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気鋭の演出家、霧島ロックが語る「取り返しがつかないこと」

中西正男芸能記者
演出家としても活動する俳優の霧島ロックさん

 4人組グループ「ふぉ~ゆ~」の越岡裕貴さん、関西ジャニーズJr.の室龍太さんが出演する舞台「ッぱち!」で作・演出を務める俳優・演出家の霧島ロックさん(49)。新型コロナ禍で舞台を作る難しさを強く感じていると言いますが、さらに、大きく価値観を変える出来事があったと言います。「取り返しがつかないこと」を経ての思いとは。

お客さんの「エッ?」

 今作は2019年が初演だったんですけど、新たに越岡さん、室さんを迎えての再演なので、役の年齢設定とか流れを少し変えて本番にのぞむ予定です。

 ポスター撮影などで初めてお会いした時から、ジャニーズとは思えないというか(笑)、まぁ、しゃべる、しゃべる!長年組んでいる漫才コンビみたいな空気で驚きました。

 それと、これは致し方ないことなんですけど、新型コロナ禍を意識した変更というのも各所に少しずつ出ています。

 19年の時は、出演者同士の“近さ”への配慮はなかったんですけど、今はどうしても近い距離でしゃべっていると、見ているお客さんが「エッ?」となってしまう。

 もちろん、舞台はお客さんに見てもらうものなので、お客さんの感覚という部分がすごく大きいんですよね。

 「近いな…」「恐いな…」「大丈夫か?」という感覚が出てしまうと、その時点で、舞台に集中できなくなる。

 なので、ここはそれほど近づかなくても大丈夫だと思われるところはなるべく距離を置く。みんながテーブルにつくようなシーンでは、テーブルの大きさを大きくして、不自然にならないように距離を作る。そんな変更は考えています。

 私はどちらかというと危機感というものに疎い方やと思うんですけど、テレビを見ていて「え、この距離感大丈夫なんか?」と思ったら、昔の映像やったりしますもんね。

 自分も含め、知らない間に距離感にすごく敏感になっている。そういうものが邪魔になってお芝居が楽しめないとなっては全く意味がないですからね。

転んでもただは起きない

 あと、コロナ禍で無観客での公演とか、リモートで配信することありきの舞台というのもたくさん生まれました。

 これはこれで意味のあることだし、そのノウハウみたいなものはコロナ禍が落ち着いたとしてもなくなることはないとも思います。

 ただ、それと同時に、コロナ禍でより思うようになったんですけど、同じ空間からあふれるものを共有する。温度が伝わる空間で熱を共有する。僕がアナログな人間やから、より一層思うのかもしれませんけど、その意味も絶対にあると再確認しました。

 新たな手法にしても、再確認にしても、何かプラスを得ないと腹立ちますしね(笑)。

 コロナ禍はもちろん大変だけど、大変だけでなく、転んでもただでは起きない。足踏みしたけど、足踏みで足腰が強化されて足が速くなったくらいのことを得られる強さを持っていたいなとは思っています。

取り返しがつかないこと

 今回のコロナ禍も非常に大きな転機になっていると思うんですけど、個人的に、過去で一番大きな転機になったのは3年前の1月にオトンが死んだことですね。

 父と母は離婚していて、僕は体が弱っていた父と一緒に大阪で暮らしていました。母はまだ健在なので、初めての近い身内の死。本当に大きかったですね…。

 認知症が進んでもいて、父もしんどかったと思うんですけど、何と言うんでしょうかね…、親父というのは母親とは違って、荒っぽく扱っちゃうというか。分かってはいても、冷たくあしらってしまうというか…。それは今になってすごく後悔しています。

 「取り返しがつかない」ということはこういうことなんだ。本当に「取り返しがつかないこと」をまざまざと見せつけられました。

 例えば、家でテレビを見ていて、親父と同年代の人がトレーニングをしたり、バリバリ頑張っている映像なんかが流れると「ほら、オトン!この人も頑張ってるやんか。オトンも頑張らなアカンで!」と言ってたんです。

