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このままでは森保ジャパンも歴代代表監督が犯した過ちを繰り返す【ミャンマー戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

早くも「絶対に負けられない」モードに突入

 予想通りのスタメンで、予想通りの試合内容で、予想通り日本がミャンマーに勝利して勝ち点3を手にした試合。ヤンゴンで行われたW杯アジア2次予選の初戦となったミャンマー戦をひと言で言えば、そうなる。

 この試合で森保監督は5日前のパラグアイ戦と同じスタメンを編成し、選手もその期待に応えて序盤から相手を圧倒した。ほぼ90分間にわたるハーフコートゲームで、ミャンマーが放ったシュートは実質的に後半54分のミドルシュート1本だけ。

 日本は最後まで隙を見せることもなく、文字通りパーフェクトな試合内容だった。

 30本近くのシュートを記録しながら、前半に奪った2ゴールだけで終わったことを課題とする見方もあるが、相手は超のつくほどの格下ミャンマーである。その相手に8ゴール奪ったところで、チームとしての蓄積、成長を見出すのは難しい。

 これまた超がつくほど恵まれた2次予選の対戦相手(モンゴル、タジキスタン、キルギス)を見ても、最終的にゴール数の差が命運を分けるとは考え難いだけに、勝ち点3をとれば十分。たとえ0-1の勝利だったとしても、まったく問題はない。

 むしろ心配になるのは、そんな相手に対して格上の日本が最初からベストメンバーで戦って、試合終了のホイッスルが鳴るまで必死にゴールを目指し続けたことだ。

 たとえば、仮に大迫がこの試合でハットトリックを決めたところで、彼にとって自信や経験の蓄積になるのか。チームとして攻撃の精度を上げたことになるのか。あるいは最終予選や3年後のW杯本番のための礎になるのだろうか。

 残念ながら、ミャンマー戦はその判断基準にはなり得ない。それが現実だ。2ゴールしか決められなかったことを嘆くことが何の意味も持たないことは明白だろう。

 それよりも、いま大事なことは、最終予選や本番を見据えたチーム力の底上げである。

 ミャンマー戦のスタメン11人は、ボランチの橋本を除けば、今年1月のアジアカップにおけるAチームのメンバーだ。つまり半年以上も前のベストメンバーから、たった1人しか入れ替わっていないのが森保ジャパンの実情だ。遠藤のコンディション次第では、今後1人も変更がない状況に陥る可能性も十分にある。

 その間、森保ジャパンは国内親善試合4試合を戦い、U-22のメンバーを主体にして臨んだコパ・アメリカでも3試合を戦っている。しかしその7試合を経ても、森保監督のベストメンバーは変わらず、結果、アジアカップまで時計の針を戻したことになった。

 しかも、早くも「絶対に負けられない」モードとなったことで、来年の6月まで続くアジア2次予選では、ますます新戦力の発掘が困難な状況を迎えるだろう。たとえ順調に勝ち点を重ね、1試合ないし2試合の消化試合があったとして、そこで得られる成果はたかがしれている。少なくとも、新戦力の発掘、チーム力の底上げには直結しない。

 ジーコ(2006年W杯予選)、岡田(2010年W杯予選)、ザッケローニ(2014年W杯予選)、ハリルホジッチ(2018年W杯予選)。彼らが率いたチームは、いずれも最終予選の前段階の予選からベストメンバーで挑み続け、その結果、メンバーが固定化されたまま最終予選の途中から失速し、チーム力が低下する中で本番を迎えている。

 本番直前の戦術変更(2010年)、あるいは監督交代(2018年)という賭けに出た時はそれが奏功してグループリーグ突破を遂げたが、博打を打たずにまっとうに本番を迎えたジーコとザッケローニは、本番で涙を呑むこととなった。博打ありきの強化など、本末転倒もはなはだしい。

