「ウソばっかりつきやがって」。立川志らくに届く師匠・談志さんの言葉

落語、テレビ、そして、師匠。今の思いを語った立川志らく

 昨年9月30日からTBS「グッとラック!」で司会を務めている落語家・立川志らくさん(57)。番組開始から丸1年が経ち、周囲からいろいろな声も聞こえてくると言いますが「落語だけに専念しなさいというのは、実にとんちんかん」と語ります。落語とテレビの関係。そして、今は亡き師匠・立川談志さんへの思い。胸の内を明かしました。

テレビに出る意味

 「グッとラック!」のMCをやらせてもらうようになって、丸1年が経ちました。世間のイメージと違うかもしれないけど、私はね、どっちかというと、普段ぼんやりしてるんです。

 中にはね、常に怒ってて、上からで、何かしでかしたら殺されるんじゃないかくらいに思ってる人もいるみたいなんだけど(笑)。アン・ミカさんなんかが言ってくれたのは「志らくさんがピリピリしてないから、ゆっくりした空気がある」と。

 私はもともとこういう人間だと思っているし、それがいちコメンテーターの時はそれほど影響力もないんだが、メインとなると、みんなが楽に居られる。もし、そこにつながったりするのならば、それはそれで意味があるのかなと。

 番組をやる中で「もっと落語の修業を積んだ方がいいんじゃないですか」という声も聞きます。けどね、修業って何?稽古って何?ということなんです。技術の修練だけずーっとやったって、マニアしか聞いてくれないよと。だから、落語だけに専念しなさいというのは、実にとんちんかんなアドバイスなんですよ。

 こうやって司会をさせてもらうことって、落語にとっても、私はプラスがほとんどだと思うんです。落語ってのは作品を語って、その技術を向上するために稽古をするんだけど、大事なのは人生経験なんですよね。もちろん、持って生まれた才能ってのもあるんだけど、どれだけ人生経験をしてきたか。これが落語を語る上で大きい。「この人が話してるから面白いんだ」というね。

 例えば、立川談志と同じくらいキャリアがある人がいたとする。談志の方が忙しいし、何なら政治までやってた。となると、その同じくらいのキャリアの人の方が稽古の時間を取れてたはずなんです。でも、なぜ世間が談志を支持するのか。それは「この人の噺を聞きたい」という思いなんです。

 いろいろな人と会ってるし、いろいろなものを見てるし、政治やって失敗もしたし、テレビに出まくって、落語協会とケンカして(笑)、いろいろな経験をしてるから。談志の人生観、フィルターを通した落語を聞きたいと。

 それが邪魔だという一部マニアもいます。そんなもの要らないから作品をきっちり聞きたいというね。でも、世間には前者を支持する人の方が圧倒的に多いわけなんです。

 それが分かってるはずの人まで、談志の周りにいたような人までが「やはり、志らくは落語の世界に戻すべきだ」と言う。だけどね、月曜から金曜まで帯で情報番組のメインをやって、その後も「ひるおび!」でコメンテーターもやって。それをやっている人にしか見えない景色があるわけですよ。

 たまにちょこちょこ出るんじゃなくて、それをずっとやってる。そこからしか見えないものがある。その人間が語る落語というのは、今すぐかどうかは分かんないけども、何かしら他の人との差が出てくるはずなんです。

 もし、落語の会を一切やらなくなって、テレビだけで生きてるんだったら、何を言われてもしょうがない。「あ、この人は落語を辞めちゃったんだ。こっちの方が知名度も上がって、ちやほやされて、収入も多いからテレビタレントとして生きていくんだ。もう落語やらないんだ」となったら、それ相応のことを言われても仕方ない。だけど、今も落語のペースはテレビをやる前とほぼ変わってないんです。

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「あと10年もすると狂うはずだ」

 談志が病気になって亡くなるちょっと前、言われたことがあるんです。「お前はオレと同じだから、あと10年もすると狂うはずだ」と。どういうことかというと、落語に行き詰まって、ごちゃごちゃになって、狂ってしまうと。それを言われたのが私が40代半ばでした。

 50歳を超えたあたりから、年齢的に芸が少し枯れ始める。普通は、そこで昔からのファンから「いい味になってきたね」なんてことを言われたりもするんだけど、談志はそれがイヤなわけです。枯れていくというのが。もっとやれるはずだと。

