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「規制があるほうがやりやすい」。窮屈な時代に“西の宮藤官九郎”お~い!久馬が示す笑いの可能性

中西正男芸能記者
芸人として活動しながら、数多くの台本を書き続けるお~い!久馬さん

 お笑いユニット「ザ・プラン9」のリーダー・お~い!久馬さん(50)。関西を中心にあらゆる台本を手掛け、今春からはフジテレビ「新しいカギ」に作家として参加しています。さらに、吉本興業をモチーフにした漫画「よしもと虫(ちゅう)学校」の脚本も担当。圧倒的な台本執筆数から“西の宮藤官九郎”とも呼ばれていますが、執筆業をする中で痛感する今の世の中の形。そして、書く仕事に舵を切らせた先輩の存在とは。

「うわー…」

 ありがたいことに、今はたくさん書く仕事もさせていただくようになりました。きっかけとなったのはも若手時代にあった「すんげー!Best10」(ABCテレビ、1995年~97年)という番組だと思います。

 コンビをシャッフルしたユニットコントがあって、そこでいろいろとネタを書かせてもらっていました。そして、その時に一緒にやっていた人たち、当時の若手のホームグラウンド「心斎橋筋2丁目劇場」に出ていたメンバーが売れていき、今のお笑いの流れを作る立場になった。そういう人たちが「ネタを書くといえば久馬」と思ってくださっているのが最大のポイントだと思ています。

 この春から「新しいカギ」(フジテレビ)にも作家として関わらせてもらっているんですけど、そこでは「霜降り明星」が僕のことを言ってくれたみたいで。ホントにね、周りが売れてくれたから、助かっています(笑)。僕は何も変わってないのに。

 さらにそもそもの話、ネタを書き出した原点は「シェイクダウン」というコンビを組んでいた時のイベントになると思います。

 コンビのトークイベントをやることになり、ゲストに千原ジュニアさんが来てくれたんです。そこで「うわー…」と思いました。ジュニアさんの独壇場です。こっちのイベントやのに、こちらは全然アカン。

 その時は「大阪のこんな小さな劇場でこんな感じだったら、自分はトークでは絶対に無理だ」となりまして。結果的には、ジュニアさんがすごかったんですけど(笑)、その時に自分の活路となるものはなんだろうと考えまして。まだネタを作ることならいけるかもしれないと思ったんです。

規制から生まれるもの

 芸人をやりながら何かしら台本などを書くということを僕がやり始めた頃は、まだ周りに同じような人があまりいなかったんですけど、今は増えましたよね。バカリズムはもちろんですし、「シソンヌ」のじろう君もそうですし、若手でもたくさんいますしね。

 みんなすごいですけど、やっぱりバカリズムはすごいですよ。あの忙しさであのクオリティーのものを書き続けているのはすさまじいです。出演者としての仕事が僕より断然多い中で、いったいどうやって書いてるんやろうと思います。

 芸人という形も変わってきていて、僕が書き物をやり始めた時にはいわゆる芸人の仕事以外をやることに風当たりみたいなものもあったと思いますけど、今はそれが花盛りになっている。時代が変わることを感じてもいます。

 さらに、笑い自体を取り巻く環境というか、そのあたりもすごいスピードで変わっています。コンプライアンス、ルッキズム、ジェンダー、多様性…。気を使うというか、気になる要素が増えました。

 NSCで講師もさせてもらっているんですけど、生徒もものすごく敏感になってますしね。真剣な顔で「ネタの中で“おっぱい”とか言ってもいいんですかね…?」と聞いてくる子もいますし(笑)。質問してもらっているので「ま、別にそれくらいはいいと思うけど」と返してますけど、変に委縮するというか、本来気を使うべきところではないところにまで気を使う。そんな流れも感じています。

 ただね、僕の感覚としたら、ある一定の規制がある方がやりやすいところもあるんです。「何をやってもいいです」ではなく「この中でやってください」のほうが考えやすい。

 新型コロナ禍でリモートが求められたら、リモートの中で面白いことを考える。少ない人数でやらないといけなければ、それを利用した笑いを作る。範囲が狭められるほうが、実は発想が広がるというか。そこもこの何年かで勉強させてもらったところです。

 何かがあっても、それを前向きな力にする。使いづらくなったことがあったら、そこから新しいものを作る。結局、それしかないんでしょうし、その中にこそ笑いがあるとも思います。

 あれこれ語ってしまいましたけど、こんなことを言ってると、また完全なる揶揄で“西の宮藤官九郎”と言われるんでしょうけど(笑)。ま、これも、同期の「メッセンジャー」のパラちゃん(あいはら)が言ってるだけなんですけどね(笑)。

 そんな呼び名はおこがましいばかりですけど、せっかくこの仕事もさせてもらっているので、自分ができることで人に喜んでもらいたい。その思いは持って、これからも積み重ねをしていきたいと思っています。

(撮影・中西正男)

■お~い!久馬(お~いきゅうま)

1972年7月22日生まれ。大阪府出身。NSC大阪校10期生。同期は「メッセンジャー」「水玉れっぷう隊」「ジャリズム」ら。92年にお笑いコンビ「シェイクダウン」を結成するが、2000年に解散。01年にお笑いユニット「ザ・プラン9」を結成しリーダーとなる。メンバーの脱退、増員などを経て、現在は久馬、浅越ゴエ、ヤナギブソン、コヴァンサン、きょうくん、爆ノ介の6人。東野幸治がプロデュースし、久馬が脚本を担当した漫画「よしもと虫学校」が公式ツイッターで公開されている。また、小学校跡地の施設を使って展開する「ザ・プラン9」の体験型コントライブ「スクール・オブ・コント!」の第2回公演が6月10日(大阪・アクティブ・スクウェア・大東体育館)に行われる。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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