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3連覇の可能性は? ペップ率いるシティはプレミアリーグ史上2チーム目となる偉業を達成できるか?

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

F・マリノス戦は開幕前の総仕上げ

 マンチェスター・シティが横浜F・マリノスを3−1で下した「EUROJAPAN CUP 2019」は、両チームにとって、そしてこの日スタジアムを埋めた6万5千人を超える大観衆にとっても、とても有意義かつ中身の濃い90分間となった。

 とりわけ8月4日のリバプールとの「コミュニティ・シールド」(結果は1-1。PK戦の末、シティが優勝)で新シーズンの幕開けを迎えるマンチェスター・Cにとって、この試合は最後のプレシーズンマッチ。ハーフタイムに大幅な選手交代を行なうのが通常とされるプレシーズンマッチにおいて、マンチェスター・C率いるペップ・グアルディオラ監督が後半60分まで交代カードを1枚も切らなかった理由はそこにある。

 それは、指揮官の頭にあるこの試合の位置づけを意味すると同時に、この類(たぐい)の興行試合では珍しく見応えのあるスペクタクルマッチになった背景のひとつにもなった。

 さらに、彼らを迎え撃つ横浜FMのプレースタイルも、大きくそこに関与した。

「マリノスの試合をいくつか見たが、現時点でリバプール戦に向けたテストマッチとしては理想的なものになるだろう。彼らは攻撃的なメンタリティを持ち、ハイプレスをかけてくるチームで、よく組織されている。両チームとも同じフィロソフィーを持ったチームなので、すばらしい試合になることは間違いないだろう」

 前日会見でそう語ったのはグアルディオラ監督だが、実際、試合は序盤からそのとおりの見応えのある展開となった。

戦術バリエーションの違い

 お互い前から積極的にプレスを仕掛け合い、高いディフェンスラインをキープ。その背後に大きく空いたスペースをカバーするのは、マンチェスター・Cのクラウディオ・ブラボと横浜FMのパク・イルギュというプレーエリアの広い両GKの存在だった。

 いかに前からのプレスをかいくぐり、ボールを前進させて相手の背後を突けるのか。試合展開の行方を大きく左右したその部分においては、やはりマンチェスター・Cのほうが一枚も二枚も上手だった。

 試合後、グアルディオラ監督が「相手のプレスのかけ方はわかっていたので、今日はホールディング・ミッドフィルダー(ボランチ)を2枚にする決断を下した」と振り返ったように、この試合のシティは4−2−3−1を採用。4−3−3を基本布陣とするなかで、オプションの布陣を使うことによって相手のプレスをかわす術(すべ)をしっかり用意していた。

 前半9分。前からプレスをかけてくる横浜FMに対し、一度GKブラボにボールを下げたマンチェスター・Cは、GKから右CBジョン・ストーンズにボールをつなぐと、ストーンズから中央でフリーになったケヴィン・デ・ブライネに速い縦パスが入る。すると、デ・ブライネは素早く右ウイングのベルナルド・シウバに縦パスを送り、一気に相手の背後を突く攻撃からチャンスを構築した。

 惜しくもベルナルド・シウバからのクロスはFWレロイ・サネに合わなかったが、それはこの日のチームとしての狙いを見事に体現したシーンだった。

 そして18分に生まれた先制ゴールのシーンでは、それとは異なる方法でプレスをかわし、チャンスを作った。それまで時折見せていたGKブラボからのロングフィードによって、ディフェンスラインの背後を一気に突くロングカウンターである。

 そのボールを受けたベルナルド・シウバのトラップとボールキープによるタメ、その間にスペースに走りこんだデ・ブライネのビジョンと、その後のドリブルとシュートの精度。チーム戦術のみならず、そこに高い個人能力が加わったことで、あっという間にゴールネットを揺らした見事なシーンだった。

「ボックス内で決められるシティと、決められない我々の差が出た」とは、試合後のアンジェ・ポステコグルー監督(横浜FM)のコメントだが、目下プレミアリーグ2連覇中のマンチェスター・Cの強さは、世界屈指の名監督が構築する精密なチーム戦術のみならず、高い個人能力を持つワールドクラスの選手たちの存在によって成り立っていることがあらためて証明された格好となった。

シティにプレミア3連覇の可能性

 そもそも今回の来日メンバーには、コパ・アメリカとアフリカ・カップオブネーションズに出場した影響で合流が遅れている多くの主力が不在だった。FWセルヒオ・アグエロ、FWガブリエル・ジェズス、FWリヤド・マフレズ、MFフェルナンジーニョ、DFニコラス・オタメンディ、そしてGKエデルソンという豪華な面々がそれにあたる。

 この試合でプレーした選手たちに、彼ら不在組が合流することを考えると、マンチェスター・Cの選手層の厚さがよくわかる。

 さらに今シーズンからは、この試合でダブルボランチの一角としてプレーしたスペイン代表ロドリがアトレティコ・マドリードから加わった。また、右サイドバックのダニーロをユヴェントスに放出した代わりに、同クラブからジョアン・カンセロを獲得。さらに度重なる負傷により計算できない左SBバンジャマン・メンディのバックアップには、PSVからアンヘリーニョを買い戻すことで、ファビアン・デルフ(エバートン)が抜けた穴を埋める。

 プレミアリーグ3連覇を狙うに十分な戦力。左サイドバックの駒に不安を残すものの、昨シーズンに国内三冠を達成した”ペップ・シティ”は、次なる野望であるチャンピオンズリーグ優勝に向けた陣容を整えつつあると見て間違いないだろう。

 ちなみに、これまでプレミアリーグで3連覇を果たしたクラブは、1998−1999から2000−2001と、2006−2007から2008−2009の2度成し遂げたマンチェスター・ユナイテッドのみ。いずれもサー・アレックス・ファーガソン監督時代の偉業である。

 つまり、今シーズンにマンチェスター・Cが3連覇を果たせば、史上2チーム目のプレミア3連覇を成し遂げたクラブとして、またそれを成し遂げた監督として、マンチェスター・Cとグアルディオラ監督は歴史に名を刻むことになる。

 今シーズンで就任4年目を迎えるグアルディオラ監督の現在の契約は、2020−2021シーズンまで。迎える2019−2020シーズンの行方次第では、史上初のプレミア4連覇の可能性が残されるわけだが、現在のマンチェスター・Cの圧倒的な強さを考えると、世界一厳しいリーグでその偉業を成し遂げる可能性は低くはないはずだ。

(集英社 Web Sportiva 7月28日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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