「M-1」敗退、新型コロナ罹患。「二度とこんなことはしたくない」を経て「ミキ」がたどり着いた今

兄弟漫才コンビ「ミキ」の亜生さん(左)と昴生さん

 今月、初のオフィシャルブック「ミキ、兄弟、東京」が発売された兄弟漫才コンビ「ミキ」。7月から10月まで7都市をまわる全国ツアーも開催され、前へ前へと歩みを進めます。ただ、昨年は苦難の年でもありました。「M-1グランプリ」では優勝の有力候補と見られつつも準々決勝で敗退し、12月には兄の昴生さん(35)が新型コロナに罹患。弟の亜生さん(32)が「今だから話せる」と語る時間を経て、二人がたどり着いた今とは。

「二度とこんなことはしたくない」

昴生:去年、新型コロナ禍で中止になった全国ツアーを今年はやらせてもらうことになりました。このご時世なので、これまで通りの感じでは難しいかと思いますが、なんとか今の100%を目指して準備をしています。

亜生:コロナ禍の前は、全国ツアーをやるのが当たり前というか、毎年の恒例行事という感じでいたんです。

もちろん、これだけのことをさせてもらえるだけでありがたいことなんですけど、その思いが今は何倍も強くなりました。

この状況の中、お客さんは僕らのためだけにわざわざ足を運んでくださる。それがいかにありがたいことなのか。つくづく思います。

なので、一昨年のツアーよりも緊張感が増しているのも事実です。そのありがたいお客さんの前で、絶対にヘタなことはできないなと。

昴生:コロナ禍でいろいろと意識が変わったのはあると思います。去年、緊急事態宣言が明けた後、劇場は開いたもののお客さんは入れられなくて、無観客で配信用のカメラに向かって漫才をやりました。しかも、僕ら二人の間にアクリル板が設置されている。

あれを経験して、本当に正直な話、二度とこんなことはしたくないと思いました。そして、お客さんがいてくださる意味も強烈に感じました。

コントの人は別かもしれませんけど、漫才って「誰に話しかけているのか」というのがあるんですよね。

しゃべってるのは演者二人なんですけど、お客さんにも話しかけてるんです。僕ら、そして、お客さん。この3点が合わさって、ようやく漫才になるんだと再確認しました。

新型コロナ罹患

昴生:仕事量的にも、緊急事態宣言の時には、それまでを100だとしたら、恐らく5くらいまで減りました。

仕事もないし、やることもない。

エエ格好をするわけではないんですけど、そこで思ったのがお金儲けとかそんなことではなく、どうやったら自粛期間中にまで僕らのことを見たいと思ってくださっている皆さんに楽しんでもらえるか。それやったんです。

それを考えて、二人でインスタライブを始めました。毎日、新ネタの漫才をアップするという形で。

リモートでの漫才なので、時間のズレがあって間も崩れるし、それを漫才と言えるかどうかも微妙やったんですけど、それでもとにかくやろうと。

そんな環境で新ネタをおろすなんて普段だったら絶対にしませんし、芸人仲間からも「賞レースもあるし、そういう形で新ネタをおろすのはネタバレにもなる。どこから考えても、良くないんじゃないか」というアドバイスもたくさんもらいました。

でも、その時は「この状況をいかにしてみんなで乗り切るか」ということが思考のメインだったんです。

実際、その後に「あの毎日の配信を楽しみに家事をしていました」とか、いろいろな声をいただくことができましたし、あれはあれで良かったと今でも思っています。

亜生:コロナ禍でいうと、去年の年末、お兄ちゃんが実際にコロナにかかりましたからね。これは大きなことでした。

年末年始、みんなが一番忙しく稼働している時に、1カ月弱休みになった。その時は、本当にいろいろ考えました。

普段、熱が出ない体質なのに、恐ろしいほど熱が上がってましたし、本人とは連絡が取れない状況だったので、ずっと奥さんと連絡を取っていました。そうやって聞く状況では、正直「死ぬかもしれない」ということも考えました。

昴生:もう大丈夫となった時、親は泣いてました。

人生で一番のしんどさでもあったので、僕は意識朦朧として何も考えられない、分からない。そんな状況だったんですけど、周りはそこまで心配する感じだったんやなと。親の涙で、いかに厳しい状況だったのかを思い知りました。

亜生:今だからこそ話せますけど、その時はあらゆるパターンのことを考えました。「死ぬ」ということも、その考えの中にはありましたし、これからどうするべきなのか。否応なしに、考えさせられた時間にもなりました。

結果、本当に幸運なことに、今、こうやって二人でいることができています。だからこそ、こうやって前向きなトーンでお話ができていますけど、あの時間は特別でした。

お笑い第7世代

昴生:去年からの流れで言うと、コロナ禍もありましたけど、お笑い第7世代というワードもものすごく聞くようになりました。

第7世代というところに含まれたり、あるいは、客観的にそのくくりをどう思うのかということを尋ねられたり。

いろいろな形でそことの関係性が注目されることもありましたけど、ベースとして、僕はあまり周りを意識したことはなくて「この人がこうやから、自分たちもこうしないといけない」という感覚はないんです。

