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カタール戦の敗因は明らか。日本サッカー協会に求められる森保監督に対する客観的評価【カタール戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

1対3は内容に相応しいスコアか?

 UAEで開催されたアジアカップ決勝戦。通算4度の優勝を誇る日本と初優勝を目指すカタールの一戦は、大方の予想を覆し、1-3でカタールが勝利した。昨年7月に発足した森保ジャパンにとって、それは12戦目にして初めて喫した黒星だった。

 アジアカップやW杯を含めた国際経験、FIFAランキング、スタメンの所属クラブ、そして決勝前の休養日が1日多いことも含めて、本来は日本に死角はなかったはず。

 しかし、勝敗を決めるのは両チームの総合力だけに限らないのがサッカーだ。予想外の展開、たったひとつのプレーで両チームの明暗が分かれることはよくあることで、それは日本が3-0で勝利した準決勝のイラン戦でも証明されている。

 そういう意味では、日本にとっての決勝戦は、準決勝で対戦したイランと逆の立場になったと受け止めることもできる。

 実際、今回の決勝戦を改めて掘り下げてみると、そのイラン戦と同様、試合内容では日本とカタールの間にスコアほどの差はなかったことが浮かび上がってくる。1-3という結果に終わったため、日本がカタールに完敗した印象を受けてしまいがちだが、実際のところは内容ではほぼ互角だった。

 前半はカタールのペースで、後半は日本のペース。おおよそこの試合を大きく2つに分けると、そうなる。むしろスタッツを紐解いてみると、日本がカタールを上回った項目は多い。

 たとえば1試合トータルのシュート数では日本の12本に対してカタールは9本(枠内シュートは1本対3本)。ボール支配率は日本の61.5%対カタールの38.5%で、パス本数でも493本対327本(パス成功率は83%対75.8%)。タックル数では11対21(タックル成功率は72.7%対76.2%)とカタールに軍配は上がったが、コーナーキック数も含めた攻撃面におけるスタッツの多くで、日本はカタールに勝っていた。

 敢えて「たられば」の話をすれば、もし前半12分の19番(アルモエズ・アリ)のオーバーヘッドシュートがポストを直撃したあとにボールが枠外に転がっていれば、あるいは、もし後半80分のコーナーキックでボールが吉田の手に当たっていなかったら、試合はどっちに転んでいたか分からない。

 そもそもカタールとほぼ互角だったこと自体が問題だったと言えるが、とにかく1-3というスコアに相応しい内容だったとは言い切れない試合だったことは間違いない。

 では、勝敗を分けた要素はどこにあったのか? 実はそこが、今大会で浮き彫りになった森保ジャパン最大の問題点になる。

クローズアップされた布陣の噛み合せ

 まず、この試合の日本のスタメンは、予想通りAチームの編成だった。準決勝からの変更は、その試合で負傷交代した遠藤航に代わって、塩谷司が右ボランチに入った点のみ。システムも、これまで通りの4-2-3-1を採用した。

 一方のカタール率いるフェリックス・サンチェス監督は、準決勝までの6試合で3つのシステムを使い分けて勝ち抜いてきた。グループステージの1、2戦(レバノン戦、北朝鮮戦)は4-3-3、3戦目のサウジアラビア戦と準々決勝の韓国戦は5-3-2(3-5-2)、そしてラウンド16のイラク戦と準決勝のUAE戦は4-2-3-1だった。

 そんななか、今大会の傾向として、格下には攻撃的な4-3-3、互角の相手に対してはバランスをとりながら応用も効かせやすい4-2-3-1、格上に対するときは守備に重きを置いた5-3-2、というパターンでシステムを使い分けていると読み取ることもできた。

