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田畑勇一が語るお笑いコンビ「田畑藤本」解散の理由。そして“東大じゃない方”だからこそ分かる東大の意味

中西正男芸能記者
昨年末でお笑いコンビ「田畑藤本」を解散し、ピン芸人として再始動した田畑勇一

 吉本興業初の東大卒業芸人・藤本淳史さんが所属していたコンビ「田畑藤本」が昨年末で解散しました。今後はそれぞれがピン芸人として活動していきますが、コンビ時から“東大じゃない方”となっていた田畑勇一さん(36)が語る解散の理由。そして“東大じゃない方”だからこそ分かる東大の意味について語りました。

解散の理由

 昨年末でコンビは解散となりました。ただ、解散に関しては自分たちで事実を発表しただけで、取材は一つも受けてこなかったんです。

 解散理由というのも、なかなか言葉にしづらいものでもあったんですけど、普通に考えて解散となったら気になるのはそこですものね。

 なんでしょう、コンビで各々が思っていること、やりたいことが違ってきた。それが積み重なってきた。大きく言うと、それが原因だと思っています。

 正直な話、去年の年始は「M-1」に向けて頑張っていこうと話をしていたんです。ただ、そこからコロナ禍があり、劇場に立てないという状況にもなっていった。

 相方とは中学からの同級生ですし、何か話すわけでなくても、顔を見ていると状況が分かるんです。それでいうと、しんどそうな顔が多くなってきたように感じまして。去年の緊急事態宣言明けくらいから、特に。

 そこで体調が心配になって僕から声をかけたというのが、解散のきっかけだと思います。久々に劇場出番などで顔を合わせた時に「大丈夫か」と思って声をかけたんです。

 そこから、逆にというか、根本の部分をたどっていくような話をしていきまして、そこでストレスの蓄積というんですかね、そういうものを感じることにもなりました。

 具体的に言うと、スタートラインで互いにイメージしていたことも異なってはいたんです。コンビを組もうとなった時、僕はベタに関西の漫才師に憧れて吉本に入ってまして、NGKに出たり、全国を漫才でまわれるような漫才師になりたいと思っていたんです。

 一方、相方はどちらかというと“芸能界”という領域に意識があったんです。なので、漫才もやらないわけではないけれども、しっかりと手ごたえを感じられたなら、自分もそっちに進んでいくというスタンスだったんです。

 ただ、もう12年ほどやってきて、相方も漫才が好きでやってくれていたとのかなとも思っていたんですけど、もともとのスタンスの違いが、やっぱりあったのかなと…。あと、結果が出ていないというのも絶対にあったとは思います。

 そういう積み重ねが出たのが去年だったのかなと。それが相方の表情や体調に明確に表れてきた気がしています。

 相方にはまた違う思いが実は根底にあったりするのかもしれませんけど、僕が認識している流れはそういうものでした。

 解散からまだ1カ月も経ってないですけど、変化としては“ネタが作れないこと”が一番寂しいかもしれないですね。

 「M-1」を目指して「タモンズ」「ゆにばーす」「ドンデコルテ」そして「田畑藤本」でやってきたライブがありまして、先日も、このご時世なのでリモートでやったんです。

 毎月新ネタを2本作って披露して、イベントが終わってからもみんなで各コンビのネタを一緒に考えるような場なんですけど、今月から僕はコンビではないので、MCという形で参加しているんです。

 いつも通り深夜までネタについて話して、その場は終わったんですけど、全員での話し合いはそこで終わっても、各々コンビでの話し合いは翌日以降も続いていく。でも、僕にはその“翌日以降”がないんだなと。それを体感した時に、寂しさがきました。

東大という意味

 今後はピン芸人として、自分が何を発信していくのか。それを考えないといけないんですけど、一つ、テーマに据えているのが“教育”なんです。

 これは僕が相方の横にいる立場として感じてきたことなんですけど、東大卒ということで、それに関係するお仕事をコンビとしてたくさんいただいてきました。

 東大から派生して受験だったり、勉強のことを話すような場だったり。でも、相方は麻雀も好きですし、ギャンブルも好きだし、勉強はできるんですけど、中身としてはいわゆる普通の芸人的な感覚が強いんです。

