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世界中に「ただいま、お帰り」と言えるコミュニティを作るのが究極の夢〜布袋寅泰から世界のHOTEIへ

中東生Global Press会員ジャーナリスト、コーディネーター
Guitarhythm(超絶技巧)が炸裂! 写真MichikoYamamoto

 スイスの秋は、日本より早く到来し、すぐに終わってしまう。その中で一番美しい日に数えられるような秋晴れの10月10日、布袋寅泰がチューリッヒに戻って来た。2度目の来訪となる今回、紅葉を輝かせる秋の太陽のようにきらめきを残して去って行った彼は、今は日本ツアーの真っ最中だ。すっかり冬が到来したチューリッヒから、銀杏並木の黄金色や、紅葉などの燃えるような色が溢れているであろう日本で輝き続けているHOTEIに思いを馳せながら、彼がインタビューで語った言葉をもう一度かみしめたい。

布袋寅泰にとってのスイス

 「スイスはモントルー・ジャズ・フェスティバルが有名で、デビッド・ボウイに初めて会った場所でもあります。クイーンが所有していたマウンテンスタジオでレコーディングもしましたし、フェスティバルにも出演したので、(僕の)気持ちの中で近い国です。そのスイスの中でチューリッヒは日本人も多く、僕の音楽を気に入ってくれる聴衆も多いということで選びました。でも、良い音楽に対する耳が肥えている街なので、緊張します。」

と語る布袋は、2017年4月にチューリッヒで初ライブを開いた。今回1年半ぶりに帰って来た彼は、前回よりも大きいライブハウスを満たしたが、それでもあの近さで布袋の音楽を堪能できるのは、信じられない贅沢だ。

 前日にパリからチューリッヒに着いた彼は、チューリッヒ湖畔を一人で数時間歩いたと嬉しそうに話す。そして翌日のライブに関してチューリッヒのファンらに向けてこんなメッセージを送っている。

「また、皆様の美しい街に行かれることを嬉しく思います。昔の曲も演奏しますので、思い出を共有すると共に、今まで皆さんが知っているHOTEI以上に豊かな音もお聴かせ出来ると思います。異国で暮らす日本人同士、ストレスも多い事と思いますが、このライブで一緒に発散しましょう!」

その言葉通り、外国で頑張っている日本人の苦労も昇華させていた。

公演の詳しいレポート等は、こちらの記事をご覧いただければと思う。

【特集】世界の「HOTEI」へ 欧州ツアーの布袋寅泰に聞いた「本音」(47NEWS)

素顔の布袋寅泰

 今回チューリッヒのライブを前にも、FaceTimeインタビューを決行した。そこで少年時代の興味深いエピソードを聞いた。

「初めはピアノを10年くらいやっていました。今でも(妻で、プロデュースを行っている)今井美樹さんの曲などはピアノで作曲します。ピアノのレッスンで「手の平に卵を入れても潰れないような形で弾いて」と言われ続け、ある時「それはいつまで続ければいいのですか?」と聞いたら、「死ぬまで」と言われたところで挫折しました(笑)

それに比べてアコースティックギターは、フォームなどの決まりがなく、自由に、心から音楽を奏でればいいのが性に合いました。その頃はインターネットなどもなかったので、レコードから聴いた曲を、少しずつ耳から入って来るままにギターで弾いて、独学で習得しました。学校から帰って来たらすぐに部屋に入って無心に練習する毎日で、そんなに夢中になれるものに出会えたのは驚きでした。

そうして14歳の時にギターを始め、19歳でデビューしましたが、その頃はお風呂もトイレもない生活で、そこから成功を手にしたい、いい車に乗りたい、沢山のお金を稼ぎたい、といった物質的な成功を目指してきた時期もあります。」

そういう生活を乗り越えたから、ロンドンでもう一度ゼロから挑戦できるパワーを秘めているのだろう。

 それでも家族への配慮は痛いほど感じる。毎日通っているというスタジオで、夫婦一緒に音楽活動をしているのかという質問に答え、こう続けた。

「彼女はジャズの傾向なので、日頃はスタジオで一緒に音楽を作ることはあまりなく、一緒にコンサートに行くくらいです。それぞれが別々に色々なものを吸収しています。

その上で臨む彼女のアルバム制作では、僕がエグゼクティヴプロデューサーを務めます。英国で3枚目のアルバム「SKY」も出たばかりです。イギリスでの音楽的成果に彼女も満足しています。

でも、彼女は歌手であると同時に、母であり、妻であり、一人の女性であるので、最初の数年は学校のこととか、難しいこともあったようです。日本に母親を残して来ていますし・・・。」

自分より英語が上手になった愛娘のクィーンズ・イングリッシュについて誇らしげに話す姿なども見られ、彼がスターでありながら、人間的な理由が解った気がした。

HOTEIの存在意義

 布袋ファン歴四半世紀で、今回のロンドンライブにも日本から出掛けた女性からの「生きていく事への不安を感じたら布袋さんの音楽を聴いて力をもらうが、他にも不安を力に変えるヒントをもらえたら」という質問を伝えると、

「今まで通りに僕の音楽を聴いて元気になって欲しい。自分も同じように、くじけそうな時、その気持ちを音楽や言葉にしている」

と答えた。そうやって今までどれだけの日本人を力づけてきただろうか。そして2012年からロンドンに移住し 、 テロが身近に起こる環境に身を置いた彼が、世界に語りかける「ヒトコト」で、平和の尊さを謳う。年末まで続く日本ツアーの後は世界ツアーも視野に入れているという。世界中に「お帰り」「ただいま」と言えるコミュニティを作るのが究極の成功だという布袋は、実は音楽を通して希望と平和を広める伝道師の役割を果たせるのかもしれない。

 ポピュリズムがじわじわと広まっていく不穏なヨーロッパは、そんなHOTEIの置き土産にかすかな光を見出しながら暗い冬を迎えている。

 

Global Press会員ジャーナリスト、コーディネーター

東京芸術大学卒業後、ロータリー奨学生として渡欧。ヴェルディ音楽院、チューリッヒ音楽大学大学院、スイスオペラスタジオを経て、スイス連邦認定オペラ歌手の資格を取得。その後、声域の変化によりオペラ歌手廃業。女性誌編集部に10年間関わった経験を生かし、環境政策に関する記事の伊文和訳、独文和訳を月刊誌に2年間掲載しながらジャーナリズムを学ぶ。現在は音楽専門誌、HP、コンサートプログラム、CDブックレット等に専門分野での記事を書くとともに、ロータリー財団の主旨である「民間親善大使」として日欧を結ぶ数々のプロジェクトに携わりながら、文化、社会問題に関わる情報発信を続けている。

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