 つまり、格上日本との決勝戦では、同じ4-2-3-1を採用した韓国に金星を挙げた試合と同じ、5-3-2を採用する可能性が高い。そう予想するのが妥当だった。

 果たして、実際に5-3-2で日本に挑んできた相手に対し、森保ジャパンは序盤から苦戦を強いられる展開となった。とりわけ敗戦後にクローズアップされたのが、日本の「4-2-3-1」と、カタールの「5-3-2」の噛み合せの問題だった。それにより、日本の前からのディフェンスが機能せず、結果的に相手に主導権を握られたなかで2失点を喫した、とする見方である。

 試合後の会見でその点を問われた森保監督は、「カタール戦に向け、5バック、3バックでくる相手であることを想定の中に入れながら準備をしたが、選手が思い切ってプレーできる状態にまで準備できなかったことは自分の責任」とコメントしている。

 しかし、そもそも森保監督はサンフレッチェ広島時代に3バック(5バック)で数々のタイトルを獲得した指導者だ。相手チームが4-2-3-1を採用した試合で勝利を収めた経験も多いわけで、5バックの相手と対峙したときの問題の解決策を知らないわけがない。そう考えると、システムの噛み合せが悪かったという現象だけに森保采配のミスを集約すること自体に無理があるだろう。

 ではなぜ5バックの弱点を熟知している森保監督は、相手が3バックでくることを想定しながら、その対策をチームに落とし込めなかったのか。敢えてそこを敗因としてクローズアップするなら、森保監督のチーム作りのアプローチそのものを追究しなければ、前半の劣勢を論理的に説明することは困難だ。

失点の原因は布陣の噛み合せにあらず

 そして、前半の劣勢と2失点の原因を探ったとき、それ以上に大きな問題が浮上する。

 今大会を振り返れば、日本が5バックの相手と戦った試合は初戦のトルクメニスタン戦と準々決勝のベトナム戦と、2度あった。しかし同じ5バックでも、カタールのそれは日本の中央への縦パスを封じることは同じでも、ボール奪取後が違っていた。単純に1トップに当てるのではなく、かなりの確率で11番(アクラム・ハッサン・アフィフ)を経由し、彼を起点にゴールを目指すという典型的な攻撃パターンだ。

 実際、その傾向は準決勝までの6試合でも際立っていて、11番が6試合で記録したアシストは8本。これは、19番が8ゴールをマークしていたことと同様に、カタールの攻撃の特徴となっていた。

 この試合の5-3-2に照らせば、11番のポジションは2トップの一角。しかし実際の前半の11番の立ち位置は、日本のセンターバックの位置で1トップ気味に張る19番よりも少し低いポジションで、システムで言えば5-3-1-1のトップ下だった。

 この11番が、日本のセンターバックとダブルボランチの間のスペース、両サイドバックの背後に空いたスペース、ボランチと2列目の間に空いたスペースと、前後左右にポジションを変えて何度もチャンスを作り出すなか、しかし日本は11番を曖昧なマークの受け渡しで対応する守備を続けてしまった。

 おそらく前半の2失点の多くの原因、さらに言えば試合の敗因はそこにある。前からの守備がハマらなかったことよりも、明らかにそこが即修正すべき点だった。

 前半に11番を経由したカタールの攻撃は、フィニッシュに至らなかったシーンも含めると13回はあった。そのうち2回を得点に結びつけたわけだが、森保監督は先制点を許したあとも修正の指示を送ることはなかった。勝敗を分けたカタールの2点目は、それを放置してしまったがために招いたと言っても過言ではないだろう。

 では、なぜ森保監督は誰の目から見ても明らかな問題を放置したのか。その謎についても、システムの噛み合せの問題と同様、これを森保監督のチーム作りのアプローチとして捉えれば、腑に落ちる。

 前半35分、ピッチサイドで森保監督と大迫勇也が会話をかわし、日本はその直後から2列目の守備時の立ち位置が修正された。しかしその修正は、どちらの発案だったのか。森保監督のこれまでのチーム作りからすると、大迫だった可能性は高い。

 結局、「先に2失点して難しい展開になった」(森保監督)という前半は、日本の良さを出せないまま終了した。森保ジャパンのバロメーターである縦パスは、柴崎岳と塩谷が3本、吉田と冨安健洋は1本のみ。大動脈と言える大迫へのパスコースも封じられた。