 本来なら、この悪しきサイクルから一刻も早く抜け出さなければならないはず。そのためには、取り返しのつきやすい2次予選の間に、その先の即戦力を見出す試みはあってしかるべきだろう。

 3年後の本番を見据えた長期的な視点と、目の前のチームをいかに強化するかという短期的な視点。欧州や南米と違い、ダブルスタンダードの中での強化を強いられる日本にとって、いま必要とされるのは、その2つの視点を同時に持ちながらチーム強化を進めることだと思われる。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】権田修一=5.5点

パラグアイ戦に続くスタメン出場。前半はプレー機会がなかった影響で終了間際にキックミス。後半もシュート1本を防いだ以外にプレー機会が少なく、終始無難にプレーした。

【右SB】酒井宏樹=5.5点

相手の攻撃機会が少なく、守備面では見せ場はなかった。得意のクロスボールなど攻撃面で決定的な仕事はできなかったが、ピッチコンディションを考えるとそれもやむなし。

【右CB】冨安健洋=6.0点

16分には中島へ正確なパスを通し、そこから先制ゴールにつながった。守備でも安定したプレーを見せ、攻撃意識も高かった。24分のCKでは惜しいヘディングシュートもあった。

【左CB】吉田麻也=6.0点

相手に攻撃を許さず、終始隙のないディフェンスを見せてチームを統率した。攻撃面ではセットプレーから惜しいボレーシュートもあった。71分の伊東へのフィードも秀逸だった。

【左SB】長友佑都=5.5点

立ち上がりから積極的な攻撃参加を見せてチャンスに絡んだが、ピッチコンディションの悪さもあってクロスの精度は高くなかった。守備では危なげないプレーを続けてフル出場。

【右ボランチ】橋本拳人=6.0点

相手の攻撃の芽を摘むだけでなく、この試合では積極的に攻撃に絡んでミドルシュートも狙った。26分には大迫に縦パスを入れ、それが起点となって日本の2ゴール目が生まれた。

【左ボランチ】柴崎岳=6.0点

的確なポジショニングと絶妙なパス供給でチームの“へそ”の役割を遂行した。相棒の橋本を生かすための黒子役も演じ、前戦同様にボランチとしてワンランクアップしている。

【右ウイング】堂安律(66分途中交代)=6.5点

後半66分にベンチに下がったが、上々のパフォーマンスを見せた。特に26分の南野のゴールを生んだアシストは◎。自ら決めることはできなかったが、連携も含めて及第点以上。

【左ウイング】中島翔哉(81分途中交代)=6.5点

ピッチコンディションが悪い中でも技術の高さを示した。先制ゴールは得意のゾーンでカットインからミドル弾。ベンチに下がるまで得意のドリブルを武器に他との違いを見せた。

【トップ下】南野拓実(76分途中出場)=6.5点

26分に堂安のアシストからヘディングシュートを決めた。大迫と前後に入れ替わるプレーもバリエーションが豊富で、多くのチャンスに絡んだ。欲を言えばもう1点はほしかった。

【CF】大迫勇也=6.0点

チャンスで決められなかったシーンはあったが、終始安定したパフォーマンスを見せた。このレベルの相手から大迫レベルの選手が得られるものは少ない中、集中力を保ち続けた。

【MF】伊東純也(66分途中出場)=5.5点

堂安に代わって右ウイングでプレー。停滞した攻撃を活性化させたかったが、71分にはビッグチャンスを逃すなど決定的な仕事はできず。久保投入後は左ウイングに移ってプレー。

【FW】鈴木武蔵(76分途中出場)=5.5点

南野に代わって途中出場し、大迫と2トップ気味にプレーした。左サイドに空いたスペースで何度かパスをもらって攻撃の起点となったが、特筆すべき仕事はできずに終わった。

【MF】久保建英(81分途中出場)=採点なし

中島に代わって途中出場し、右ウイングでプレー。伊東が左ウイングに移った。出場時間が短くプレー機会も少なかったため、採点不能。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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