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ほぼアジア杯時のメンバーで完勝した試合で、本来森保ジャパンが試すべきだったこと【ミャンマー戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

ミャンマーを相手に順当な勝利

 約1年前にスタートした森保ジャパンが、いよいよ最大のターゲットである2022年W杯カタール大会に向けた第一歩を踏み出し、アジア2次予選の初戦を戦った。

 相手は、FIFAランキング135位のミャンマー。アウェー戦とはいえ、33位の日本から見れば明らかな格下相手の試合だ。

 しかも、今回の2次予選グループFで同居するのは、ミャンマー以外ではモンゴル(187位)、タジキスタン(119位)、キルギス(95位)と、日本にとっては過去に例がないほど恵まれた組み合わせ。

「W杯予選は何が起こるかわからない」とは、4年毎に繰り返されるお馴染みのフレーズだが、さすがに今回の2次予選突破に疑問を持つ人はいないだろう。

 そんな格下相手の試合ではあったが、森保一監督はこれまでどおり万全の準備を行ない、ベストメンバーで勝ち点3を手にすることに成功した。スコアは、前半16分の中島のゴールと26分の南野のゴールで、2-0。

 この2ゴールを少ないと見るか十分と見るかは別として、予選はいかに勝ち点を積み重ねるかが最重要という視点に立てば、まずは森保ジャパンが上々の滑り出しを見せたことは間違いない。

 その結果に加えて、内容もほぼパーフェクトだった。

 序盤から日本が相手を圧倒し、試合はハーフコートゲームで展開。日本が相手に許したシュートはわずか2本(実質1本)で、コーナーキックは1本も与えていない。前回大会の2次予選初戦のシンガポール戦(ホーム)が、スコアレスドローで終わって世間を逆の意味で驚かせたことを考えれば、文句のつけようのない内容といえる。

石橋を叩いて渡る森保采配

 森保監督が編成したスタメンも、隙はなかった。ミャンマー戦の5日前に行なわれた国内親善試合のパラグアイ戦とまったく同じ11人。その試合の選手交代策からしても、これまでの森保監督の傾向からしても、予想どおりだった。

 たとえば2018年の国内親善試合の時ように、インターナショナルマッチウィークで行なわれる2試合で、2つのチームに分けてスタメンを編成するのが森保流。つまり、予め決めたことをきっちり遂行するのが基本で、その傾向は今年1月のアジアカップでもはっきり見てとれた。

 グループリーグ1戦目と2戦目をベストメンバーのAチームで戦い、突破を決めたあとの3試合目は控え選手主体のBチームを編成。そして決勝トーナメント以降は、欠場者を除くAチームで最後まで戦い続けるという手法だ。

 本番では文字どおり常にベストを尽くす。点ではなく線で見てみると、これほどわかりやすい監督はいない。そういう意味では、2次予選初戦をターゲットに逆算した場合、本番前の準備試合となったパラグアイ戦のスタメンが、当然ミャンマー戦のスタメンになることはおおよそ見当がつく。

 GKは権田修一。3月のボリビア戦から3戦連続でシュミット・ダニエルが先発したことで正GKが決まったかに思われたが、そこは臨機応変。おそらくヤンゴンの試合ではピッチ状態が劣悪であること、一方的に日本が攻めることを想定したのだろう。森保監督は、ビルドアップ能力に特長があるシュミット・ダニエルではなく、アジアカップも経験している堅実派の権田を妥当にセレクトした。

 最終ラインは鉄板4人、酒井宏樹、冨安健洋、吉田麻也、長友佑都。ダブルボランチは、柴崎岳のパートナーにパラグアイ戦に続いて進境著しい橋本拳人を起用。2列目はお馴染みの3人、堂安律、南野拓実、中島翔哉が並び、1トップに大迫勇也という面々である。

 遠藤航のコンディションがどれほどなのかはわからないが、いわゆる現時点でのベストメンバー。奇しくも、橋本を除けば今年1月のアジアカップにおけるAチームとほぼ同じ面子となった。これを成熟と見るか、停滞と見るか。意見は分かれるところだ。

 そんななか、アジアカップ時と変化している印象を受けたのが、大迫と南野の関係性だ。森保ジャパンの基本布陣は4-2-3-1で、守備時は大迫と南野が並列になって4-4-2に変化する。攻撃時は大迫が前で張り、主にその後方で南野が動き回るというのが基本の立ち位置になっていたが、パラグアイ戦とミャンマー戦ではそれが逆になっている時間帯が圧倒的に増えている。

 大迫が下がってプレーし、そこに相手のマークを引きつけて前線にスペースを作ることで、南野が前線に空いたスペースを有効利用する形だ。大迫のポストプレーが日本の攻撃の生命線であることは相手チームもスカウティング済みだと考えれば、今後もこの形がベースになる可能性は十分考えられる。

 一方のミャンマーの布陣は4-1-4-1。5日に行なわれたモンゴル戦(1-0でモンゴルが勝利)では4-2-3-1だったこと、蓋を開けると4-5-1とも6-3-1ともいえるような並びに見えたことを考えると、対日本を考慮した守備的な布陣といえる。

 もっとも、指揮を執るミオドラグ・ラドゥロヴィッチ監督は今年4月に就任したばかり。アジアカップでレバノン代表を率いていたとはいえ、約半年足らずでチームを成熟させるのは難しく、この試合でも4-1-4-1を機能させることはできていなかった。

 とくに、日本の”おとり”の動きに引っかかり、マーカーが日本の選手について行ってしまうため、ピッチのあちらこちらにスペースが生まれていたのがミャンマーの誤算だった。当然、前回大会のシンガポールのような守備組織もない。日本がアウェーにもかかわらず、労せずチャンスをつくれた理由だ。

唯一ともいえる課題とは?

