Yahoo!ニュース

育成の名門リヨンに現れた20歳の超新星! シティ戦の金星でCL4強入りの原動力となったMFは要必見

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

立役者のひとりとなった20歳のMF

「我々を苦しめるために、ペップ(グアルディオラ監督)が何かをしてくることは分かっていた。しかし最終的に、我々は試合中の戦術変更を含め、自分たちの戦術を遂行できた。ある意味、戦術バトルに勝利したと考えている」

 中立地リスボンで行われている一発勝負のチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝で、名将ペップ率いるマンチェスター・シティ相手に金星を飾ったリヨンのルディ・ガルシア監督は、アップセットの要因について得意気に振り返った。

 確かに、この試合でも採用されたリヨンの新システム「3-1-4-2」は、ラウンド16第2戦のユベントス戦に続いてよく機能し、その威力を発揮したことは間違いない。ガルシア監督が言う通り、戦術色の強い一戦でもあった。

 しかしこの試合を振り返る時、それ以上のトピックとして着目しておきたいのが、その戦術を機能させたリヨンの選手たちのパフォーマンスだった。

 昨季のCLに続いてシティ相手にゴールを決めた左ウイングバックの“シティ・キラー”マクスウェル・コルネ、途中出場で2ゴールをマークしてマンオブザマッチに輝いたムサ・デンベレ、再三のピンチを救ったGKアントニー・ロペス、攻守にわたり抜群の輝きを放って本来の実力を発揮した22歳の天才MFフセム・アウアーら、ほぼ全員が指揮官に与えられた任務を遂行し、期待以上のパフォーマンスを見せた。

 新システムが淀みなく機能したのも、戦術バトルで上回れたのも、さらに言えば、クラブの規模も戦力も上回るシティに勝てたのも、彼ら選手たちのハイパフォーマンスがあってこそ、だった。

 その中でも、特に22歳のアウアー(A)、ブルーノ・ギマランイス(B)とともに中盤を構成した“ABCトリオ”のひとり、20歳の新鋭MFマクソン・カクレ(C)の活躍ぶりは特筆すべきものがあった。

CLデビューで花開いた無限の可能性

 まず、この試合でカクレが記録した走行距離は11.44km。これは、アウアーの11.37kmを上回り両チームトップの数字だ。カクレはユベントス戦でも11.5kmの走行距離をマーク。そのスタッツだけを見ても、広いミッドフィールドを3人でカバーするリヨンの戦術において、カクレが欠かせない戦力であることが分かる。

 もちろん、ただ走るだけではない。もともとボールを扱うテクニックに優れるカクレは戦術理解能力が高いうえ、的確にスペースを埋めるクレバーなポジショニング、174cmという決して大きくはない体格を上手に使う球際での強さ、奪ったボールを即チャンスにつなげるビジョンとセンスも兼ね備えている。

 実際、1-1で迎えた79分のデンベレのゴールも、87分のデンベレのダメ押しゴールも、起点になったのはカクレのボール奪取後の素早いパスだった。フランスのレキップ紙が、ユベントス戦に続いてカクレに10点満点中「8点」という高評価を与えたのも納得だ(ちなみにユベントス戦の8点はマルセロと並ぶチーム最高点。また、シティ戦の最高点はアウアーの9点だった)。

 しかし何よりも驚くべきは、この20歳の若者のCLデビューはラウンド16第2戦のユベントス戦で、シティ戦もまだCL2試合目だったという事実だろう。

大先輩の移籍でつかんだチャンス

 そもそもカクレがリーグアンデビューを飾ったのは、指揮官がシウヴィーニョからガルシアにバトンタッチした後の昨年11月末のストラスブール戦で、それ以前は主にUEFAユースリーグでプレーしていたにすぎない。そしてそのストラスブール戦では上々のパフォーマンスを見せたものの、その後は中盤の選手層が厚いリヨンではバックアッパー扱いだった。

 転機が訪れたのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるシーズン打ち切り後のこと。冬にヘルタ・ベルリンへの移籍を決め、レンタルというかたちでリヨンにとどまっていたリュカ・トゥザールが、レンタル期間満了によりに新天地に旅立ってからだった。

 トゥザールは、ユベントスとのラウンド16第1戦でブルーノ・ギマランイスとダブルボランチを形成し、可変型3-4-1-2システムの中軸として勝利に導いたリヨンの育成センター出身選手。カクレにとっては、同じ育成センターの大先輩にあたる。

 そのトゥザールが不在となったことで、ガルシア監督は中盤の構成変更を決断。トレーニング再開後のプレシーズンマッチでは、冬に加入した直後から絶対的な信頼を勝ち取ったブルーノ・ギマランイスを1アンカーに配置する3-1-4-2システムのテストを繰り返した。

 ただし、当初プレシーズンマッチでは、インサイドハーフでプレーしたのはアウアーとチアゴ・メンデスだった。

 ところが、サブ組のインサイドハーフでプレーしていたカクレの成長ぶりに目を見張るものがあったため、ガルシア監督はパリ・サンジェルマンとのフランスリーグカップ決勝戦で、思い切ってカクレをスタメンに抜てきした。

 すると、中断前に出場したリーグ戦8試合で目立っていた攻撃面の特長よりも、むしろパリ戦のカクレは、延長PKに突入したその試合で120分にわたって足を止めることなくハードワークを続け、守備面における強度と無尽蔵のスタミナを印象づけたのだった。

育成の名門リヨンの系譜を継ぐ

 上手いだけではない、実戦で闘える戦士。その時、ガルシア監督は驚異的な成長を遂げるカクレをユベントス戦で先発起用することを決めたに違いない。そしてその決断は、結果的に大当たりだった。

 カリム・ベンゼマ(レアル・マドリー)、アレクサンドル・ラカゼット(アーセナル)、ナビル・フェキル(ベティス)、サミュエル・ウムティティ(バルセロナ)、コランタン・トリッソ(バイエルン)、アントニー・マルシャル(マンチェスター・ユナイテッド)……。

 これまでリヨンの育成センターから旅立った優秀な現役選手を挙げればきりがない。そして今回、また末恐ろしいヤングタレントが彗星のごとく出現した。

 シティ戦で違いを見せた育成センターの先輩アウアーとは異なるキャラクターのMFマクソン・カクレ。彼を育てた育成コーチが向上心とメンタルの強さに太鼓判を押す20歳のキャリアは、まだ始まったばかりだ。

 準々決勝から中3日で行われる準決勝のバイエルン戦は、リヨンにとってもカクレにとっても、シティ戦以上に大きなチャレンジとなる。しかし結果がどうなろうとも、大きな失敗を犯そうとも、成長過程にあるカクレにとっては貴重な経験になるに違いない。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

中山淳の最近の記事