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「自分でも分からない。だからこそ楽しみです」。桂米紫が語るこの先の自分と落語の奥行き

中西正男芸能記者
今の思いを語る桂米紫さん

 1994年に桂都丸(現・塩鯛)さんに入門し、演劇や映画など幅広く活動する桂米紫さん(48)。最近はYouTube配信や愛猫・めんちぼうるがSNSで話題になるなどさらに活躍の場が広がっていますが、50歳を前に感じる落語の奥行きとは。

脆い商売

 新型コロナ禍で仕事が止まってしまいまして、その中でも何か発信ができないかと思って始めたのがYouTubeだったんです。

 それまでも事務所のYouTubeチャンネルはあったんですけど、そこを使って後輩とのトークを配信するようになりまして。最初はコロナ禍で仕事が止まっている間だけと思ってスタートしたんですけど、見てくださる方も増えてきて「それやったら、続けようか…」と今に至っています(笑)。

 コロナ禍で最初に感じたのが「この商売は脆いものなんやな」ということでした。お客さんに来てもらえない。そうなると、どうしようもない。30年近くこの商売をやってきて、改めてそれを痛感しました。

 ただ、それと同時に、乗り越える強さも感じました。仕事がなくなってアルバイトをするようになった仲間もいましたけど、コロナ禍で廃業した噺家は僕の知る限りいない。

 何があっても、そのエピソードをマクラに入れたりしながら、コロナ禍のしんどさもお客さんとの共感のツールとして使う。脆いけどたくましい仕事やとも思いました。

 コロナ禍の産物というか、YouTubeも期せずして得たものでしたし、今僕のTwitterなどで反響をいただいているのが猫なんです。

 もともと子どもの頃から猫は飼ってたんですけど、17年飼ってた猫が5年前に死んでしまいまして。長いこと一緒にいたのでショックもあって、もう猫は飼わないでおこうとも思ったんですけど、縁があって、親戚のオッチャンの流れで今飼っている猫に出会ったんです。

 めんちぼうるという名前をつけてSNSに写真をアップするようになったんですけど、それを見てくださる方が増えてきまして。

 自分の落語会の宣伝をすると“いいね”が30ほど。猫の写真だと200ほどになる。「自分の落語はなんなんや…」とも思いますけど(笑)、猫好きの人が新しく落語好きにもなってくれたらそれはそれでうれしいですし、その流れにも感謝しています。

落語の奥行き

 落語をご存知ない方からしたら、落語はみんな同じ話をしていると思われるかもしれませんけど、映画と言ってもジャンルがいろいろあるように、ネタによって、演者によって、落語にもいろいろな顔があるんです。

 僕は学生の頃から映画が大好きでして。スピルバーグ監督のような“本流”の作品も見るんですけど、独特の味がある作品が好きなんです。デイヴィッド・リンチ監督みたいにメインストリームではないかもしれないけど、その人ならではの味付けがある。それを味わうのが好きですし、落語においても、そういうことができたらなとは思っているんです。

 落語には悪人は出てこない。人を傷つけない優しい笑いとも言われるんですけど、僕は実は人の弱いところや決してきれいではない感情も入っているものだと思っているんです。

 そんな生々しい部分もしっかりと踏まえた上で落語をする。特に言葉として何かを入れるわけではないけれど、それを意識した上でやることによって、また独特の味が出てくるのではないかと思っているんです。

 もうすぐ50歳という年齢も見えてきます。これまではいろいろな色を使った力強い絵みたいな芸風でやってきた思いがあるんですけど、ここからは少しずつ知らぬ間にいろいろなものが削げ落とされて空気が変わっていくのかなと師匠の姿を見ていても感じます。

 水墨画みたいになるのか、また違う風合いになるのか。自分でもそこは分かりませんけど、そうやって変わってくのもまた落語の魅力やと思いますし、自分のことですけど自分でも楽しみでもあります。

 …真面目にしゃべり過ぎましたかね(笑)?ただ、ホンマにそう思いますし、この先の道も楽しみながら一歩一歩進んでいこうと思っています。

(撮影・中西正男)

■桂米紫(かつら・べいし)

1974年3月20日生まれ。京都府出身。本名・林嘉晃。米朝事務所所属。94年、桂都丸(現・塩鯛)に入門。桂とんぼの名をもらう。97年に表記を都んぼに変更。2010年に4代目桂米紫を襲名する。「NHK新人演芸大賞」落語部門大賞、「なにわ芸術祭」新人奨励賞、「文化庁芸術祭」大衆芸能部門新人賞、「繁昌亭大賞」奨励賞などを受賞。映画にも造詣が深く、インディーズ映画にも出演。猫好きとしても知られ、ツイッターなどに愛猫・めんちぼうるの写真をアップしている。11月3日には落語会「中之島南光亭」(大阪・中之島会館)に出演する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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