 序盤からボールを握り、一方的に攻め立てた日本の攻撃は、ロングおよびミドルパスが中心だった。大雨が降る中、しかも長めの芝でピッチが不安定な状態のなか、ダイレクトパスを使って連動性を求めるのは至難の業。そういう点では、シンプルな攻撃でゴール前に迫った日本の攻撃は理に叶っていた。

 中島の先制ゴールは、堂安が相手からボールを奪ったこぼれ球を近くにいた冨安が左サイドの中島に素早く展開。受けた中島がドリブルでカットインして、得意のゾーンから放ったミドルシュートがネットに突き刺さった格好だ。

 もちろん相手GKのレベルが上がれば決まっていたかどうかは怪しいところだが、格下相手の試合におけるミドルシュートやロングシュートの有効性を示したゴールだった。

 逆に、2ゴール目はしっかりとボールをつないでから生まれた日本らしいものだった。

 相手のクリアボールを冨安が胸で落とし、それを柴崎が受けると、その後は橋本、中島、長友、橋本、南野、橋本とパスをつないだところで、橋本が縦パス。堂安がスルーした背後にいた大迫が堂安に預け、堂安がボックス内でシュート。シュートはGKに弾かれたが、リバウンドを受けた堂安が冷静にショートクロスを選択し、南野が頭で合わせたというゴールである。

 ただ長いボールを放り込むのではなく、パスを回して相手を揺さぶってからフィニッシュに持ち込む。5日前のパラグアイ戦のみならず、これまで積み上げてきた攻撃バリエーションは、当たり前の話ではあるが、ミャンマー相手に確実に通用していた。

 森保ジャパンのバロメーターでもある縦パスも、前半から24本を記録。後半も28本だったことからしても、いかに日本がミャンマーを圧倒していたかがわかる。

 さらにサイドからのクロスボールの本数も、前半が11本、後半は19本と、いつになく多かった。

 ただし、クロスからゴールが生まれなかったことは数少ない反省点といえる。とくに後半に19本ものクロスを入れながら、ターゲットに合わせてシュートに持ち込んだのはわずかに1度しかなかった。

 もちろん引いた相手に対してはサイドからの攻撃が有効であることは間違いないが、この試合では、後半にクロスが増えたことが逆に単調な攻撃につながってしまったと解釈することもできる。ピッチ状態が悪かったとはいえ、そこは修正点といえるだろう。

試合をいかに終わらせるか?

 いずれにしても、格下相手に隙を与えず、ワンサイドゲームに持ち込んだ試合のなかで、ひとつだけ気になることがあった。

 2点をリードした状態で迎えた最後の10分間のゲームの進め方だ。

 後半81分、森保監督は中島に代えて久保建英を投入。66分に堂安と代わって右ウイングでプレーしていた伊東純也を慣れない左ウイングに回したわけだが、その交代策は妥当だったのかどうか。

「3点目を目指した」とは森保監督のコメントだが、おそらくW杯予選最年少出場記録がかかっていた久保を気遣っての采配だと思われる。

 ただ、問題はここで本当に攻め続けることが日本にとってプラスになるかという点だ。

 たしかに「W杯予選は何が起こるかわからない」という固定観念に照らしてみれば、あるいはミャンマーに攻撃の糸口がなかったことを考えても、できるだけ多くのゴールを奪いたいという気持ちが沸くのも理解できないわけではない。

 しかし一方で、このように恵まれた2次予選でゴール数が命運を分けるような展開になるとは到底思えない現実を見る必要もある。

 日本に必要とされるのは勝ち点3を手にすることのみ。できれば失点せずに勝利することがベストと考えれば、残り10分間はゲームをコントロールして相手のやる気を失わせることが重要だと思われる。

 これは、歴史的にも日本サッカーが最も苦手としている部分であり、格上のチームが身につけていて然るべき賢い戦い方でもある。森保ジャパンでも、度々指摘してきた課題のひとつだ。

 最初から最後までゴールを目指すことに、あまり意味はない。少なくとも、超がつくほどの格下相手の試合が続く2次予選では、できるだけエネルギーを使わずに勝ち点3を積み上げるのが、本当の強いチームといえるのではないだろうか。

 弱いチームにそれができなければ、拮抗した試合で上手に試合を終わらせることはできない。そのための訓練の場として、このミャンマー戦の展開は最適だった。

 もっと言えば、敢えてベストメンバーで戦わず、2次予選の間は最終予選や3年後のW杯本大会を見据え、新戦力を発掘して即戦力に仕立て上げる作業が求められるのではないか。そういう点で、森保監督の「常にベストを尽くす」手法が、果たして2次予選に相応しいのかどうかを議論する余地はあるだろう。

 アジアカップのAチームで2次予選を戦い続け、1試合ないし2試合の消化試合でBチームを編成しても、そこで即戦力は育たない。日本と他チームの実力差からすれば、Bチームに東京五輪世代の選手を組み込んだチームを編成しても、十分に勝ち点3は積み重ねられるはず。たとえ失敗しても、1度や2度なら十分に取り返す余地が残されているのが、2次予選なのである。

 最終予選以降にマンネリ化を引き起こさず、上昇気流で本番に臨むためにも、いまから長期的な戦略でチーム強化を図る工夫も必要だと思われる。

(集英社 Web Sportiva 9月14日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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