 それを言う根底にあるのは「オトンはサボっている」「オトンは戦っていない」という僕の勝手な決めつけだったんです。

 でも、父がいなくって今一度冷静に考えた時に、自分が認知症になって、できていたことができなくなっていく。それって、メチャメチャ怖いですよ。

 そんな中、あの人はそれを僕に怖いと言ったこともないし、泣き言を言ったこともない。さらに、わがままを言ったこともない。どちらかというと、いつもヘラヘラ笑ってたんです。

 体も心も弱っていく中、家でじっとしていることが多かったんですけど、それに対して僕は「頑張らなアカン!」と言ってしまっていた。親父は十分頑張っているのに、そうやってあたっていた。

 あの人はものすごく戦っていたし、ホンマは僕も一緒に笑ってほしかったんやと思います。それをオレは分からんかった。それが今になって本当に悔やまれます。

 人それぞれ、違う山を登っている。

 そして、人は大変なことをなかなか見せない。

 父親のことがあって、ただ、本当に幸いなことに、ウチはまだ母親が居てくれている。なので、母親への接し方は明らかに変わりました。

 電話をかけたら、毎回同じ話を1時間くらい聞かされるんですけど(笑)、それもしっかりと聞く。

 ほんで、大阪のオカンやから、腹立つことをズケズケと言ってきたりもするんですけど、そこでイライラして言い返すんではなく、そこもきちんと話を聞くようになりました。

 今は元気やけど、もうオカンもそんなに長くはいないだろう。亡くなった時に、金払ってでもオカンの声を聞きたくなると分かっている。だから、今、しっかりと電話でも話しておこう。そう思うようになったんです。

 父親が死んで、僕が作るものにも影響を及ぼしていると思います。死とか避けられないものにぶち当たった時に、人はどうやってまた顔を上げるのか。それを書くことが多かったりもするんですけど、そこには父が大きく影響していると感じています。

 あと、基本的にはお客さんに笑ってもらって、そして、温かい気持ちになってもらう。そんなものを作りたいと思っています。

 いろいろな作品がありますし、人間の汚い部分を描いて、終わり方も胸くそ悪い感じであえて終わる作品もあります。そういう作品が好きという方もいらっしゃいます。

 でも、今、自分が作りたいものはそうではないんですね。それでなくても、日常生活でしんどいことがいろいろある。その中で、仕事が終わって、夜にお芝居を観に行く。休みの日にお芝居を観に行く。決して安くないお金を払って。

 そこで、普段のしんどいことを凝縮したようなものをまた見せられてもな…と僕が客の立場やったら思うんです。だから、自分が作るものはそうじゃないものにしようと。

 …なんだか、特に後半は真面目な話をしてしまってますけど(笑)、こんな感じで大丈夫ですかね?ま、とにかくお客さんには楽しく、気楽に見てもらいたい。コロナ禍で来ていただくだけでも本当にありがたいばかりですけど、そこで、少しでも楽しんでもらえたら。ただただ、そう思うばかりです。

(撮影・中西正男)

■霧島ロック(きりしま・ろっく)

1971年10月11日生まれ。大阪府出身。身長170センチ。関西の大学在学中から演劇を始め、東京を拠点にした後、小劇場を中心にフリーで活動。2005年に「ここかしこの風」の旗揚げに参加し、以降ほぼ全作品に出演。現在は同団体の作、演出も担当している。舞台「ッぱち!」では作・演出を担当。出演は越岡裕貴(ふぉ~ゆ~)、室龍太(関西ジャニーズJr.)ら。同作は東京公演(5月13日~19日、銀座・博品館劇場)、大阪公演(5月21日~25日、松下IMPホール)、東京凱旋公演(5月28日~6月6日、ニッショーホール)が行われる。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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