クラブの直接対決だが、今回はバルサの至宝メッシのPSG移籍の噂が、ピッチ外最大のトピックになったというわけだ。

PSG会長に宿る異常な執念

 振り返れば、カタール人のナセル・アル・ケライフィが会長に就任して以来、PSGにとってのバルセロナは常に乗り越えなくてはいけない"宿敵"であり続けてきた。なぜなら、PSGがカタール資本になってから挑戦した過去8シーズンのCLで、実に3度も煮え湯を飲まされた相手がバルセロナだからだ。

 まず、アル・ケライフィ会長のCL初挑戦となった2012−2013シーズンは、カルロ・アンチェロッティ監督の下、準々決勝で対戦して2試合連続ドロー。敗戦はなかったが、アウェーゴールの差で涙を呑んだ。

 2度目の対戦は、その2年後。ローラン・ブラン監督時代に2試合続けて完敗してしまい、クラブとしての大きな差を見せつけられた。

 そして「3度目の正直」と意気込んで挑んだのは、ラウンド16で対戦したウナイ・エメリ監督時代の2016−2017シーズン。ところが、第1戦をホームのパルク・デ・プランスで4−0と完勝しながら、第2戦ではCL史上に残る1−6のスコアで大逆転負けを喫するという、信じがたい結末が待ち受けていた。

 バルセロナの人々の間で今もなお語り継がれる名勝負「カンプ・ノウの奇跡」は、PSGにとっては「カンプ・ノウの大惨事」として"黒歴史"になっているのだ。

 とりわけ、これまで多額のマネーをクラブに投資しながら、すべての敗北を目の当たりにしてきたアル・ケライフィ会長が負った傷は想像以上に深かった。

 そして、「打倒バルセロナ」を誓うプライド高き会長の執念が、その年の夏の移籍マーケットにおける"暴挙"を引き起こすことになる。すなわち、「カンプ・ノウの奇跡」の立役者であるネイマールと、レアル・マドリード行きも噂されていたモナコの神童キリアン・エムバペをダブルで強奪した、あの歴史的ディールである。

 ネイマール獲得に投じた資金は、サッカー史上最高額となる移籍金2億2200万ユーロ(約290億円)。さらにエムバペの獲得については、UEFAのファイナンシャル・フェアプレーを回避するために買い取り義務付きの1年ローンとし、翌年の夏に移籍金1億8000万ユーロ(約235億6000万円)を支払うという、グレーかつ強引な取引を成立させたのだった。

 ふたり分を合わせると、実に520億円以上の投資である。

ネイマールとメッシの移籍騒動

 ところが、肝心のネイマール本人がその後の両クラブ間におけるトラブルの種となったことは、まさに皮肉としかいいようがない。

 2019年夏、かねてからバルセロナ復帰希望が噂されていたネイマールがクラブのフロントに直談判。これに対して怒り心頭のアル・ケライフィ会長およびカタール首長は、ネイマールの移籍金額を2億2200万ユーロ以上に設定し、結局、資金不足のバルセロナが獲得をあきらめるという結末を迎えたのである。

 そういう意味でも、その経緯を知ったPSGサポーターから総スカンとなったネイマールにとっては、昨シーズンのCLは彼らからの信頼を回復するための重要な舞台だった。

 実際、加入してから初めてCL決勝トーナメントでプレーしたネイマールの活躍がなければ、PSGが初のファイナルに駒を進めることはなかっただろう。そしてPSGサポーターも、念願の決勝進出に導いてくれたネイマールを受け入れるようになっていった。

 そして、ネイマール問題が落ち着いた直後の昨夏、今度はバルセロナでメッシの退団騒動が発生する。結局、サッカー界を揺るがしたこの騒動は残留というかたちで収束を見たが、その後、混乱の元凶とされたジョゼップ・マリア・バルトメウ前会長の退陣が決定した(3月7日に行われた新会長選挙でジョアン・ラポルタが会長に復帰)。

 そんな騒動のなか、昨年12月3日のCLグループステージでPSGがマンチェスター・ユナイテッドに勝利した直後、再び両クラブ間に爆弾を投下したのがネイマールだった。

「僕が求めるのは、もう一度、彼(メッシ)とともにプレーすることだ。彼がピッチで再び楽しめるようにね。来年、僕たちはそうしなくてはいけない」

 退団騒動以降、その表情からプレーする喜びが失われかけていたメッシに向けたネイマールのひと言が導火線となり、またしても両クラブ間の軋轢が再燃する。さらに、UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)もそれを承知していたのか、CLラウンド16の組み合わせ抽選で両クラブの直接対決が決定。それが、火に油を注ぐことになった。

メッシのPSG移籍は有り得るか?

『フランス・フットボール』誌では、冒頭のメッシ特集号よりも3週間前に、PSGのレオナルドSD(スポーツディレクター)のロングインタビューを掲載した。そのなかでレオナルドSDは、メッシ獲得の可能性について次のように語っている。

「メッシのような偉大な選手は、常に我々のリストにある。しかしこれについては、話をしたり、夢を見たりするべき時ではない。

 たしかにピッチ上では、1970年代のブラジル代表が5人の攻撃的選手(ペレ、トスタン、リベリーノ、ジェルソン、ジャイルジーニョ)を同時にプレーさせていたことを知っているし、銀河系時代のレアル・マドリードが机上では美しかったものの、何も手にできなかったことも知っている。だからメッシがパリに来た場合、それがうまくいくのかはわからない。

 ただ、我々はそのための大きなテーブルに座っている。いや、実際に席にはついていないが、席の予約はしている。それに、次の移籍ウィンドウについて、まだはっきりした考えを持っているわけではない」

 彼の言葉が真実だとすれば、メッシ獲得は憶測の域を出ておらず、現実的とは言えないのが現状だ。しかしながら、今回の直接対決の結果にかかわらず、今夏の移籍マーケットで再びメッシのPSG移籍が話題の中心になることは十分に予想できる。

 いずれにしても、数々の因縁が渦巻くPSGとバルセロナのリターンマッチは、3月10日にその幕が切って落とされる。CLでは1994−1995シーズンの準々決勝で、一度だけPSGがバルサを撃破したことがあるが、果たしてアル・ケライフィPSG会長にとって4度目となる今回の直接対決では、いかなる結果が待ち受けるのか。

 両クラブの因縁の歴史に、また新たな1ページが刻まれる。

(集英社 Web Sportiva 2月16日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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