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再開迫るプレミアリーグで注目すべきティーンエイジャー三羽ガラスがイングランドサッカーの未来を担う

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

今季のプレミアは多くの若手が台頭

 いよいよ6月18日に再開が迫ってきたイングランドのプレミアリーグ。すでにタイトルの行方はリバプールにほぼ確定しているものの、ヨーロッパカップ出場権争い、あるいは残留争いなど、まだまだ見どころはいくつも残されている。

 そんななか、選手個人にスポットを当ててみると、特に上位を争うクラブで若手選手の活躍ぶりが目立っているのが今季の特徴のひとつと言えるだろう。通称「ホームグロウン」ルールが導入された2010−2011シーズンから数えて、今季はちょうど10季目にあたる。そういう点で、今季の残りのリーグ戦を将来有望な若手に注目してみるのも面白い。

 ちなみにホームグロウン選手とは、国籍を問わず、21歳の誕生日を迎えたシーズンの終了までにFA(イングランドフットボール協会)かFAW(ウェールズフットボール協会)に加盟するクラブで通算3シーズン(または36カ月)以上を過ごした選手を指す。

 このルールでは、ホームグロウン以外の選手は1チームで17人までしか登録できないという制限が設けられおり、すなわち1チームの最大登録枠25人のうち、ホームグロウン選手を最低8人は登録しなければならないことになる。

 もちろん、25枠内であればホームグロウン選手を8人以上登録しても構わない。それに加え、21歳以下の選手であれば25枠を超えて無制限に登録できる規定も附帯されているので、イングランドで育った若手選手の活躍の場はルール導入前と比べて大きく増したと言える。

 とはいえ、畑を広げたところで、いい芽が育たなければ意味はない。

 このルールが導入された際、ほぼ時を同じくして、イングランドサッカー界が一体となって「EPPP(Elite Player Performance Plan=エリート選手養成プラン)/通称=イートリプルピー」と呼ばれる選手育成プログラムを推進したことが、その背景にあったことも見逃せない。

 その結果、イングランドは2017年に初めてU−17W杯とU−20W杯を制覇。世界の頂点を経験した彼らを含め、育成改革の成果によって輩出された選手が次々と台頭し、いまやプレミアリーグは”ヤングスター天国”の様相を呈している。

グリーンウッドの才能が開花

 今季のプレミアリーグで特に将来を嘱望されている「ティーンエイジャー三羽ガラス」が、マンチェスター・ユナイテッドのメイソン・グリーンウッド、アーセナルのブカヨ・サカ、チェルシーのカラム・ハドソン=オドイの3人だろう。

 2001年10月1日生まれのグリーンウッドは現在18歳。6歳からマンチェスター・Uのアカデミーに所属し、常に飛び級で上のカテゴリーでプレーし続け、17歳156日にしてトップデビューを果たした生え抜きのゴールマシンだ。

 トップデビューは、オーレ・グンナー・スールシャール監督就任後に行なわれた昨シーズンのチャンピオンズリーグのラウンド16第2戦。敵地パルク・デ・プランスでパリ・サンジェルマン相手に3−1で勝利し、逆転で8強進出を決めた大一番の後半終了間際に途中出場を果たした。

 そして今シーズン、プレシーズンから際立ったプレーを見せたグリーンウッドの才能が開花。ここまでリーグ戦22試合に出場して5得点、ヨーロッパリーグと国内カップ戦ふたつを含めると36試合12得点を記録。予想をはるかに上回るペースで成長を続けている。

 最大の魅力は、天性のものとしか言いようのないシュート精度にある。しかも、左右両足とも同じレベルの精度があるため、どの位置からでもシュートを狙える。

 とりわけ右サイドで内に身体を向けた状態からニアサイドに放たれる左足シュートが十八番。ファーサイドを狙うような体勢から放たれるため、どうしてもGKの反応が遅れてしまうのだ。

 もともと攻撃的中盤だったこともあり、前線ならどこでもプレーできるという柔軟性もある。何より、ゴール前の緊迫した局面においても18歳とは思えない落ち着きがあり、自然体でシュートを放てることが決定力の高さのバックボーンとなっている。

