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なぜ明石家さんまが大トリだったのか。そして「伝説の一日」の何が伝説だったのか

中西正男芸能記者

4月2日、3日と大阪・なんばグランド花月(NGK)で吉本興業の110周年イベント「伝説の一日」が行われました。

266組377人が出演した規格外のイベントとなりましたが、有料配信チケットも10万枚を突破する勢いで、お笑いの底力を見せた場ともなりました。

23年間、吉本興業を取材し今回のイベントも現地で取材をしていましたが、吉本興業がなぜ110年も続いているのか。このイベントこそが、その根本を示していました。

強さの原点は劇場。

ここに尽きると思います。

全国に14の劇場を構え、お金を払って足を運んでいるお客さんを笑わせる。笑わせるしかない重圧に日々さらされる。その真剣勝負を繰り返しつつ、先輩の芸も間近で見ることができる。さらに、楽屋でバカ話をする中で芸人としての矜持を磨く。劇場を軸にした凄まじいまでのトレーニングシステムが確立されています。

そもそも劇場に出演するための若手のバトルも熾烈で、猛者同士のスパーリングで強さを見せた者だけが上のリングで戦え、さらにそこで勝った者だけが次のリングに進むことができます。

31年ぶりにNGKで漫才を披露した「ダウンタウン」が30分以上にわたり、お客さんを笑わせ続ける。

今は日々劇場に立っているわけではないが、劇場というリアルファイトのリングで勝ち上がってきた。それをこれでもかと示す30分でもありました。

そして、両日とも興行を締めくくったのは明石家さんまさんが出演するコメディー「さんまの駐在さん」でした。

なぜ興行の“トリ”が「―駐在さん」なのか。関係者への取材を重ねると、そこの理由が像を結びました。

「さんまさんという吉本を代表するタレントさんだからトリを務めてもらう。一時代を築いた人気コメディーだから選ぶ。もちろん、その要素もありますが、一番はこの形こそが“今の吉本興業”を明確に示せるからなんです」(吉本興業関係者)

「―駐在さん」自体のストーリーも自由度の高いものに設定されており「かまいたち」や「見取り図」など今の人気者から西川きよしさん、桂文枝さんらベテランまでがゲスト的に登場しやすい形になっている。

勢いのある若手や人気者、長年にわたり吉本興業を支えてきた師匠クラスの芸人さんが同じ板の上に立つ。そして、ナマの舞台ゆえ何が起こるか分からないハプニングも含め、さんまさんが全てを笑いに変えていく。

今の吉本興業を、全ての原点である舞台という皿に盛りつけてお客さんに供する。それを具現化するのが「―駐在さん」であり、今この瞬間しか味わえない、その時点で最高の味をその場で食べてもらう。

この一連の流れがこれからも語り継がれる伝説になるよう、そして、それがまた次の伝説を作る材料にもなってほしい。そんな思いを込めて「―駐在さん」という演目がトリに選ばれたとのことでした。

若手からベテランまで全てのパターンに対応し、エンターテインメントに変える。この存在感と技量を持ち、その役割を全うするための適任者がさんまさんだったということでもありますが、さんまさんも10年後の120周年の時には76歳。

この日、さんまさんがやったことを次の節目では誰がやっているのか。その誰かを生むのもまた劇場であることだけは間違いありません。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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