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「おもしろ荘」準優勝。相方への片思いコンビ「フタリシズカ」が歩んだ“どん底の2年”

中西正男芸能記者
「フタリシズカ」の加賀谷秀明(左)と横井かりこる

 1日に放送された日本テレビ「ぐるナイ おもしろ荘 お笑い第7世代NEXTスター発掘スペシャル」で準優勝の結果を残した男女コンビ「フタリシズカ」。ボケの横井かりこるさん(24)がツッコミの加賀谷秀明さん(30)に真剣な恋心を抱いていることが同番組でも話題になりました。ネタ、コンビの特性などブレーク要素満載とも言われていますが、ここに至るまで「何もお笑いのことを考えられなかった」どん底の2年も味わいました。その中から再び這い上がるカギとなったものとは。

何もできない

 加賀谷:「おもしろ荘」ではトップバッターだったんで、メチャクチャ緊張はしました。ネタ中に笑い声は聞こえたので、手ごたえがなかったわけではないんですけど、僕らがやった後に他のコンビがドカンと受けているのを見ると、そこでまたドキドキとしちゃったり(笑)。

 20年は新型コロナがあった中で、何ができるのか。できることの数はすごく少ない。その中でできることはネタしかない。じゃ、ネタを頑張ろうと思ってやってきました。

 その結果、夏には「ABCお笑いグランプリ」の決勝進出も決まって、残念ながら、3位で優勝はできなかったんですけど、この「ABC―」に行けたことが、自分たちの中ではすごく大きなことでして。

 というのも、18年に初めて「ABC―」で決勝に行って、そこから僕が精神的に不安定になっちゃったもので…。この先、お笑いを続けられるかどうかも分からない。その日々を経ての20年の決勝だったので、これは運命というか、頑張れよと言ってもらっているのかなと思いました。

 横井:20年は、ずっと大逆転みたいな年でした。「ABC―」にもう一回出られたこともですし、それまでがどん底にいたので、そこから盛り返していく年でもありました。最後に「おもしろ荘」出演も決まりましたし。

 加賀谷:他からどう見えていたかは分からないんですけど、18年の「ABC―」が終わってから、自分らの中では納得できなかったというか。僕が精神的にすごく不安定になっちゃって。ライブも出られなくなって…。

 「ABC―」をきっかけに、テレビ番組のレギュラーをやらせてもらうことになったんですけど、スタッフさんと僕らのやりたいことに食い違いがあって、そこからコンビ仲も良くなくなっていったんです。

 その中で、僕の心が折れちゃったというか…。期待をしていただいているのは本当にありがたいけど、それを重圧ととらえてしまったのか。本当に何もできなくなってしまいまして。相方にも、周りの方々にも迷惑をかけてしまいました。

 ネタがどうのこうの、舞台がどうのこうの言う前に、とにかく外に出られなくなりまして。食欲はあって、ご飯は食べられるんですけど、家から出られない。怖くなっちゃって。自意識過剰というか、どこにいても見られる感じがしてたんです。見られることへの恐怖感。それがあって外出できない。

 そんな状況なので、お笑いのことも考えられませんでした。これができないというよりも、ほとんど何もできない。そんな状況だったんです。

 昼夜も完全に逆転してしまって。寝るにしても、ずっと頭の中にいろいろな思いがあるので、深く寝られない。体はずっと疲れている。そんな日々だったんです。

 横井:横で見てて「本当に無理しなくていいよ」と思ってましたし、そう話したりもしていました。でも、逆に、ここでお笑いを辞めちゃったら、何も残らないんじゃないかなとも思ったので、とにかく好きなことだけやろうと。自分たちがやりたいと思うネタだけをやろうということで舞台に上がるようになりました。

 舞台でも、テレビに呼んでもらっても、とにかく自分たちがやりたいことだけをやる。それを貫けた、貫くしかなかったんですけど、それが今から考えると良かったのか…。

 20年の春ごろから徐々に加賀谷さんの状況も良くなってきて、そこから事務所のライブでやりたいネタをやっていった結果、夏に「ABC―」が決まるという流れでして。奇しくも、2年前と同じ大会に出るという。何とも言えない思いがこみ上げてきました。

コンビ間の変化

 加賀谷:これも、結果論かもしれませんけど、コンビの関係性も18年からの2年で変わってきたと思います。それまでは僕が受け身というか。一方、相方は自分がやりたいと思ったことをしっかりと前に出してくるタイプで。

 横井ちゃんから「こうやった方がいいんじゃない?」と言われたことに対して、僕はただただ「じゃ、それでやってみよう」と答える感じだったと言いますか。

 僕は僕で、そうやって受け入れることがいいのかなと思っていたんですけど、横井ちゃんからしたら、それに不満もあったようで。その2年で、とにかくこれまでより圧倒的にコンビ間で話すようになりました。

 「なんとなく、そこは雰囲気で」みたいなところも、全部詳らかにして話す。そして、その結果、互いにそこに関してどう思っているかを共有する。なんとなくで済まさない。きちんと話す。それをコンビ間で心がけてきました。

 これって、すごくやりづらいことでもあるし、パワーの要ることでもあったんですけど、それをやるようになって、かなり変わりました。どちらかの意見を押し出すにしても、どちらが折れるにしても、そこにきちんと納得があると言いますか。

