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終盤戦の思わぬ大失速で見えたパリ・サンジェルマンの課題。トゥヘル監督が来季に改善すべき問題点とは?

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

今季を象徴するワードは「竜頭蛇尾」

 パルク・デ・プランスで行われた今シーズンのホーム最終戦のディジョン戦(第37節)を4-0で快勝し、試合後のセレモニーでリーグアン王者に授与される優勝トロフィー「ヘキサゴール」を掲げた絶対王者パリ・サンジェルマン(パリ)。しかし、すっかり恒例となったド派手な優勝セレモニーも、今回は控えめな印象だった。

 4月21日に行われたリーグアン第33節。振り返れば、15時キックオフで行われたトゥールーズ対リールの試合がゴールレスドローに終わった瞬間、その4時間後にパルク・デ・プランスにモナコを迎えたパリのリーグアン優勝が決定するという肩透かしもあった。

 2年連続通算8度目のリーグタイトルは、長いシーズンのハードワークの末に勝者だけが味わえる美酒としては、実に微妙な味わいになったのである。

 そもそも、パリが最初に優勝に王手をかけたのは第31節のストラスブール戦だった。ところが、勝てば優勝が決まるという条件下で、不覚にもホームの大観衆の前でスモールクラブ相手に2-2のドロー。

 さらに翌週の2位リール戦では、前半36分にフアン・ベルナトが退場したことも影響し、5-1という歴史的大敗を喫して優勝が持ち越しになっている。

 その3日後、3度目の正直で臨んだはずの延期試合でも、指揮官ヴァヒド・ハリルホジッチが家庭の事情で試合を欠席したナントに対して、3-2の敗戦。どちらもアウェーとはいえ、リーグ戦で連敗を記録したのは2011年11月以来の失態だった。

 もっとも、国内では無敵を誇るはずのパリがこのような事態に陥った最大の要因は、大事なシーズン終盤戦にきて故障者が続出したことにあった。ネイマール、エディンソン・カバーニ、アンヘル・ディ・マリア、チアゴ・シウバ、マルキーニョス、マルコ・ヴェラッティ、トマ・ムニエ、ユリアン・ドラクスラー……。

 入れ代わり立ち代わりで主力が戦列を離れたため、2月以降はリーグアンのベンチ要員規定の7人を満たすことさえままならず、「スタメン11人+サブ5、6人」で試合に臨まざるを得ないケースが日常化していたのだ。

 最大の売りであるMCNトリオ(キリアン・ムバッペ、カバーニ、ネイマール)の競演も、9-0という歴史的大勝を収めた1月19日のギャンガン戦以来、実現していなかった。

 MCNが久しぶりに同じピッチに立ったのが、優勝決定後に行われた冒頭のモナコ戦になるとは、何とも皮肉な話だ。そういう点も含めて、今シーズンのパリを振り返ると「竜頭蛇尾」というキーワードが浮上してくる。

CL第5節リバプール戦が今季のピーク

 とりわけ前半戦のパリは、カタール資本になって以降の8シーズンで出色の成績だった。

 メンバーと戦術を試合ごとに、あるいは試合のなかでも目まぐるしく変えるトーマス・トゥヘル新監督の采配が冴えわたり、前人未到のリーグ開幕14連勝をマーク。トッテナム(イングランド)が1960-1961に記録した開幕11連勝というヨーロッパ5大リーグの記録を塗り替えたときは、今シーズンのパリなら悲願のチャンピオンズリーグ(CL)4強入りも確実で、優勝の可能性さえあると見られていた。

 しかも、不安視されていたトゥヘルとスター選手たちの関係は極めて良好で、チームにはかつてなかったほどの団結力が生まれていた。選手の不満の声が外部に漏れることが日常茶飯事となっていたパリの悪しき伝統を、トゥヘルはあっさりと封じ込めることに成功したのである。

 そんな今シーズンのパリの強さが凝縮されていたのが、CLグループステージ第5節、ホームでのリバプール戦だった。現在もCLとプレミアリーグの二冠を狙える位置にいるリバプールを、電光石火の攻撃と強度の高い組織的守備によって粉砕したその試合は、今シーズンのパリにとって文句なしのベストマッチと言えた(2-1で勝利)。

