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重く圧し掛かる補強禁止処分。ランパード新監督率いるチェルシーはビッグネーム不在で新シーズンに挑む

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

サッリ前監督が残した遺産

「プレシーズンは、どうしても調子が上がるまでに時間がかかる。細かく見ればいろいろと修正するところがあると思うが、しかし自分はもっと長い目で見ているし、全体的にはいい試合だったと思っている」

 試合後の会見でそう語ったのは、後半87分のレアンドロ・ダミアンの決勝ゴールによって川崎フロンターレに不覚をとった、チェルシー率いるフランク・ランパード新監督だ。

 チームが始動してまだ10日しか経っておらず、しかも来日したのが試合の3日前だったことを考えれば、確かに指揮官が振り返ったように、0−1という結果自体を気にする必要はまったくない。

 むしろ、慣れない高温多湿な悪条件下にもかかわらず、前半15分を過ぎたあたりから見せたチームのパフォーマンスに、ある程度の手応えを感じていたのではないだろうか。とくにその中心にいたダブルボランチ、マテオ・コヴァチッチとジョルジーニョの存在は、クラブのレジェンドを新監督に招聘して心機一転を図る新星チェルシーにとって、極めて重要なピースであることをあらためて証明した。

 序盤こそ相手の出方を伺っていたチェルシーは、エンジンが温まった後は中盤を支配。ボールを保持し、鋭い縦パスやスルーパスからチャンスを作って形勢を一気に逆転させた。ペドロ、ケネディ、あるいはミシー・バチュアイが放ったシュートはいずれもネットを揺らすには至らなかったが、それら多くのチャンスの起点となっていたのが、コヴァチッチとジョルジーニョのふたりだった。

 ある意味、彼らこそがマウリツィオ・サッリ前監督が残した遺産であり、大役を任された監督キャリア2年目の若き指揮官にとっての頼みの綱とも言える。

 しかしその一方で、今シーズンのチームには、近年にチェルシーが築き上げたビッグクラブのイメージとは異なる”小粒感”が漂っていたのも確かだった――。

チェルシーの輝かしき15年

 ロシアの大富豪ロマン・アブラモヴィッチがチェルシーを買収し、翌年にチャンピオンズリーグを制したばかりのジョゼ・モウリーニョ監督をポルトから強奪したのは、2004年6月のこと。今から15年も前の話になる。

 すると、そのシーズンには年間勝ち点95ポイントを記録して50年ぶりのリーグ優勝を果たしたほか、リーグカップも制して二冠達成。そこが、自他ともに認めるビッグクラブとしての歴史のスタート地点となった。

 そこからプレミアリーグ優勝5回、FAカップ優勝5回、リーグカップ優勝3回、そして2011−2012シーズンにはチャンピオンズリーグ初優勝の偉業を成し遂げ、ヨーロッパリーグでも昨シーズンも含めて2度優勝を経験した。

 この輝かしき15年間で指揮を執った監督も豪華絢爛。ルイス・フェリペ・スコラーリ、フース・ヒディンク、カルロ・アンチェロッティ、アンドレ・ビラス・ボアス、アントニオ・コンテ、そしてモウリーニョは2度監督を務めた。いずれも、その時代においては旬な人物に数えられた屈指の名将たちである。

 もちろん、この間にピッチを彩った選手も華やかだった。フェルナンド・トーレス、ディディエ・ドログバ、エルナン・クレスポ、アンドリー・シェフチェンコ、アリエン・ロッベン、クロード・マケレレ、ミヒャエル・バラック、マイケル・エッシェン、ペトル・チェフ……。

 そして、これらワールドクラスがひしめく多国籍スター軍団を統率し、チームの大黒柱として君臨していたのが、ランパード現監督であり、ジョン・テリーだった。彼らこそがこの黄金期を象徴するレジェンドであり、真のリーダーだったことに疑いの余地はない。

ビッグネーム不在の今シーズン

 0−0で迎えた後半、ランパード監督はダブルボランチをそのまま残しつつ、それ以外のポジションで大幅な入れ替えを行なった。ピッチに登場したのは、ロス・バークリー、エメルソン、ダヴィデ・ザッパコスタ、アンドレアス・クリステンセン、オリヴィエ・ジルーという面々だった。

 確かにハイクオリティな選手であることは間違いない。だが、チームの決め手となるようなビッグネームではないことは明らかである。

「現在は補強禁止処分中なので、選手ひとりひとりをしっかり評価していかなければならない」とは、試合後のランパード監督のコメントだが、そこには苦しい台所事情が透けて見える。

 少なくとも、故障中のエンゴロ・カンテやアントニオ・リュディガー、コパ・アメリカのために合流が遅れているウィリアンといった主力が加わったとしても、真のワールドクラスであるエデン・アザールをレアル・マドリードに手渡し、経験豊富なゴンサロ・イグアインもユベントスに復帰した現チームには、大事な場面で違いを生み出せるビッグネームが不在となってしまったことは間違いない。

 そこでカギとなるのは、やはりランパード監督の手腕になるだろう。もちろん、ランパードの監督キャリアはまだチャンピオンシップ(2部)のダービー・カウンティで采配を振るった昨シーズンのみゆえ、この15年間に指揮を執った名将たちとは比較する材料さえないというのが現状だ。

 それを考えれば多くを期待するのは酷かもしれないが、監督としての潜在能力は未知数だけに、新生チェルシーがどのようなサッカーを見せるのかという部分については、楽しみな要素が多いのも確かである。

 アブラモヴィッチがクラブを買収して以来、暫定監督を除いて初となるイングランド人監督は、7月23日に埼玉スタジアムで行なわれるバルセロナ戦で、どのような采配を見せるのか。

 たとえプレシーズンマッチとはいえ、チャンピオンズリーグで対戦する可能性もある相手との試合では、来日直後の川崎戦とは違ったベンチワークが求められる。

(集英社 Web Sportiva 7月20日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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