今大会で最もサッカーが機能した45分

 そんななかで迎えた後半は、一転、後がない日本が一方的に押し込む展開が続いた。

 後半開始直後のカタールのシステムは、5-4-1。前半終盤にややリズムを失っていたことに加え、日本に対して2点リードした状況を考えれば、優勝を目前にしたカタールが守備に重きを置くのも当然だ。

 リードした格下が守りに入ったとき、格上にチャンスが生まれる。それは、サッカーの試合でよく見受けられる展開だった。

 この後半は、おそらく今大会のなかで最も森保ジャパンの特徴が出た45分間だったと言える。中2日のカタールが疲労し始め、しかも受けに回っていたことも影響したが、少なくとも3-0で勝ったイラン戦の開始20分間よりも日本のサッカーは機能していた。

 ダブルボランチから前線への縦パスは、不成功も含めて柴崎が5本、塩谷が7本。そのうち後半69分の塩谷の縦パスが、南野拓実のゴールにつながった。また、両サイドバックから前線へのパスも前半とほぼ同じペースで打ち込まれ、サイドからのクロスも前半の7本から後半は11本に増加。

 相手の大迫へのマークもずれ始め、日本は大迫を起点にチャンスを作れるようにもなり、途中出場の武藤嘉紀もよくチャンスに絡んだ。

 そのペースが続けば、同点ゴールは時間の問題。そう思われるほど、日本がカタールを圧倒する時間が続いたが、その状況を一変させたのが後半79分だった。

 防戦一方だったカタールが後半初めて作ったそのチャンスは、11番のドリブルによるカウンターから6番がフィニッシュを狙ったシーンだった。ちなみに、後半開始直後の11番の立ち位置は、5-4-1の1トップ。

 ただ、システム変更が奏功していなかった状況を見て、フェリックス・サンチェス監督は10分弱でシステムを3-5-2に戻したなか、しかし11番と19番の関係は前半と逆になり、11番が最前線で浮遊するかたちへと変化していた。

 いずれにしても、その直後のコーナーキックで吉田のハンドが生まれ、カタールがPKを決めた時点で日本の敗戦は決定的となった。それは、カタールの後半唯一の攻撃シーン。スコアとは裏腹に、この試合が紙一重の内容だったと言える理由はそこにある。

最大の敗因は森保監督の采配にあり

 それも含めて日本の敗因を探ってみると、どうしても指揮官の采配に突きあたる。

 それは、自らも悔やんだ5バックの相手に対する準備不足のみならず、11番のマーキングの修正、さらには後半の反撃のなかで見せた遅きに失する選手交代策……。

 大会を通してAチームとBチームを明確に分けて戦い続けたことも含め、これらの采配は「目標は優勝」と繰り返した森保監督の発言とは大きく矛盾する。

 結局、森保監督が続けるチーム作りのアプローチ、つまり選手主導のサッカーだったことが、最後の最後で優勝を逃すこととなった原因であり、森保ジャパンが大会を通して露呈し続けた問題の根源だった。

 ロシアW杯のベルギー戦で、西野ジャパンが最後に涙を呑んだときと同じ敗因と言っていい。去年の5つの親善試合で見せていたサッカーとアジアカップのそれは、だから大きく変わってしまったと思われる。

 問題は、敢えてそうしたのか、できなかったのか、という点だ。

「監督としては、選手やスタッフが最大限の努力をしてくれたことを結果に結びつけることができず、もっと力をつけなければいけないという思いがある」

 カタールに負けた試合後の会見で、確かに森保監督はそう言った。だとすれば、後者と見られても仕方がないだろう。

 今回の結果を受けて、監督の進退問題には発展しそうな気配はないが、少なくとも日本サッカー協会は、客観的に今大会を総括し、改めて指揮官に対する評価を公にすべきだと思われる。

(集英社 Web Sportiva 2月6日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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