 マーカス・ラッシュフォード(22歳)をはじめ、スコット・マクトミネイ(23歳)、アクセル・トゥアンゼベ(22歳)、タヒス・チョン(20歳)、ブランドン・ウィリアムズ(19歳)、アンヘル・ゴメス(19歳)、ジェームズ・ガーナー(19歳)……。現在、マンチェスター・Uでは次々とアカデミー出身の若手がトップデビュー。

 少しずつ「自前の若手を重視するチーム作り」へと舵を切っており、90年代にデイビッド・ベッカムやポール・スコールズら「ファーギーズ・フレッジリングス」が台頭したサー・アレックス・ファーガソン監督時代への回帰が始まっている。よほどのことがなければ、グリーンウッドも未来のマンチェスター・Uの中軸を担うはずだ。

急成長を遂げたガナーズの左SB

 同じく若手の台頭が急増中のアーセナルで存在感を見せているのが、現在18歳のサカだ。

 ナイジェリア人の両親を持つロンドン生まれのサカは、アーセナルのアカデミーで育ち、2018年9月にプロ契約。するとその年の11月、ヨーロッパリーグでトップデビューを飾り、今シーズンはここまでリーグ戦18試合に出場するなど、今シーズンの開幕前には想像もしなかったレベルの実績を残している。

 もともと、サカは左ウイングを主戦場としていた。だが、負傷者続出で手薄となった左サイドバックにコンバートされたことが、結果的にブレイクのきっかけとなった。

 スピードとテクニックを生かしたドリブル突破と、左足から放たれる精密なクロスが最大の武器。ナイジェリア人のフィジカルと、最近の若手イングランド人選手の特徴でもある高い技術力をミックスしたハイブリット感が魅力のひとつと言える。

 慣れないポジションでプレーしているので守備面に改善の余地は残されているが、将来的に本職のウイングに戻る可能性もあるだけに、現時点で問題点をクローズアップする必要はないだろう。むしろ、その市場価格を約24億円にまで跳ね上げたのは攻撃力であることを考えると、ミケル・アルテタ監督の今後の起用法が気になるところだ。

市場価値が10代トップの問題児

 そして、マーケットバリューではグリーンウッドやサカを上回り、プレミアリーグの10代トップとなる約38億円を誇るのが、チェルシーの至宝ハドソン=オドイだ。

 ガーナ人の父を持つロンドン出身の19歳。今季は故障で出遅れたものの、ここまでリーグ戦17試合に出場して1得点4アシストをマークしている。

 今年に入ってからは2月の負傷、3月の新型コロナウイルス感染、さらに5月には女性に暴行を加えたとして逮捕されるなど、不運とスキャンダルに泣かされている感は否めないが、市場価格が示すようにそのポテンシャルは無限大。2017年U−17W杯優勝メンバーでもある。

 とにかくスピード豊かなドリブル突破は格別で、左サイドからのカットインは最大の武器。一度スピードに乗ったら止められないレベルのスキルを兼ね備えており、相手にとってはやっかい極まりない。

 ただし、そのドリブルも独りよがりに映るシーンは度々ある。今後はチーム戦術のなかで自分の武器を生かす術(すべ)を身につけることが課題となるだろう。

 もっとも、ハドソン=オドイのような怪物系のアタッカーは、どのようなタイプの指導者のもとで成長期を過ごせるかが、ブレイクのための重要なファクターとなる。そういう意味で、現在チームを率いるフランク・ランパード監督はうってつけと言える。兄貴目線でじっくり育てれば、おそらくその才能は近いうちに開花するはずだ。

 そのほか、今年20歳になったためにここでは割愛したが、ハドソン=オドイと同じミレニアム生まれの有望株には、マンチェスター・シティのフィル・フォーデン、トッテナム・ホットスパーのライアン・セセニョン、ノリッジ・シティのマックス・アーロンズなど、将来のイングランドを担うであろう注目のホームグロウン選手は多い。

 この調子でいけば、イングランドの未来は明るい。2000年から育成改革を推進したドイツが2014年W杯でひとつの成果を残したことを考えれば、イングランドが2022年か2026年のW杯で世界の頂点に立っても何ら不思議はない。

(集英社 Web Sportiva 5月31日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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