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トルクメニスタン戦と多くの共通点。反省なきチームに成長なし【ベトナム戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

森保ジャパンが不調から脱出できない最大の理由はどこにあるのか?

 ベスト4進出をかけたアジアカップ準々決勝のベトナム戦は、堂安律のPKによる決勝ゴールで森保ジャパンが勝利を収めた。これにより、準決勝では中国を破ったイランと対戦することが決定した。

 格下のベトナム相手にクリーンシートで勝利したという結果自体に驚きはない。本来の日本とベトナムの力関係からすれば、勝って当たり前の試合。一発勝負の決勝トーナメントとはいえ、ラウンド16のサウジアラビアのように相手を圧倒し、願わくば日本が3-0、4-0のスコアで勝ってほしかったというのが多くの人の本音だろう。

 ところが指揮官は、試合後の会見の冒頭で、開口一番、次のようにコメントした。

「どんなかたちでも、勝って次のステージに進むことが大切な中、選手たちがベトナムを無失点におさえて次に行けることは良かった」

「どんなかたちでも」とは、この大会を通して監督や選手からよく聞くコメントだが、その手の発言が現在の森保ジャパンの“志の低さ”を物語っている。今大会で、低調が続いている元凶だと思われる。

 この試合を見ながら脳裏に蘇ったのが、相手のレベルも戦い方も似通っていた、グループステージ初戦のトルクメニスタン戦だった。

 ベトナムの布陣は、トルクメニスタンと同じ5-4-1。5バックと2列目4枚で日本の縦パスを警戒する対策を練ったうえで、ボールを奪った後に1トップを起点にカウンターを仕掛けることから勝機を見出す。この試合のベトナムは、まさにトルクメニスタンと同じ狙いで日本と対峙し、実際、前半はその通りの戦いができていた。

 それに対して日本は、同じように中央への縦パスを狙って攻撃を組み立てようと試みた。そして、同じように左に流れる1トップを起点とするカウンターに手を焼き、いくつかのチャンスを与えてしまっていた。

 また、スコアこそ違えど、試合の流れもトルクメニスタン戦と似ていた。相手の日本対策に苦戦を強いられた日本が、後半に入ってからリズムを取り戻し、最終的に勝利を収めることに成功する。1点ビハインドで後半を迎えたトルクメニスタン戦とは状況が異なるものの、0-0で迎えたベトナム戦においても同じような流れになった。

 さらに言えば、リードした後の終盤のゲーム運び、試合の終わらせ方についても、同じように中途半端だった。

 トルクメニスタン戦で交代カードを1枚しか切らなかった森保監督は、この試合では3人の交代枠を使い切った。確かにそこに違いはあるものの、そのカードの切り方からは試合巧者ぶりはうかがえなかった。

 1点リードで迎えた後半72分、負傷から復帰した大迫をテスト的に投入したまでは問題ない。事実、大迫が入ったことで全体が安定するようになってドタバタ感はなくなった。

 しかし、後がないベトナムが75分に3枚目のカードを切って、4-3-3へと布陣を変更してリスクをかけてきたその3分後、果たして乾を入れてまだ追加点を目指す必要はあったのかという疑問は残る。

 その後、森保監督は終盤の89分に南野を下げて塩谷を投入しているが、サウジアラビア戦から中2日、そして中3日で迎える準決勝という日程を考えても、ベトナムの反撃能力を考えても、残り約10分プラスアディショナルタイムが残された時間帯からは、試合をコントロールして1-0できっちり終わらせる采配があって然るべきだった。

 乾が無理なパスをして引っかけたり、ドリブルでボールロストしたりして相手に反撃の機会を与えたいくつかのシーンを目にすると、なおさら2枚目のカードは塩谷であるべきだったと思わざるを得ない。

 結局、「どんなかたちでも勝つことが重要だ」として、ひとつひとつの試合の反省点をうやむやにしてしまった結果が、アジアカップ5試合目のベトナム戦で露呈したと言える。森保監督は「大会を通して成長していくことが重要」と何度も繰り返し語っているが、残念ながら、現実はそれとは逆の状況に陥っている。

