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苦戦の原因はアジアカップ決勝の敗因を忘れた森保監督の采配にあり【キルギス戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

森保ジャパンの劣化が止まらない

 森保ジャパンにとっての2022年W杯アジア2次予選の4試合目は、0-2で勝利して勝ち点3を確保したものの、苦戦を強いられた試合となった。

 ただ、戦前からその兆候はあった。それが、先月15日に行われたアウェイでのタジキスタン戦だ。

 その試合、ベストメンバーを編成した日本は4-2-3-1の布陣の利点を生かせず、前からアグレッシブに出てくる格下相手に苦戦を強いられた。

 とりわけビルドアップ時の「ボールの出口」をなかなか見つけられず、4-2-3-1の陣形もゆがんだまま時間が経過。結局、日本は本来あるべき姿を見せられないまま、勝ち点3だけは拾うことができた、という試合だ。

 このキルギス戦も、おおよそそのタジキスタン戦の流れをくんだ恰好の試合展開だった。

 しかも、日本の4-2-3-1に対し、キルギスの布陣は3-5-1-1(3-3-3-1)だった。この布陣で真っ先に思い出すのは、今年2月1日のアジアカップ決勝戦、対カタール戦だ。

 森保ジャパンが1-3で敗戦を喫した試合。格下が森保ジャパンと対戦する際、最も参考にすべき試合である。

 もしこの試合のキルギスの1トップ(10番)にカタールの19番(アルモエズ・アリ)ほどのクオリティがあったら、あるいは1トップ下(8番)にカタールの11番(アクラム・ハッサン・アフィフ)のクレバーさとテクニックがあったら、日本はあの時と同じような負け方をした可能性は高い。

 3バック+1ボランチの相手に対する前線からのプレスのかけ方然り。日本のダブルボランチに対してそれぞれ厳しいマーク(キルギスの場合は8番と21番)がついた場合の「ボールの出口」の見つけ方然り。

 あのカタール戦の敗戦後、森保監督はシステムのミスマッチについて「5バック、3バックでくる相手であることを想定の中に入れながら準備をしたが、選手が思い切ってプレーできる状態にまで準備できなかったことは自分の責任」とコメントした。

 しかしあの敗戦から得たはずの教訓は、結局、何も生かされていないことがこの試合で判明してしまった。

 少なくとも、去年11月の親善試合、アジアカップ、そして9月からスタートしたアジア2次予選以降の試合など、対戦相手の分析材料は豊富にあったはず。その中で、3バックを採用する時のキルギスに対する対策を練る時間も十分にあったはず。

 しかしその対策の形跡がほとんど見られなかったばかりか、序盤から前線のプレスがはまらず、ボールをキープして相手の勢いをいなすことができない選手に対して、ベンチからの指示でそれを修正することはなかった。

 それこそが、この試合で日本が苦戦してしまった最大の原因である。

 毎試合の繰り返しになるが、それも含めて、森保ジャパンの劣化は明確に見てとれる。しかも、アジアカップ以降は主力メンバーもほとんど代わり映えがしていない。このキルギス戦のスタメンの中でアジアカップ後に加わったのはCB植田のみ。これで大きな変化が生まれるはずもない。

 4連勝で勝ち点12ポイントを獲得し、いまだ無失点という最高の結果を得ているアジア2次予選の森保ジャパン。結果だけを見れば申し分ないが、果たしてその実態はどうなのか。

 ベンチワークがこの状態では、メンバーが大幅に入れ替わることが予想される19日のベネズエラ戦は、これまでにない醜態をさらす可能性は十分にあるだろう。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】権田修一=6.5点

前半32分と後半68分に決定機を阻止した他、安定したプレーを見せた。9月の親善試合から5試合連続でスタメン出場。所属クラブの出場はなくとも、正GKの座を確保している。

【右SB】酒井宏樹=6.0点

攻撃時は果敢にオーバーラップして得意のクロスを入れるも精度がいまひとつ。いつものパフォーマンスではなかった。守備時は柔軟なポジショニングで相手の攻撃の芽を潰した。

【右CB】植田直通=5.5点

大きなミスはなかったが、相手の俊敏な動きに翻弄されるシーンが目立った。ビルドアップ時のフィードは向上したものの、成功率は高くなく、レギュラー獲得までは遠い道のり。

【左CB】吉田麻也=5.5点

ボランチ経由のビルドアップが防がれていたため、いつもより積極的にフィードを入れたが、精度は高くなかった。立場的には最後尾から守備の交通整理役を求められたが……

【左SB】長友佑都=5.5点

前半は得意の攻め上がりが影を潜め、相手のウイングバックの対応に四苦八苦した印象。後半もクロスは2本のみで、左サイドからの攻撃を活性化させることができなかった。

【右ボランチ】遠藤航(77分途中交代)=5.5点

前半32分と後半47分にドリブルからチャンスを作ったが、吉田と奇妙なかたちで衝突するなど試合勘を失っていることを露呈。アジア杯時と比べても守備面の貢献も低下した。

【左ボランチ】柴崎岳=6.0点

一歩引いたエリアで的確なポジションをとり、要所で相手の攻撃を潰した。攻撃面では相手のマークに苦しんで得意のパス供給が減少。全体的に物足りないパフォーマンスだった。

【右ウイング】伊東純也(77分途中交代)=5.5点

何度かチャンスに絡んだものの、ホームでのモンゴル戦で見せたパフォーマンスとは雲泥の差だった。環境や対戦相手が変わっても、そろそろ同レベルのクオリティを求めたい。

【左ウイング】原口元気=6.5点

中間ポジションをとることが多かったが、それによって良さが損なわれた。途中から外に張ったことで、持ち前の上下運動と守備面の貢献が復活。直接FKを決めたので+0.5点。

【トップ下】南野拓実=6.5点

自らもらったPKを決め、5試合連続ゴール。スペースで受ける動きからチャンスによく絡んだが、前半14分、前半18分、後半67分の決定機のうち、最低ひとつは決めたかった。

【CF】永井謙佑(87分途中交代)=5.5点

相手DFの裏に走って受けようとしたが、それが効果的に出たシーンはなかった。下がって足もとで受けることもあったが、有効なタメを作れず。結局、自身の良さも発揮できなかった。

【MF】中島翔哉(77分途中出場)=5.5点

伊東に代わって途中出場。2点リードをした状況での出場だったが、いつも通りにプレーしてしまい、試合のリズムも変えられず。このタイミングで起用した指揮官の判断も疑問。

【MF】山口蛍(77分途中出場)=5.5点

遠藤に代わって途中出場。ボランチコンビを組む柴崎より高い位置でプレーし、遠藤の役割をそのまま引き継いだ。柴崎との関係があやふやで、山口の特長とも合致しなかった。

【FW】鈴木武蔵(87分途中出場)=採点なし

永井に代わって途中出場。出場時間が短く採点不能。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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