 時は2018年11月28日。パリが絶好調の時期である。

 今になって振り返ると、その試合をピークに、パリの勢いは少しずつトーンダウンした印象を受ける。それを暗示していたのが、リバプール戦の4日後に行われた第15節ボルドー戦と、翌16節ストラスブール戦で演じた2戦連続ドローだった。

 負ければ敗退という崖っぷちの大一番で勝利を手にしたパリが、”気の抜けた”状態で戦った2試合だ。リーグ連勝記録も、そのボルドー戦でストップした。

 もちろん、その後CL第6節のレッドスター・ベオグラード戦(12月11日)で勝利を収めてグループリーグ突破を果たしているため、チームの勢いが急降下したわけではない。ただ、年明け間もない1月9日のリーグカップ準々決勝では、リーグ戦で下位に沈むギャンガン相手にまさかの敗戦。5年間守り続けていたタイトルをあっさり手放したことは、明らかな異変と言える。

 そしてリーグ戦初黒星が生まれたのが、2月3日の第23節リヨン戦だ。1月23日のフランスカップ、対ストラスブール戦で負傷したネイマールが再び長期の戦線離脱を強いられるというショックがあった直後とはいえ、暗転の兆しは確かにあった。

 そういう点で、2月12日に行われたCLラウンド16第1戦、アウェーで完勝したマンチェスター・ユナイテッド戦が”最後の灯”だったのかもしれない。その直前、第24節のボルドー戦でヴェラッティとカバーニが負傷してしまい、大事な一戦を欠場することになったのも、暗転の流れのなかにあったアクシデントのひとつだったと言える。

 そして、誰もが勝利を疑わなかったCLラウンド16第2戦で、2軍同然のユナイテッドに対して3ゴールをプレゼントして敗退。結局、この珍事を起こしてしまったのも、こうして時間軸に沿って振り返ってみると、必ずしも不可解な出来事とは言えない。

終盤の失速の原因と来季への希望

 CL敗退が決定して以降のパリが、「野戦病院」と化した原因。その背景には、知らず知らずのうちに溜まっていた前半戦の疲労があったと見るのが自然だろう。そこに、トゥヘル新体制の落とし穴が潜んでいた気がしてならない。

 5年に渡ってほぼ同じ戦術をベースにチーム作りが行われ、頭も体もそのルーティンにどっぷりと浸かっていたパリの選手にとって、新体制になった今季、毎試合フレッシュさを求められるトゥヘルのサッカーは確かに刺激的ではあった。選手もその新鮮さに引き込まれ、それによって近年稀に見るハイパフォーマンスを披露することもできた。

 しかし、その反動はシーズン後半戦になって雪崩のように襲ってきた。この事態にクラブは新しいドクターと契約して問題の解決を図ってはいるが、事はそれほど単純ではなさそうだ。少なくとも来シーズンは、CLでも最後に笑うための長いシーズンの戦い方を新たにプラニングする必要はあるだろう。

 CL敗退の直接的戦犯ではないものの、それがトゥヘル監督に与えられた来シーズンに向けた課題であることは間違いない。

 そんななか、ただひとり例外だったのが20歳のキリアン・ムバッペだった。モナコでブレイクしてからまだ3シーズン目でしかない彼が、次々と最年少記録を塗り替え、5試合を残してリーグ戦30ゴールをマークしている事実は、今シーズンのパリにとって最大のトピックと言える。

 今では、その市場価値はネイマール以上。ハットトリックを決めたモナコ戦後に、来シーズンもパリでプレーすることを公言したことが、おそらく微妙な美酒を味わうことになったパリサポーターにとって、今シーズン最高のご褒美になったはずだ。

 まだ限界を知らない20歳の「怪物」と、ネイマールと、カバーニと。フルシーズン稼働すれば、来シーズンのMCNはさらなる進化を遂げ、より多くのゴールを量産するだろう。

 それだけに、指揮官が以前から熱望している守備的ミッドフィルダー、センターバック、ゴールキーパーのビッグネームの補強が、今夏の注目の的となりそうだ。

(集英社 Web Sportiva 4月26日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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