 勝ったことですべてを良しとする志の低さは、成長の妨げになる。同じ過ちを繰り返す元凶でもある。今大会の森保ジャパンが、なかなか不調から脱出できない最大の理由であり、これでは次のイラン戦に希望を持てないのも当然と言えるだろう。

 逆に、劣勢が予想される準決勝にわずかな望みをかけるとしたら、それは現在のチームがベンチ主導ではなく、選手主導でサッカーをしている点か。西野ジャパンがロシアW杯で格上のベルギーに対して突然覚醒したように、今大会初めて格上に挑む日本の選手たちに何かしらの変化が起きれば、そこに奇跡の可能性は残されている。

 とはいえ、仮にそうなったとしても、これまでの5試合で見えた問題点が解決されたことにはならないし、それは偶然の産物に他ならない。成長するうえで大事なことは、あくまでも必然性だ。選手任せのサッカーは、そこに落とし穴が潜んでいる。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】権田修一(GK)=5.0点

前半に判断ミスから吉田へ危険なパスを供給した他、後半にもフィードを相手に渡すなど不要なピンチを招いた。シュートに対しては危なげなく対処したが、安定感がなかった。

【右SB】酒井宏樹=5.5点

前半は攻め上がった後の背後のスペースをカウンターで突かれるなど、右サイドを制圧できなかった。後半は慎重にプレーしながら堂安をサポート。次戦は負傷の具合次第か。

【右CB】冨安健洋=5.5点

前半は相手の1トップ(10番)に翻弄されるなど不安定だったが、後半は落ち着きを取り戻した。攻撃面では前半29分の好機でヘディングシュートを放つも、GKに止められた。

【左CB】吉田麻也=5.5点

前半24分のゴールはVAR判定で取り消しに。前半は相手の勢いを止めることができず、連携面で課題を残した。後半は安定感を取り戻したが、5.0点に限りなく近い5.5点。

【左SB】長友佑都=5.5点

原口との連携が少なく、攻撃面での貢献が低すぎた。逆に守備面では身体を張ったプレーが随所に見られた。左サイドを活性化させるために、もっと積極性があってもよかった。

【右ボランチ】遠藤航=6.0点

チーム全体が低調な中でも及第点のパフォーマンス。前半は守備のフィルター役としての甘さが目立ち、相手にチャンスを与えたが、後半はポイントを押さえた守備が光った。

【左ボランチ】柴崎岳=5.5点

相手が格下だったこともあり、サウジアラビア戦より特長は出せていた。ただ、パスの精度や周囲とのコンビネーションは改善すべき点が多く、決定的な仕事ができていない。

【右ウイング】堂安律=6.5点

自ら獲得したPKを決め、決勝点を記録した分が0.5点。積極的にドリブルで仕掛けた点は良かったが、単独プレーが増えているのが気がかり。南野との連携も回数が少なかった。

【トップ下】南野拓実(89分途中交代)=5.0点

前半45分、後半77分のシュートをGKに止められたシーンに象徴されるように、今回もチャンスで決められず。プレーのクオリティが低下しており、自信を失いつつある印象も。

【左ウイング】原口元気(78分途中交代)=5.5点

守備面で貢献したが、攻撃面では目立ったプレーができずに終わった。さすがに連戦の疲労が蓄積しているのか、珍しく躍動感もなかった。後半途中で乾と代わって退いた。

【CF】北川航也(72分途中交代)=5.0点

武藤が出場停止だったこともあってスタメンに復帰したが、またしてもチャンスに絡むことができず。ボールの受け方、シュート精度など、個の能力をレベルアップさせたい。

【FW】大迫勇也(72分途中出場)=6.0点

ようやく負傷が癒えて初戦以来のカムバック。まだフル出場はできないものの、後半途中に投入されてチーム全体を落ち着かせた。準決勝でスタメン復帰できるか注目。

【MF】乾貴士(78分途中出場)=5.5点

終盤に原口に代わって左ウイングでプレー。何度か左サイドで起点を作ったが、無理なパスを引っかけたり、ボールロストしたりするシーンもあった。

【DF】塩谷司(89分途中出場)=採点なし

プレー時間が短く採点不能。試合終了間際に南野に代わり、守備強化のタスクを担うべく途中出場。柴崎がトップ下に移り、ボランチでプレーした。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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