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マルセイユの酒井宏樹とトゥールーズの昌子源。2人の日本代表DFが今季のリーグアンで残した爪痕

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

2年連続のデュルビ・デュ・ジャポネ

 パリ・サンジェルマンの2連覇で幕を閉じた今シーズンのリーグアンだが、日本人サッカーファンにとって大きなトピックとなったのが、昨シーズンに続く新たな「日本人ダービー」の実現だったのではないだろうか。

 2018-2019シーズンの第37節。今シーズンの冬からリーグアンに参戦したトゥールーズの昌子源と、2016年夏以来すでに加入3シーズン目となったマルセイユの酒井宏樹による直接対決。昨シーズンにリーグアン史上初めて実現したマルセイユの酒井宏樹vsメスの川島永嗣(現ストラスブール)に続き、今度はフィールドプレーヤー同士の「デュルビ・デュ・ジャポネ(日本人ダービー)」である。

 

 ちなみに、リーグアンにおけるフィールドプレーヤー同士の日本人ダービーは、過去に例がない。2005-2006シーズンにマルセイユの中田浩二とルマンの松井大輔、2009-2010シーズンにはグルノーブルの松井大輔とレンヌの稲本潤一による日本人ダービーの可能性はそれぞれあったが、残念ながら同時にピッチに立つどころか、ふたりがともにメンバーリストにエントリーされたこともなかった。

 そもそも、リーグアンでプレーする日本人選手自体が少数ゆえ、さもありなん。しかし今回にかぎっては、ふたりにケガさえなければ日本人ダービーの実現は濃厚と見られていた。マルセイユの酒井にしても、トゥールーズの昌子にしても、お互いチームでは欠かせない戦力としてレギュラーを張り続けているからだ。

 しかも、酒井はサイドバック、昌子に至ってはセンターバック。ヨーロッパ屈指の激しさと、他では経験できないような独特なフィジカルバトルがピッチ上で頻発するリーグアンにおいて、日本人ディフェンダーが“普通に”渡り合っていること自体が、贔屓目なしで賞賛に値する。

 それだけに、直接のマッチアップは望めないにしても、この試合でそれぞれが自分の特長をどれだけ出せるかが注目された。

3季分の経験の差を見せつけた酒井

 かくして、軍配はリーグアンの経験で勝る酒井に上がった。しかも、自身リーグアン初ゴールに加えて1アシストのおまけ付き。対峙したマックス・グラデルに苦しめられるなどディフェンス面でマイナス材料はあったが、おそらくリーグアン出場94試合目を数える酒井にとって、過去最高のパフォーマンスを後輩の目の前で見せつける結果となった。

 圧巻は、1-1で迎えた50分の逆転ゴールだった。

 敵陣深い位置で相手のクリアをカットした酒井が、近くにいたフロリアン・トヴァンにボールを預けると、そのまま斜めに動いてボックス内にポジション移動。一方、ボールをもらったトヴァンは逆サイドにクロスを入れ、それをルーカス・オカンポスがヘッドで折り返すと、そのボールをボックスの外から酒井がダイレクトで左足一閃。シュートは見事、ゴール右隅に突き刺さった。

 注目は、そのゴールが得意の右足ではなく、左足によるものだったこと。これは、昨シーズン後半戦から時折プレーしている左サイドバックの経験の賜物と言っていいだろう。シュートを狙うにしても、かつての酒井なら、あの場面では一度トラップをしてから右足ベースで次のプレーを選択していた。だが、今回は迷わず左足で直接放っている。

 昨シーズンは左サイドバックでのプレー時に負傷したこともあり、当初はやりづらそうに見えた左サイドバックでのプレーだが、最近では左足でクロスに持ち込むシーンも少しずつ増加。トヴァンにボールを預けた後のポジショニングといい、ここにきてプレーの幅は確実に広がっていると言えるだろう。

 現在マルセイユとの契約延長交渉が注目されているが、酒井にとってマルセイユは、相当に居心地の良いクラブとなっていることは間違いなさそうだ。来シーズンからはポルトガル人のアンドレ・ビラス・ボアスが新監督に就任することが発表されたが、新しい指揮官の下で酒井がどのような進化を見せてくれるのか、いまから楽しみだ。

