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危険な香りを身にまとう唯一無二の芸人・長原成樹が語る「芸人の核」

中西正男芸能記者
今の思いを語る長原成樹さん

 芸人のみならず、俳優、映画監督としても際立つ個性を放つ長原成樹さん(58)。共同監督を務めた映画「不檄(ふれぶみ)~男たちの生きた証~」も今月から順次公開されます。真理を貫くような怖さと危険な色気を内包するたたずまいで、唯一無二の存在ともなっていますが、長原さんが思う「芸人の核」とは。

芯にあるもの

 ここ数年で考えると、役者の活動がグッと増えてきました。今回、2作目の監督もやらせてもらって、さらに役者のウエートが増してきています。

 久々に映画にどっぷり浸って思ったんですけど、自分のターニングポイントというか、それも映画やったなと改めて思ったんです。

 島田紳助さんが監督された「風、スローダウン」(1991年)という映画で主役をさせてもらったんです。

 周りのキャストはオーディションやったんですけど、紳助さんのインスピレーションもあったのか、最初から主役にしていただいたんです。

 そうなると、当然「頑張らなアカン」となりますわね。その頃なんて、ほとんど芝居の経験なんてなかった上に、あまりにもその思いが大きいから、何をしても空回りするわけです。

 芝居というか、笑いの間でアドリブを入れるような“本業”に近いシーンでも何回もNGを出すくらい、もう何もできなくなって。撮影は3カ月ほどやったんですけど、その間は毎日1時間くらいしか寝られませんでした。

 そんな中、共演の奥田瑛二さんから言葉をいただいたんです。

 「成樹君、今、日本では年間60本くらい映画が作られている。その中の1本の主役が君なんだ。そして、テレビ番組は頑張っても50年ほどしか残らない。ただ、映画は1000年残る。それだけ特別な場の主役に選ばれてるんだから、君が良いと思うように動けばいいし、君がセリフを発しない限り、この映画は始まらない。だからね、もっと自信を持ってやればいいんだよ」

 考えようによったらプレッシャーがかかるような言葉かもしれませんけど、そこでね、なんというか、一気に肩の力が抜けたんですよ。ただただ、奥田さんの言葉に助けてもらいました。

 映画は残るもの。そこでやる以上、ある意味、腹を決めるしかない。揺らいでいる場合ではない。それを痛感したんです。

 そして、このことをきっかけにもともと自分の中にあった思いがさらに定まったというか、芸人たるもの何に対してもビビったら終わり。心底、そう思うようになったんです。

 芸人は自分の口ひとつで稼ぐ仕事です。そんなムチャクチャな仕事をやると決めたんやから、そんな人間がビビったり、世間様に気を遣って何かを忖度しだしたら終わりやと。

 これもね、もちろん僕の見解ではあるんですけど、芸人というものの皮をむいていって芯にあるのがそんな「引かない」ところだと思ったんです。

 松本人志さんであろうが、浜田雅功さんであろうが、ビートたけしさんであろうが、ビビったら終わり。別に不躾なことをするわけではないし、先輩にはきちんとさせてもらう。当たり前のことです。もちろん、ケンカ腰でいくわけでもない。でも、本番で引いたらアカン。

 そこでグッと前に出たら、皆さん、本当に達者な人ばっかりなんやから、それは周りの人がどうにかしてくれます。引きさえしなかったら、どうにかなる。そのあたりはどの仕事をするにしても考えています。

 この引かないということが芝居の世界でも出ているのか、これもね、変な言い方にもなりますけど、僕が芝居をする時は開き直ってるんです。

 これもね、もちろん一生懸命に仕事はするけれど、どこかで「うまいこといかんかったら、芸人の自分を呼んだ自分が悪い」。そう思ってもいるんです(笑)。それくらい開き直っている方が腹がすわる。そうなるのかなと。

規格外の妙味

 そんな部分が芸人の核にあるべきものかと思うんですけど、ま、時代とともにいろいろ変わりました。芸人といえども、社会性やマイルドさが求められるようになってきました。

 言葉を選ばずに言うと、昔はそれこそヤクザみたいな世界でした。吉本興業に入った頃、まだ横山やすしさんもいらっしゃって、可愛がってもらったんです。

 おうちにも行かせてもらってね、ビックリしましたよ。夜になっても、音楽をガンガン流すわけです。案の定、近所の人が文句を言いに来る。そうしたら横山さんがおっしゃるんです。

 「お前、こっちの音楽、何を勝手に聞いとんねん!」

 そらね、ムチャクチャですよ(笑)。でもね、そんな規格外というか、なんやこの人という中から出る言葉は面白かった。それも芸人の本質だと思います。

 横山さんの家の押し入れにね、上方漫才大賞やらのトロフィーが山ほど雑に入れてあるんです。一方で熱を入れていた競艇のトロフィーはキレイに飾ってある。その理由を尋ねるとこんなことをおっしゃってました。

 「漫才はな、仕事やねん。せやから、これは取って当たり前。どうでもエエねん。競艇は好きでやってるもんやから、こっちのトロフィーは大事やねん」

 これもね、難しい領域かもしれませんけど、突き抜けたプロ根性を感じた場面でもありました。清廉潔白でいながら、仕事では狂ったことをしなさい。なんぼなんでも、そらキツイ。最近、特にそんなことを思ったりもします。

 ま、もう僕も来年で還暦のオッサンですから、いろいろ感じるようになってるのかもしれませんけどね。芸人とは何をする仕事なのか。世の中が急速に変わっていく中で、それを考えるようにもなっています。

 まだまだやりたいお仕事もあるし、もうすぐ60歳だからといって衰えているわけでもないので、ウォーキングは日々やるようにしています。…ただね、これが老いなのか、こっちは結構なスピードで歩いているつもりやなのに、若者がスイスイ抜いていくんです。

 ただ、芸人として引いたら負けですから。そこでも引いたらアカンと思って、もうウォーキングやなく、ダッシュくらいの感覚で追い抜いてます(笑)。

(撮影・中西正男)

■長原成樹(ながはら・せいき)

1964年4月18日生まれ。大阪府出身。吉本興業所属。漫才コンビ「ヤンキース」として頭角を現すが、コンビ解散後はピンで活動。芸人のみならず、俳優、映画監督としてもキャリアを積んでいく。ABCテレビ「探偵!ナイトスクープ」では長く探偵を務め、夜遅くまで遊んでいる子どもの前に現れる“ガオ〜さん”としてもお馴染みの存在となる。昨年12月に単館上映され、長原と河本政則監督と共同監督を務めた映画「不檄(ふれぶみ)~男たちの生きた証~」(アソシエイトプロデューサー・石井宏一)が今月から各地で公開される。2月22日、24日には大阪・十三シアターセブン、3月3日、4日には大阪・日劇シネマで上映される。同作は実際に起こった暴力団事件を題材にした物語。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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