 どちらかというと、そういう勉強系のお仕事に対して熱を持っているのは僕の方で。ただ、僕は東大ではないので(笑)、僕が前に出ることはないんですけど、お仕事へのアプローチみたいなところでは、僕が前のめりでやっていた部分もあったんです。

 勉強ができることは事実だけど、皆さんが求める東大生っぽさは本来あまりない。でも、東大である以上、それを背負っていかないといけない。そこの葛藤もあったのかなと僕は横で感じてもいました。

 今は芸能界でも“東大過多”な部分があるのかもしれませんけど、それでもニュートラルに見て、東大というのは皆さんに興味を持っていただく要素としてはすごく強力なんですよ。実際、たくさんの人が寄ってきてくださる。

 でも、変な言い方になりますけど、相方は周りにたくさん魚が寄ってきても竿を出さずにそれを見ているというか。なので、僕が横から網ですくって、さばいて料理する。そんな感覚もありました。

 そして、横で見てきたからこそ、世の中が見る学歴とはどういうことなのか。そこから教育という部分に自分なりのアプローチができないだろうかと考えたんです。

 じゃ、何をするのがいいのか。もともと興味と知識があった宇宙の話をやろうと。コンビ時代のYouTubeチャンネルを僕が「田畑勇一の宇宙ふしぎ発見!」として引き継ぐ形で、そこで宇宙の話をすることにしたんです。

 このYouTubeをきっかけに、全国のプラネタリウムをまわらせてもらって、宇宙の話をする。そんな動きができたらうれしいですし、最終目標としては、東京ドームをプラネタリウムみたいに使って宇宙の話をするイベントをやる。なんとか、それくらいのことができるまで頑張ってみたいと思っています。

10が4に

 ただ、もちろん、不安もあります。ずっと二人でやってきた相方がいなくなる。しかも、これも正直な話ですけど“吉本初の東大卒芸人・藤本”のコンビ「田畑藤本」として、これまではやってきました。周りから見ていただくのも「東大の子がいるコンビやろ」というのが圧倒的多数派でした。その相方がいなくなる。

 その反面、楽しみというか、例えば、今、こういう取材もそうなんですけど、コンビで受けさせてもらう時だったら、当然、質問の多くは藤本に向きますし、座る位置からして、僕は少し下がった位置に座っておくイメージでもありました。

 でも、今は全ての質問が僕に向けられる。それにきちんと自分が答えないといけないんですけど、責任も、失敗も、手柄も、全部自分。その潔さはうれしくもあります。

 あと、ピンになって、家計簿をつけ始めました。これはね、極めてシンプルに収入が減りましたんで。これまでのコンビとしての漫才の出番がない。営業もない。ナニな話ですけど、これまでの収入を10としたら4くらいになったと思います。なので、きちんと収支を把握してバランスをとらないといけませんので(笑)。

 逆にいうと、4はまだお仕事があるんですよね。解散しましたし、コンビとして作ってきたものはゼロになるかもしれませんけど、経験や道のりはムダになってないというか。

 これは本当にありがたいことに、レギュラーとしてお世話になっている番組でも「コンビという形ではなくなるけど、できれば今後も二人で出てもらえますか?」と言ってくださってまして。

 そういう言葉をいただくと、ただただ純粋にうれしいです。これまでやってきたことが無しになるわけではない。そして、これまでの時間が救われる気もしています。

(撮影・中西正男)

■田畑勇一(たばた・ゆういち)

1984年4月10日生まれ。京都府出身。本名・田畑祐一。中学の同級生だった藤本淳史と2008年にコンビ結成。東京NSC13期生。田畑は立命館大学、藤本は東京大学を卒業しており、初の東大卒芸人のコンビとデビュー当初から注目される。20年末でコンビを解散。今後はそれぞれピン芸人として活動していく。また、コンビ時代のYouTubeチャンネルを田畑が引き継ぐ形でリニューアルした「田畑勇一の宇宙ふしぎ発見!」も展開中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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