今季の昌子が画期的である理由

 一方、フランスで進化を続ける先輩の姿を見て、昌子は何を思ったか――。そこが、酒井の圧勝に終わった今回の日本人ダービーの隠れた注目ポイントでもある。

 この試合の昌子は、ほとんど見せ場を作れなかった。チーム内で最も定評のある、最終ラインからのビルドアップおよびロングフィードについても、チームが押し込まれる時間帯が長かったこともあり、効果的なプレーはほんの数回。昌子とグラデルのホットラインが酒井に読まれて、遮断されてしまう場面もあった。

 不運だったのは、格上マルセイユがリーグで最もサイドからのクロスボールを多用するチームだったことだろう。それにより、ゴール前の空中戦はCBクリストファー・ジュリアンやボランチのイブラヒム・サンガレなど、190cm以上の選手の出番が増える。こぼれ球の対応を含め、昌子はボックス内で難しい対応を強いられた。

 また、2-2で迎えた76分には、目の前で酒井のピンポイントクロスを途中出場のクリントン・エンジに決められて逆転を許し、90分にはそのエンジのスピードに対応しきれず、トヴァンのゴールをアシストされてしまった。最終的にホーム最終戦を2-5で大敗してしまったことも含めて、試合後に昌子が味わった悔しさは想像に難くない。

 とはいえ、この試合で喫した5失点のうち、昌子個人で対処できたと思われるのは4失点目のシーンくらいで、それ以外はチーム全体の問題が大きい。その失点にしても、エンジのスピードを事前情報として把握できていれば、ロングボールを入れられたときのポジショニングも違っていたはずで、それほど悲観する必要はないだろう。

 なにより、初めてのヨーロッパ、しかも規格外のアタッカーが多いリーグアンでまだ半年も経過していないなか、第21節(1月19日)のスタメンデビュー以来、フランスカップも含めた全20試合連続で先発フル出場を続けたことは、画期的と言える。

 今シーズンの出場時間は1620分(リーグ戦)。4バックのセンター、3バックのセンター、3バックのサイドなど、あらゆるポジションでプレーし続けていることも、アラン・カサノヴァ監督から全幅の信頼を寄せられている証拠だ。しかも、トゥールーズのクリーンシートが、昌子加入前と後では3試合から6試合に倍増したという事実も見逃せない。

昌子の課題と来季への期待

 そんな昌子にとって喫緊の課題として挙げられるのは、仕掛けてくる相手に対する1対1の対応だ。同じく5失点を喫した第27節の強豪リヨン戦で、ムサ・デンベレの仕掛けにきりきり舞いにさせられた。以降、それまで順風だった昌子は、単独の仕掛けに躊躇するアタッカーがほとんどいないリーグアンならではの大きな壁にぶち当たった。

 間合いをとって下がりながらコースを切っていく、教科書どおりの対応だけでは通用しない。それは本人も理解しているはずで、実際、相手に前を向かせないように身体をつけて対応する工夫も見られるようになった。だが、それを相手に読まれて、あっさり裏を取られてしまうシーンもある。

 どれくらいの間合いをとって、どのタイミングでアタックするのがベストなのか。相手の能力やプレースタイルによって異なるだけに、センターバックにとっては悩ましい問題だ。もちろん、相手のプレースタイルなどを細かくチェックしてから試合に臨むことも、改善のカギになるだろう。

 パリ・サンジェルマンのキリアン・ムバッペは世界の一流センターバックでも手に負えない別次元の選手なので仕方ないとしても、それ以外のエース級アタッカーに対して自分の間合いで対応できるようになることが、次のステップとなりそうだ。

 幸い、チームは最低ノルマのリーグアン残留は達成した。トゥールーズはシーズンごとに大幅なメンバーの入れ替えを行わず、継続性を持ったチーム作りをするクラブだけに、気を緩めなければ来シーズンも昌子が居場所を失うことはないだろう。

 いずれにしても、リーグアンの先輩でもある酒井に、3年間の積み重ねの結晶を見せつけられたこの試合は、昌子にとって大きな意味を持つ。今回味わった実力差、そして屈辱をモチベーションに、おそらく来シーズンも実現するであろう日本人ダービー第2ラウンドで、今度は昌子がどれだけの成長を酒井の目の前で見せつけることができるのか。

 来シーズンも、リーグアンで活躍するふたりの日本人ディフェンダーから目が離せない。

(集英社 Web Sportiva 5月20日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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