 今までだったら、自分の中で「なんでこうなったのか」というしこりが残っていて、それが相手へのイヤな感情になる部分があったんですけど、そのしこりが話すことによって少なくなった。それは大きかったですね。

 具体的な例で言いますと、今はYouTubeとかSNS系が全盛の時代。でも、僕はもう一つ乗り気ではなかったんです。一方、相方はどんどんやっていきたいタイプ。

 ただ、そこの話をしっかりしていないので「SNSはこういう理由で今は辞めておいた方いいと思う」という話を僕も伝えれてなかったですし、そこを“聞き流す”という反応をしてしまっていたんです。そうなると、相方もどうしたらいいのか分からないし、また次のフラストレーションが出てきてしまう。

 そこを互いに話をして、新たにここから頑張っていこうという話を本格的にやっていったのが2020年という年だったと思います。

 横井:自分でも、私はやりたいことが偏っているとも思っていて、いろいろ打診はするんですけど、それでも返事は「いいんじゃない」だけ。それに疲れてくるというか、否定されてるわけではないんですけど、それがしんどいというか。でも、コンビ間でたくさん話をするようになって、そこの思いはかなりなくなりました。

 加賀谷:出会ったのはワタナベエンターテインメントの養成所だったんですけど、僕はそこに入る前に人力舎で芸人をやっていたので、今から考えると「なんだよ、それ」ということなんですけど(笑)、気持ちがとがっていたというか。

 自分は芸人として活動していたので、他の養成所のメンバーとは違うぞという気持ちがあって。他の人を「どんなもんかな…」と思って見ていたんですけど、横井ちゃんのネタがすごく面白くて。

 コンビを組みたかったんですけど、そういった妙なプライドがあって、声をかけにくかったんです。でも、組みたかったから、ファミリーレストランに呼び出したんです。

 横井:それなのに「組もう」とは全然言ってこないんです。で、逆にこちらがしびれを切らせて「組みたいの?」と聞いたら「うん」と。よく考えたら、その頃から“受け身”のタネが見え隠れしていたのかもしれませんけど(笑)。

 加賀谷:確かに、そうかもしれないですね(笑)。

 横井:あと「おもしろ荘」でも、皆さんにイジってもらったんですけど、加賀谷さんへの思いというのは、全くビジネスにするつもりはなくて(笑)。ガチンコです。

 最初は、あまり好きじゃなかったんです。でも、コンビを続けていくには相方を好きにならないと成立しないと思って好きになる努力をしていったら、本当に好きになっちゃったということでして…。相方としてよりも、異性としての思いがそれ以上にあります。

 え、好きなところですか?う~ん、そうですね…。ツッコミなんで当たり前なんですけど、つっこんでくれる。あと、精神的にしんどくなるのも素直だからだと思いますし、何より一緒にいて楽しいのが一番かもしれないですね。見た目も最高にカッコいいですし。地方の仕事に行く時は、楽しくて仕方ないというか、旅行気分です。

 加賀谷:これは後から聞いた話なんですけど、ネタ合わせの数が以上に多い時期がありまして。デート感覚でネタ合わせをしている時があって、ありえないくらいあるなと。

 横井:ずっと会いたくて。

 加賀谷:すごい意気込みだなと思っていたら、全く違うモチベーションだったみたいで…。

 横井:この恋における成就ですか。そうですねぇ、賞レースに優勝して、結婚することですかね。認知してもらって結婚するのが私の中でのベスト。優勝して、おめでとうの中でもっとおめでとうと言われたいというか。なので、賞レースに対するモチベーションが二重になってる感じですね。優勝のもう一個上がありますから(笑)。

 加賀谷:逆に、僕は若干ブレてきてまして…。まだ僕は横井ちゃんで終わりたくないという思いもあって。本人の前で言うのもアレなんですけど(笑)。お付き合いしてるわけでもないですし、優勝は大事なんですけど、そこと結婚がセットという違和感が。

 ただ、周りのみんなは「頑張れ!優勝したら結婚だ」みたいに、もうそこは決定事項みたいに言ったりもしてるんですけど…、う~んという。優勝は喉から手が出るほど欲しいんですけど、結婚となると、その手が引っ込むというか。

 横井:「ABC―」は3位でしたし「おもしろ荘」も優勝ではなかったですし、まだ優勝できてないんですよね。だから、もし優勝したら、そのうれしさで、なんとなくそのまま結婚できるんじゃないかとは思ってるんですけど。

 加賀谷:優勝の喜びを恋愛テクニックとして活用した人は未だかつていなかったとは思いますけどね(笑)。優勝は絶対的にしたいんですけど、本当にブレてきています。

(撮影・中西正男)

■フタリシズカ

1990年6月26日生まれで千葉県出身の加賀谷秀明と96年7月23日生まれで石川県出身の横井かりこるが16年にコンビ結成。以前、組んでいたコンビを解散した加賀谷がワタナベコメディスクールに入学し、横井と出会う。横井は加賀谷を異性として好きだと公言しており「片思い男女コンビ」との異名も。2018年、20年と「ABCお笑いグランプリ」で決勝進出。加賀谷は日本体育大学陸上部出身で、100メートル競走のベストタイムは10秒75。今年1月1日に放送された日本テレビ「ぐるナイ おもしろ荘 お笑い第7世代NEXTスター発掘スペシャル」で準優勝。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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