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二足のわらじを履いたままW杯最終予選は戦えない! 東京五輪の延期が森保ジャパンの強化に及ぼす影響

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

東京五輪は来夏までに延期決定

 新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、今夏の開催が危ぶまれていた2020年東京オリンピックが、遅くとも2021年夏までに延期されることが正式に決定した。

 現在、欧米を中心に多数の人命を奪い続けるウイルスによる被害状況を考えれば、IOC(国際オリンピック委員会)の決断は極めて妥当。いつ人々が平穏な日常を取り戻せるのかも見通しが立たない中、とても4ヵ月後にオリンピックの開催を強行できるはずもない。

 もちろん、本当に1年後までに開催できるかという点も含めてまだ不透明な部分は多い。しかも仮に開催できたとしても、延期による悪影響は多岐にわたり、とても楽観視できる状況にはないというのが実情だ。

 それはサッカー日本代表、森保ジャパンにも言える。来夏までの延期という今回の決定は、今後のチーム強化に大きな影響を及ぼすだけに、決して楽観はできない。

 たとえば、オリンピックの出場選手資格には「23歳以下の選手+オーバーエイジの選手最大3人まで」という特殊なレギュレーションが存在することも、受ける影響のひとつだ。

 しかし、この問題についてはIOCとFIFA(国際サッカー連盟)の決定に従うしかなく、2枠を争う予選が終了していない北中米カリブ地区予選がいつ開催できるかも含めて、結果を待つしかないという“受動的”な問題と言える。

 一方、JFA(日本サッカー協会)が“能動的”に考えて備えなければならない重要な問題は、今後のスケジュールが森保ジャパンに与える影響である。

 とりわけ日本は、東京オリンピック代表とA代表の監督を同一人物が務めるという特殊な事情がある。二足のわらじを履く森保一監督にとっては、東京オリンピックの開催が来夏までに延期されたことで、今後の強化プランがより複雑かつ困難なものになったことは間違いないからだ。

キャパオーバーの森保兼任監督

 最大のネックは、A代表の強化およびスケジュールとの兼ね合いだ。

 たとえば昨年11月。A代表監督に就任以来、それまでU-23代表の現場を横内昭展コーチにほぼ任せていた森保兼任監督は、14日にキルギスで行われたA代表のW杯アジア2次予選直後に帰国し、17日のU-22日本代表対U-22コロンビア代表戦のベンチに座って、実質的に初めて東京五輪を目指すチームで采配を振るっている。

 さらに、その試合翌日に広島から大阪に移動した森保兼任監督は、2日後の19日に行われたA代表のベネズエラ戦(親善試合)で指揮を執るという、ある意味“離れ業”をやってのけた。

 ただし、0-2で勝ったキルギス戦の内容は低調で、U-22コロンビア代表戦は0-2で完敗。極めつけはA代表のベネズエラ戦で、前半だけで4失点を喫するという失態を見せてしまい、1-4の大敗。それをきっかけに、強烈な批判にさらされる羽目に陥ったことは記憶に新しい。

 唯一の救いは、A代表のW杯予選がキルギス、タジキスタン、ミャンマー、モンゴルという格下との試合が続く2次予選だったことだろう。

 そうでなければ、おそらく森保兼任監督も昨年11月のような強行軍を考える余裕はなかったはず。逆に、A代表の現場を離れる余裕がなければ、東京五輪世代の現場に立つこともなかったわけで、その場合は12月28日のU-22日本代表対U-22ジャマイカ代表戦が、森保兼任監督が東京オリンピック世代代表を率いての初陣になっていたことになる。

 これまで東京オリンピック世代代表の現場にほとんど立ち会えず、A代表の強化さえままならないとなれば、もはや兼任監督は有名無実化。能力的な部分を差し置いたとしても、物理的に両立させること自体が無理な話だったという結論に達して然るべきだろう。

現体制でW杯最終予選は戦えない

 しかも周知の通り、新型コロナウイルスの影響により、A代表のW杯予選のスケジュールにも遅延が起きている。現状、3月と6月のアジア2次予選が無期延期となったため、少なくとも今年9月から始まる予定だったアジア最終予選(3次予選)の日程がずれ込むことは必至だ。

 当初の予定では、アジア最終予選の最終節は来年10月12日に設定されているが(プレーオフは11月11日&16日)、仮に最終節を動かさずに予選を終わらせるためには、これまで親善試合で使っていたマッチデイを最終予選に回すことも十分考えられる。そうなれば、過密かつ過酷な最終予選になることは確実だ。

 仮に東京オリンピックが夏までに行われる場合、とりわけ来年3月と6月に開催されるアジア最終予選が、本番前の東京オリンピック世代代表の強化の大詰めの時期とバッティングする。

 東京オリンピックだけを見れば今年の状況と大きな違いはないかもしれないが、一歩間違えばW杯出場の道が断たれるアジア最終予選を含めて考えると、二足のわらじを履く指揮官のままA代表の強化を続けていいのかどうかという話になって当然だろう。

 すでに兼任監督には無理があることは十分に証明された。にもかかわらず、この体制を維持したまま、東京オリンピックとW杯アジア最終予選を同時に戦おうと考えること自体がいかにナンセンスかは火を見るよりも明らかだ。

 不幸中の幸いは、東京オリンピック開催が延期されたことで、準備する猶予が与えられたことだ。しかし、その時間を有効に使えるか無駄にするかは、すべて代表チームを統括するJFAにかかっている。

 個人的には、オリンピックは当初任された森保監督が残り約1年を使って集中的に強化を進め、A代表の指揮はW杯予選が再開する前に別の相応しい人物を招へいすることが妥当な判断だと思われる。これまでのA代表での仕事ぶりから、そう評価するのが順当だ。そのうえで、もし東京オリンピックで結果を出したなら、森保監督をコーチとしてA代表のスタッフに加え、万が一に備えるという方法も考えられる。

 いずれにしても、新たな技術委員長に就任する予定の反町康治氏は、ナショナルチームダイレクターに就任予定の関塚隆元技術委員長とともに、今後に向けてじっくり現実的な話し合いを行うことが最初の仕事になりそうだ。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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