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わかぎゑふが直面した新型コロナ禍での思い。そして、そこから生まれたもの

中西正男芸能記者
今の思いを語るわかぎゑふさん

 劇作家、演出家のわかぎゑふさん(63)。これまでありとあらゆる舞台を手がけ、演劇と向き合ってきましたが、新型コロナ禍の中で湧き出てきた思い。そして、その思いから生まれたものとは。

“ふるい”にかけられている

 新型コロナ禍で、2020年は13本のお仕事が延期になりました。

 どこのエリアだけということではなく世界中の演劇人が止まる事態。まさにこれまでにないことが起こりました。

 もちろん、本当に大変なことですし、あらゆるマイナスが押し寄せてもいます。でも、私自身はある種の“ふるい”にかけられたのかなとも思っているんです。

 演劇の神様が大きなザルに演劇界を入れて、ガサガサ揺すっているのかなと。お客さんに甘えて「こんな感じでいいんだろ」と思っていた人は立ち行かなくなった。そんな選別がなされたのかなとも感じているんです。

 求められるもの以外、ふるいにかけられる。そういった要素もあると思っていて、私は本心では「ざまあみろ」と思っている部分もあるんですけどね(笑)。

 コロナ禍で何かを失ってばかりではなく、コロナ禍だからこそ生まれたものもある。それで言うと、今月上演する舞台「12人のおかしな大阪人2023」もまさにそうだなと。

 ことの始まりは28年前。当時は関西の小劇場がイケイケドンドンだった時代でございまして、その中でも目立っていた生瀬勝久とかキムラ緑子とか今は一線でやっている人たちが集まって「12人のおかしな大阪人」をすることになったんです。

 それぞれ各劇団のスター選手みたいな人ばっかりで、みんなまだ若かったこともあって当時はみんな小生意気なところもあったんですけど、公演3日前に阪神淡路大震災があったんです。

 当然、大変な中での公演になりました。ただ、それによって出演者12人の結束が異常に強くなったんです。一つの作品を超えたつながりというか。私もその時は出演者の一人だったんですけど、その時の空気というのは特別なものでした。

 そして、時を経て2020年。今はそれぞれ引っ張りだこになっているメンバーなのに、いきなり“無職”になりました。完全にストップしました。これまで考えもしなかったことが起こりました。

 そこでまた「今だからこそできることを」という空気になって、みんな Zoomなんて触ったこともなかったのに、リモートでできることをやろうとなったりして、今一度あの時の気持ちを思い出すことにもなったんです。

 そんな中で、今の関西の小劇場のうまい人たちに声をかけて、もう一回、この作品を作ってみようとなりました。これも今の時期だからこそ生まれたものなのだろうなと思っています。

今の自分だからこそ

 この28年間で世の中はいろいろと変わりました。だけど、一つだけ変わらないのは「大阪人はよくしゃべる」。この事実だろうなと(笑)。

 今回のお芝居も、舞台の設えは極めてシンプルでイスが並んでいるだけ。そこで12人の大阪人がひたすらしゃべる。それが軸です。

 私自身、大阪に関する書籍も山ほど出していて、何回も言ってきたことなんですけど、やっぱり大阪という街は特殊だなと思います。世の中が平均化している中ですけど、それでも特殊だなと。

 街で見知らぬ人のリュックのチャックが開いていたら「あ、チャックが開いているし危ないな」とは思っても、声はかけない。それが日本人の基本的な文化であり、武家社会の中でそういうことを他人に言うのは失礼にあたる。その感覚が働くわけです。

 でも、大阪の人は脳を通さずに反射的に「開いてるやん!大変や!」と思って「ちょっと、リュック開いてますよ」と声をかける。

 普通に考えたら、声をかけてあげた方がいいんです。でも、それを「何となく」しない。この「何となく」を取り除いて声をかける。こちらの方がむしろ世界基準だし、こういったところは大阪の良いところだと思っています。

 あとね、全然違う話になりますけど、3年前に母親が死んだんです。その中で実家を片付けていたら、20~30年前の私のインタビューの記事が出てきて。そこに私の肩書として“エッセイスト、女優、DJ”と書いてあったんです。

 実際、当時はラジオ番組を複数やっていたのでDJという肩書も全く間違いではなかったんですけど、今はそこも外れているし、女優というのも外れている。そこで「私、この先、何になるんやろう」という思いが出てきたんですよね。

 そこでふと思ったのがプロデューサーという言葉だったんです。お金を集めたりするわけではないので、純然たるプロデューサーではないのかもしれませんけど、何かのきっかけを作るとか、座組の音頭を取るとか、それならできるのかなと。

 これもコロナ禍が影響してもいるんですけど、昔から付き合いの深い歌舞伎の中村鴈治郎とかと話す中で、自分がこれまで純粋に気が合うから関係性を作ってきた人たちをつなげて、何か新しいものを作ってみようかと。

 それをプロデューサーと呼ぶのかどうかは微妙かもしれませんけど、自分のこれまでの蓄積があるからこそできるもの。それをやっていくのも、今の自分だからこそなのかなと。

 ゼロから企画を持っていくよりも、これまでの付き合いがあるから「よし、やろう!」にスッとなる。これも実は大きな要素なのかなと思ってもいるんです。

 持っているもの、ためてきたもの、たまってきたものをうまいこと使う。それも良いことなのかなと思いますし、そう考えると歳を重ねていくことにより意味を感じられるなとも思っています(笑)。

(撮影・中西正男)

■わかぎゑふ

1959年2月13日生まれ。大阪府出身。劇作家、演出家、エッセイスト。会社員などを経て、作家、コピーライターの中島らもさんと出会い、86年に劇団「笑殺軍団リリパットアーミー」を立ち上げる。古典芸能への造詣も深く、歌舞伎「たのきゅう」(坂東三津五郎主演)、「色気噺お伊勢帰り」(中村鴈治郎主演)の演出や衣装デザインなども手掛けた。(財)大阪市女性協会きらめき賞、大阪舞台芸術奨励賞、バッカーズ演劇奨励賞などを受賞。企画、台本、演出を務める舞台「12人のおかしな大阪人2023」は東京公演(1月7日~17日、紀伊國屋ホール)、大阪公演(21日~22日、松下IMPホール)が行われる。出演は今江大地(元関西ジャニーズJr.)、うえだひろし(リリパットアーミーⅡ)、内絢貴(劇団五期会)ら。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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