Yahoo!ニュース

昌子の加入が噂されるトゥールーズ戦に今日勝てば開幕14連勝。新生パリSGはなぜそんなに強いのか?

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

アメとムチを使い分けるトゥヘル監督

 2011年夏にカタール資本となって以来、7シーズンで実に5度のリーグ優勝を誇るフランスの絶対王者パリ・サンジェルマン(PSG)。シーズン開幕前に優勝候補筆頭と評されるのは、もはや近年の恒例行事になりつつあるが、それでも監督交代や目立った補強がなかった今シーズンは、さすがに独走優勝は難しいと見る向きもあった。

 ところが、いざフタを開けてみると、主力選手がロシアW杯の影響で合流が遅れたにもかかわらず、開幕から11月2日のリール戦まで破竹の12連勝を記録(※その後、11月11日のモナコ戦も完勝して13連勝)。これは、1960-1961シーズンにトッテナム・ホットスパーがイングランドで記録した開幕11連勝の偉業を塗り替える快挙であり、ヨーロッパ5大リーグでは前人未到の大記録となった。

 もちろん、他の4リーグと比べて競争力で劣るリーグ・アンの話ゆえ、過大評価は禁物かもしれない。しかしその一方で、年間勝ち点96ポイント計102ゴールを記録し、独走優勝を果たしたクラブ史上最強と言われる2015-2016シーズンのチームでさえも成し得なかった開幕12連勝は、現在のPSGの強さを象徴する記録であることは間違いない。

 その要因のひとつが、今シーズンからチームを率いるドイツ人トーマス・トゥヘル監督のマネジメント力だ。

 そもそも新監督就任が発表された時点から、フランス国内ではビッグクラブを率いた経験のないトゥヘルを疑問視する声が多かった。これは、同じ境遇でチームを任されたスペイン人ウナイ・エメリ前監督の失敗を経験したからこその見方であり、スター選手が揃うPSGを率いるにあたり、選手を徹底管理するトゥヘルの手法がマッチするはずがない……と思われたのも当然だろう。

 そんななか、当の本人はエメリを反面教師にするがごとく、大方の予想に反して柔軟な姿勢でチーム作りに着手したのだった。

 トゥヘル自身の強い要望から、就任直後にネイマールと個別会談を持ったことは有名な話。実際にチームを率いるようになってからも選手との対話を欠かさず、自分の指導スタイルにいい意味で妥協しながら「アメとムチ」を使い分けることによって、見事に求心力を高めることに成功している。

 たとえば第11節の「フランスダービー」マルセイユ戦。同日に行なわれたスペインのエル・クラシコをテレビ観戦したために集合時間に遅れたキリアン・ムバッペとアドリアン・ラビオに対しては、シーズン屈指のビッグマッチにもかかわらず、その罰としてベンチスタートを命じた。

 その一方で、深夜の飲酒運転で逮捕されたマルコ・ヴェッラッティに対しては、事件翌日にヴェッラッティが自ら監督とチームメイトに謝罪したこともあり、「試合3日前の深夜外出は規則外」という理由により、11月2日のリール戦ではスタメンに起用。柔軟な対応を見せている。

 もっとも、件(くだん)の遅刻を犯した主力ふたりも後半に途中出場を許され、とくにムバッペは出場直後に罪滅ぼしとも言える先制ゴールを決め、勝利に貢献する形で信頼を回復。また、トゥヘルが自ら「今シーズンのベストパフォーマンス」と選手を称賛したリール戦では、ムバッペの先制ゴール後にキャプテンのチアゴ・シウバが猛ダッシュで指揮官に駆け寄って抱きついたシーンが見られたが、これも監督と選手が良好な関係にあることの証(あかし)と言えるだろう。

多彩な戦術を兼ね備えた新生パリSG

 トゥヘルがPSGで見せる柔軟性は戦術面にも表れており、たとえばここまで採用されてきたシステムの変遷がそのひとつだ。

 開幕直後からトゥヘルが使っていたのは、ローラン・ブラン時代からチームに浸透していた4-3-3。前任者のエメリは就任直後から4-2-3-1を採用し、自分のやり方を植えつけようとしたが、それに主力選手が反発して4-3-3に逆戻りしてしまった失敗例がある。それを知ってか、まずは指揮官が妥協する恰好でチーム作りに着手した。

 しかし、チャンピオンズリーグ初戦のリバプール戦でそれが機能困難と判断すると、その後の第7節のスタッド・ランス戦からいよいよトゥヘルが好む4-2-3-1に移行。10番ネイマールをトップ下に配置して自由を与える戦術に舵を切ったが、それによる選手からの反発はなく、実にスムースな形で4-3-3との離別に成功したのである。

 同時に、プレシーズンからオプション的に3バックを頻繁に試しており、こちらも試合を重ねるごとにブラッシュアップさせてきた。その結果、大一番のチャンピオンズリーグ第4節のナポリ戦(11月6日)で採用して、しっかり機能させることに成功した。

 振り返れば、ブラン時代からのPSGは「プチ・バルサ」と評された4-3-3を浸透させて国内無敵を誇っていた一方で、それ以外のオプションが存在しないために、チャンピオンズリーグ8強の壁を乗り越えられずにいた。それを考えると、複数のシステムを状況に応じて使い分けるトゥヘルのチーム作りは、「新生PSG」の旗印となる可能性を秘めている。

 それ以外にも、マルキーニョスのボランチ起用に象徴されるように、6番タイプの選手にこだわりを見せるのも、トゥヘル戦術の特徴のひとつだ。このカウンター対策のおかげで、プチ・バルサを標榜していた時代にアンカーを務めることもあった攻撃的なタイプのラビオは、難敵相手の試合ではベンチを温める機会が増えるかもしれない(実際、アウェーでのナポリ戦ではユリアン・ドラクスラーがヴェッラッティとコンビを組んでいる)。

 しかし逆に言えば、選手層の薄さが気になっている今シーズンのPSGにとっては、ラビオが前線の控えとしてベンチに座り、さらに長期に渡って戦線を離脱しているダニエウ・アウベスとレイヴァン・クルザワの両サイドバックが復帰すれば、ベンチ要員も含めて再び強力なラインナップが揃うことになる。これに加え、冬の移籍マーケットでトゥヘルが熱望する6番を手に入れられれば、それこそ新しいPSGの陣容が完成するはずだ。

 いずれにしても、現在も続く開幕連勝記録は、まだ成熟していないチームとしては出来すぎとも言える。ただそれだけに、これからのチームの伸びしろを考えたとき、少なくとも国内ではPSGはしばらく連勝記録を更新し続ける可能性が高いと見ていいだろう。

 ただし、このクラブの監督としての評価は国内の成績にあらず。あくまでもチャンピオンズリーグの結果次第であり、現在3位に甘んじるグループステージはもちろん、ベスト8の壁を破らなければ、即刻ナセル・アル・ケラフィ会長から「OUT」を宣告されることは、トゥヘルもよく理解しているはずだ。

 果たしてトゥヘルのもとで、PSGに新しい時代は訪れるのか。まずは11月28日に予定されている、チャンピオンズリーグのリバプール戦が最初のハードルとなりそうだ。

(集英社 Web Sportiva 11月10日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

中山淳の最近の記事