「凶器出した瞬間反則負け」。「ナインティナイン」らを育てた漫才作家・本多正識氏が語る笑いの今と可能性
漫才作家として「オール阪神・巨人」らのネタを作り、講師としてNSC大阪校で長年教鞭もとる本多正識さん(64)。12月13日には著書「1秒で答えをつくる力」を上梓するなど笑いの最前線に身を置いて約40年が経ちますが、世の中の価値観が激変する中で感じる笑いの今と可能性とは。
凶器を出した瞬間、反則負け
ここ数年、笑いを取り巻く環境は大きく変わったと思います。もちろん、時代によって変わるのが笑いなんですけど、今は変化の幅が大きい。それを痛感します。
少し前なら何の問題もなくOKというネタでも、今出すとダメとなる。いわゆる“チビ”“デブ”“ハゲ”と容姿をイジるものだったり、もしくは「オレ、昔、ワルやってたから」みたいな話だとか。そういうものに対しては、本当にダメな時代になりました。
もし言うなら、これでもかとツッコミの人がキレイに否定して完全に“滅菌消毒”して、最後に「ダメですよ」と言うくらいじゃないと成立しない。笑いで長く使われてきた手法というか、それが減っているのは間違いないです。
あと、昔も今も反則ギリギリの技というか、そういう部分もあるんですけど、昔はプロレスの凶器攻撃みたいに5秒以内ならセーフだったものが、今は凶器を出した瞬間に反則負けになる。ここの遊びも確実に減ったと思います。
そこにはSNSの存在ももちろんあります。テレビはもちろん、単独ライブでも、そういった領域のネタをするとSNSから話が広まっていく。ま、ただ、アウトと声を挙げている人は全人口の何パーセントなのか。そこも本来は考えるべきところなのかもしれませんけどね。
だから、今の若い人はかわいそう。笑いのパワーが落ちてしまう。
その見方もあるのかもしれませんけど、それと同時にまだ使っていないものはたくさんある。そこをどう新たに笑いにしていくのか。
限られた資源のうち、何割かが使えなくなってしまう。それなら大打撃ですけど、実はまだ見つかっていない資源が山ほどある。僕はそう思っていて、お笑い受難の時代ではなく、新たな笑いを見つけるチャンスだと捉えているんです。
去年の「M-1グランプリ」で「ロングコートダディ」が“肉うどん”という言葉をうまく使ったみたいに「その言葉自体は前々からあるけれど、出し方でお客さんを裏切る」。そんな手法は無限にあるはずですし、それ自体は刺激が強いものではないかもしれないけど、そこをセンスの力で刺激的にする。それも今の時代の一つのやり方だと思います。
「こんなによく燃えて、二酸化炭素も出ない夢のエネルギーがあったなんて」という石油でも石炭でもないエネルギーが見つかる時代。それが今なのかなと。もちろん、それを見つけることはものすごく大変なんですけどね。
“話を聞く”難しさ
僕も若手を教える仕事もさせてもらっているので、自分なりに「こうなってくれたらいいのにな」という思いは若手に対してあるんです。
ただ、それを直接僕が伝えてしまうと「本多先生から言われたこと」になる。人から言われたことだから、本人は納得しているつもりでも芯までは染みわたっていないし、うまくいかなかった時に本多のせいにできてしまう。これでは本当の意味で身についたことにはならない。
かといって、何もしないままでは教える立場にあるものとしての歯がゆさもある。いかに、本人たちに自分のことだと分からせた上で伝えるか。それが本当に難しいことだと今でも思います。
ただ、これは売れる芸人さん論にもつながる話だと思うんですけど、結局、売れる人は「聞く耳を持っている人」だと僕は思っているんです。
ちゃんと聞いて、理解して、実践する。これを最後まで完遂できる人がなかなかいない。本人は本当に真剣に聞いているつもりでも、真意を理解できていなかったり、実践できていなかったり。
「かまいたち」の濱家君が若い頃「ナニ言うてんねん、お前」「違うやん、お前」と語尾に“お前”という言葉をつけてたんです。
これは間が怖いのもあるし、それがいつしかクセにもなってたんでしょうけど「その『お前』は要らんで」とは伝えてました。
濱家君もしっかり聞いて「確かに要りませんもんね」と納得してくれたんですけど、それでもクセになってしまっているからなかなか抜けないんです。
そんな状態が10年近く続き、濱家君があるイベントで「見取り図」の新ネタを舞台袖から見ていたんです。そこで盛山君が「お前」とつけているのに気づいて「確かに、要らんな」と思ったそうなんです。そこでスパッと「お前」が取れたと。
「本多先生が言ってたのはこれやったんやと思いました」と本人も言ってくれてましたけど、それくらい心底聞いて、きちんと進むということは本当に難しい。
でも、それをやって、やり続けて、絶えず前に進んでいる人しか売れ続けないのもまた事実なんですよね。
つい先日、オール巨人さんも「まだまだ『オール阪神・巨人』は進化せなアカン」とおっしゃってました(笑)。これはね、ホンマにすごいことやと思いますし、それと同時に、それが真理でもあるんでしょうね。
時代に合致しながら、常に進化もする。行きつくところ、必要なことは「新しいものを作り続ける」ということだけなのかもしれませんけど、この“だけ”が難しいんですわね(笑)。
ただ、やっぱり僕は今の時代は新しい金脈を掘り当てるチャンスやと思ってますし、それができる人が次のスターになっていく。一番可能性に満ちた時代だとも思っているんです。
(撮影・中西正男)
■本多正識(ほんだ・まさのり)
1958年生まれ。大阪府出身。79年、ラジオ大阪「Wヤングの素人漫才道場」のコーナーに11本連続で漫才台本が採用されたことをきっかけに漫才作家を志す。大阪シナリオ学校通信教育部を卒業し、83年に漫才作家集団「笑の会」に参加。84年に「オール阪神・巨人」の台本を執筆してブレーンの一人となり、漫才コンビや吉本新喜劇に台本を提供。91年には読売テレビ「上方お笑い大賞」で秋田實賞を受賞した。90年にNSCの講師に就任し、担当した生徒数は1万人以上。「ナインティナイン」「キングコング」「南海キャンディーズ」「ウーマンラッシュアワー」など人気芸人を指導した。「M-1グランプリ」「キングオブコント」で審査員を務め、2017年のNHK連続テレビ小説「わろてんか」では脚本協力、漫才指導として参加した。12月13日に著書「1秒で答えをつくる力」を上梓する。