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「僕はやめません」。新座長・アキが語る“見た目を笑わない世の中”でこそ光る吉本新喜劇の意味

中西正男芸能記者
吉本新喜劇の新座長に就任したアキさん

 3月21日に吉本新喜劇の新座長就任が発表されたアキさん(53)。5月2日から8日まで大阪・なんばグランド花月で座長お披露目公演が行われます。「水玉れっぷう隊」として芸人のキャリアをスタートさせましたが、それまでにもスタントマンなど様々な道を歩んできました。新喜劇が変えた自らのカタチ。そして、見た目を笑いにしない世の中で、アキさんが考える新喜劇の意味とは。

かじ取りの重み

 座長就任が発表されて、少し時間が経ちました。ありがたいことに、いろいろな方からお祝いの言葉もいただいたんですけど、その時の“間(ま)”に何とも言えない思いを噛みしめてもいます。

 長いことやってきた中での座長のお話だったので、その文脈を皆さんも噛みしめてくださっているのか、スッと「おめでとう」と言ってくださるのではなく、4秒、5秒の間を置いて「…おめでとう」と言ってくださる。幾重にもありがたいことだなと思います。

 それと、もっと実感が湧かないものなのかなとも思っていたんですけど、想像以上に、実感湧きまくりです(笑)。

 というのは、ちょっとした発言でも、もう一人の座員の言葉ではない。「水玉れっぷう隊」としての言葉でもない。これまで諸先輩方が何十年も航路を保ってきた吉本新喜劇という船のかじ取りをさせてもらっている感覚なので、ちょっとしたことでもエエ加減なことはできない。その意識はものすごくありますね。

「やさしい」は「強い」

 これまで本当にいろいろなお仕事をさせてもらってきましたけど、東京から大阪に戻ってきて新喜劇に入ったのが2014年。そこで自分のカタチというか、考え方みたいなものがガラッと変わった気がしています。

 そこまで「勝ってナンボ」というか、そういう思いでやってきていたんです。若手の頃はコンビとして賞レースに出て結果を残さないといけないし、東京に行ってからも数が限られた劇場出番やテレビ出演などをゲットするためには勝たないといけない。

 さらに、もっと昔を振り返っても、小学校の頃から少年野球の強豪チームで勝つことを目指してましたし、中学を卒業してからは格闘技に打ち込み、もちろんそこでも勝つための積み重ねをやってきました。芸人になる前、京都の撮影所でスタントマンをやっている時もそうですし、頑張って勝ち残る。それをやり続けてきた人生だったんです。

 それがね、新喜劇に入って驚きました。誤解を恐れずに言うと、びっくりするほど空気がやさしいんです。

 もちろん、仕事ですから、舞台上やけいこの時の厳しさは絶対に必要です。ただ、基本の空気がものすごくやさしい。

 ある時、ジミー大西さんが主役の舞台があったんですけど、新幹線で寝過ごしてしまって本番に遅刻してしまったんです。大変なことですけど、みんなが力を合わせて主役がいないのにつないで、間寛平師匠もホンマに穏やかな空気でそれをまとめて、アドリブをふんだんに盛り込んで舞台を成立させたんです。ジミーさんはただただ平謝りなんですけど、寛平師匠は「みんなにコーヒーおごったってや」くらいのトーンでやさしく包み込む。そういう、それまで僕にはない空気を吸って「なんという世界や」と思ったんです。

 これまでやってきた「勝つための世界」とは全く違う。むしろ、その対極にある。でも、結果的に、そうやってやさしく、みんなが笑っている。それがチームとしての本当の強さにもなる。

 「やさしい」ということが「ゆるい」とか「弱い」ではなく「強い」につながる。その空気があるから、スタメンのエースや四番のみならず控えの代走や守備固めの選手もいきいきと稼働する。

 当然、そんな簡単なことだけではないんですけど、自分になかったやさしさの強さを感じて、意識は大きく変わりました。

「いいよぉ~」からの気づき

 そうやって、いろいろな人のありようを尊重する。やさしく見る。この感覚に実は大きな影響を与えたのが、自分のフレーズながら「いいよぉ~」だったんです。

 そもそもこのフレーズは僕が新喜劇に入った当初、辻本茂雄さんとのアドリブの応酬の末に生まれたものなんですけど、それがいつしかギャガーでもない僕の代名詞にもなっていました。

 この「いいよぉ~」はその言葉の通り、相手をゆるすということです。生まれたのは僕の口から生まれたんですけど、このフレーズがずっと先を走っていて、自分が「そこに追いつかないと」と追いかけている。そんなイメージでもあるんです。

 思いもしなかった流れなんですけど、ここ何年かで教育委員会とか介護施設とかから講演の依頼をいただくことが増えました。

 というのは、学校で何かトラブルやケンカがあっても、この「いいよぉ~」のフレーズで相手をゆるす流れがナチュラルに、面白くできている。このフレーズを端緒にアキさんに話してもらえないかというお話をいただくようになりまして。

 座長にならせてもらって、より一層、この「いいよぉ~」のココロを自分のフレーズながら反芻してもいて、なんとも面白いものだなとも思っています。

新喜劇の意味

 それぞれを認めるということで言うと、最近は見た目を笑いにしないことが当然の社会にもなっています。

 その考え自体は大切なものだとも思うんですけど、新喜劇に関しては逆だと僕は思っているんです。

 池乃めだかさんが背が低い。酒井藍ちゃんがぽっちゃりしてる。それは全部個性です。その個性を生かして、新喜劇という場でスターになって、ナニな話、お金も稼いでいる。

 人にない個性を武器にみんなに楽しんでもらって、それが自信にもつながる。その実例を見てもらうのが吉本新喜劇だと僕は強く思っています。背が低いこと、太っていることにフタをするのではなく、そこを個性として出して誇らしいものにしていくという。

 もちろん、個人によっていろいろな考えや違いもあるので、みんながそれをすべきとは思わないです。それはできないでしょうし。でも、新喜劇というプロの集団ではそれを見せることもできる。新喜劇までそこにフタをしてしまったらダメだと思うんです。なので、僕はその流れをやめようとは思っていません。

 ただ、そこはプロですので、イジるにしても「ブサイク!」で終わるのではなく、面白くてポジティブなワードを使うよう知恵は絞ります。でも、個性に光を当てる流れ自体にフタをすることは座長としてもしないでおこうと考えています。

 …ちょっと、まじめなことを言い過ぎましたかね。ま、でも、これが今の僕の思いですし、それこそ「いいよぉ~」とゆるしてください(笑)。

(撮影・中西正男)

■アキ

1969年8月22日生まれ。大阪府岸和田市出身。本名・荒木良明。京都の撮影所でスタントマンなどを経験した後、1992年にケンとお笑いコンビ「水玉れっぷう隊」を結成。同期は「メッセンジャー」、桂三度ら。「ダウンタウン」らを輩出した吉本興業の劇場「心斎橋筋2丁目劇場」きっての人気者として活動し、拠点を東京に移す。2014年からは大阪に戻り、吉本新喜劇に所属。「アキが出る公演はチケットが売れる」という評判を得るようになる。得意ギャグは“いいよぉ~”。3月に新座長就任が発表された。座長としてのお披露目公演が5月2日から8日まで大阪・なんばグランド花月で行われる。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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