第7世代と呼ばれるメンバーを見ていて、シンプルに思うのは「自分らとはまた違う人たち」ということです。

第7世代がみんなでボケたり、みんなでワーッとやってるのを見ていると「自分はここには入られへんな」と思います。

亜生は芸歴も年齢も少し違うし、また感覚が別かもしれません。

でも、僕はもう14年目とかになりますし、そもそも「ミキ」のスタイルとしても、新しいことをやっているタイプでは全くないですしね。

それは「ミキ」を組んだ時からずっとそうで、新しいというよりも、昔ながらの漫才を現代風にできないか。それを一つの軸にやっているので、新しいことを生み出すというのは、それこそ第7世代に任せておこうという感覚です。

ただ、これまでのことに固執するということではなく、漫才らしい漫才をやりつつも、その都度、新しくしていく。その感覚はしっかりと持っています。

今から5~6年前に「中川家」の礼二さんと漫才の話をしていた時に、不意に言われて、ドキッとしたことがあったんです。

「お前、漫才のネタを一個の作品みたいに思ってへんか?」

実際、僕は作品と思っていたところもあって、作ったものを大事にやっていく感覚があったんです。でも、礼二さんが続けておっしゃったんです。

「漫才なんて“みずもん”やから。時と場合によって、変わっていかなアカンし、後生大事に作品として守っていくようなものではないとオレは思うねん」

「M-1」となったら、作品的なものが求められる部分もある。僕らはそこにこだわりすぎていたところがあったんでしょうね。それを見て礼二さんが言ってくださったのかなと。

作品としての漫才や、作品的なネタ作りが得意な人もいるけれども、僕らはそういうタイプではない。

漫才という枠組みの中で、いかに自分らが遊ぶか。

本来、そうすべきタイプのコンビなのに、違う方向にこだわりすぎていたからこそ、礼二さんはそれを言ってくださったのかなと思っています。

誰よりも、礼二さんがそれを体現されていますし、その礼二さんだからこそ、お感じになったのかもしれません。

本当にありがたい言葉をいただきましたし、それ以降、より一層漫才が楽しくなりました。結果的に、そこから「M-1」決勝に進むこともできました。

「M-1」敗退からの思い

亜生:楽しく漫才ができている。だからこそ、決勝に出るだけではなく、もう一歩。なんとか優勝したい。去年、準々決勝で敗退してから、より一層その思いは強くなりました。

なんかね、準々決勝で落ちて、自分の中で心底恥ずかしいと思ったんです。いけると思っていたのに、結果的には全くダメだったので。

そうなると、僕はネットとかの書き込みを見ちゃうんですよね。かなり辛辣な言葉もあって、落ち込んでたんです。

そんな中、松本人志さんの楽屋にご挨拶に行くタイミングがあったんです。そこで、松本さんが少し前に放送されたフジテレビ「THE MANZAI」の話を持ち出して「あの漫才、メッチャ面白かったわ」と言ってくださったんです。

その言葉で、驚くほどにスッと救われたというか…。「M-1」で凝り固まっていた頭がほぐれるというか。何もない真っ暗な中に、一筋の光が差し込んだ気がしました。

昴生:…いや、それは松本さんに褒められたのがうれしかったというだけの話で、そんなん誰でもうれしい話やん!誰が言われてもうれしいという話やから(笑)。

亜生:そら、そうかもしれんけど(笑)、あの一言をいただいて、ホンマに気が楽になったんです。「M-1」以外にも価値判断があるというか。

昴生:その場には僕もいたんですけど、その言葉をもらって、余計に「M-1」を頑張ろうと思いました。楽屋とかじゃなく、ちゃんと多くの皆さんが見てらっしゃる前で「面白い」と言ってもらえるようになろうと。

長い漫才師人生の中で、やっぱり「M-1」チャンピオンというタイトルは欲しいです。

そして、ずっと挑戦できるものではなく、15年という区切りが決まっていますから。そこまでは、自分たちのスタイルで力いっぱい挑みたいと思っています。

(撮影・中西正男)

■ミキ

1986年4月13日生まれの昴生(こうせい)と88年7月22日生まれの亜生(あせい)の兄弟コンビ。京都府出身。吉本興業所属。先に芸人として活動していた昴生と、会社員を経て芸人の世界に入った亜生が2012年結成。コンビ名の「ミキ」は本名の名字「三木」をカタカナにしたもの。上岡龍太郎は母方の伯父(母の兄)にあたる。上方漫才大賞新人賞など受賞多数。「M-1グランプリ」では17年、18年に決勝進出。19年に拠点を大阪から東京に移す。4月13日には初のオフィシャルブック「ミキ、兄弟、東京」を発売。東京に出てきた激動の2年間を撮り下ろし写真とインタビューによって振り返る内容。昨年は新型コロナ禍で中止となった全国ツアー「ミキ漫 2021全国ツアー」を開催。東京公演(7月2日、有楽町よみうりホール)からスタートし、北海道、愛知、石川、宮城、福岡をまわり、大阪公演(10月1日、なんばグランド花月)でフィナーレを迎える。

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。noteで「全てはラジオのために」(note.com/masaonakanishi)も執筆中。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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