 ただ、新しいギャグが思いつかなかったり、記憶力も落ちてくるから新しい噺も覚えられなくなってくる。そうなると、さらに煮詰まってきて、しまいには「なんで、オレ、落語なんてやってるんだ」と私に聞いてきたこともあります。そんな状態に私もなると言ってきてたわけです。

 実際、50歳を超えて、談志の言う通り、煮詰まってきた感じはあったんです。でも、ちょうど談志の言葉から10年ほど経ったあたりから、テレビの仕事をやるようになった。その年代になって、落語以外で夢中になれるものがもう一つできた。それによって、落語で煮詰まるということがなくなってきたんです。

 テレビだと生のお客がいない。一方、落語は生のお客相手に2時間しゃべる。また別のことをやることによって、若い頃に人前でしゃべってた快感みたいなものが出てきたんです。飽きちゃうことがないというかね。テレビをやってると、新鮮に落語と向き合えるんです。何も変えてないのに、これまでやってた噺も自分の中で新しく感じるというか。

 だからね、やっぱり、テレビに出てマイナスなことはほぼないんですよ。ま、マイナスといえば、ネットで悪口を書かれるくらいで(笑)。今までマニアの人が来ていたのが「テレビで見たことある人だから行ってみよう」というおばさん方が来てくれたりもしますし。

 ここでまた談志のことを思い出すんですけど、地方に行って楽屋に置いてある、誰がどのネタをやったかという“ネタ帳”を見て「こいつ、また商売やってるよ」ってよく言ってたんです。あまり落語を聞いたことがないお客、年配のお客が多そうなところで「こんな分かりやすい話やりやがって。冗談じゃねぇ」と。そう言って、談志はその時に自分が一番興味のある噺をやるんです。

 ま、談志は芸術家だから、本当にぶっとびすぎたネタをしてる時もあったんですけど(笑)、根本の思いは「『年寄りが多いから、分からないだろう』というのは失礼だ。『若いお客だから分からない』というのも失礼だ。自分の客のレベルを自分で下げるな。もし、通じなかったら、それは自分の伝え方が悪い。それだけのことだ」ということ。

 テレビに出ているからこそ、来てくれるお客がいる。そして、その場合は向こうも「この人はきっと面白いに違いない」と信用して来てくれてますから。より一層、レベルを下げることはないんです。そこには、ドーンとぶつけちゃった方がいいんですよ。

今、師匠がいたら

 あと、これは圧倒的なプラスですけど、毎日のように自分の意見を言える場があるというのは、ありがたいばかりです。

 普通、落語家って月に10日は寄席に出ていて、そこで日々のことをあれこれしゃべることもできるんだけど、立川流は落語協会とケンカして寄席には出られない。なので、私の場合は若い頃から日常的にしゃべるところがなかったんです。自分でその場所を確保してきて、なんとか月に一回ほどそこでしゃべる。

 それが今は毎日寄席みたいなものです。しかも、視聴率が取れてないって言ったって、毎日何百万人の方が見てくださってるわけですから。

 中には、テレビに出ようとする若い落語家を捕まえて「お前、志らくみたいになりてぇのか。あんなになっちゃいけないよ」と注意する先輩までいる。「噺家は、世情の粗で飯を食い」って落語家が昔から言ってることなんだけど、世の中の動きに対して物を言う場がある。それって、本来、落語家としてはとてもいいことのはずなんですけどね。

 テレビの場合はスポンサーがある。さらに、いろいろな人が見ているから悪口を言って「面白いでしょ?」では片付かない場合がある。「談志さんだったら、もっと言うよ」とも言われますけど、そりゃ、談志はそういうキャラだし、談志のようにやったらワンクールももたずに終わっちゃいますから(笑)。

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 もし今、談志がいたら?私がテレビに出まくっているのを見たら、すごく喜ぶと思います。逆に、私がテレビに出ないことを不満に思ってるくらいでしたから。「なんであいつはテレビに出て、売れようとしないんだ」と。

 ただ「ウソばっかりつきやがって、この野郎」というのは言われるでしょうね。

 情報番組だから、全部本音で言ってるつもりだし、自分の思いを乗せてしゃべってるんですけど、人の生き死にだとか、陰惨な事件に関しては、やっぱり、結果、常識的なことを言うことが多くなる。談志は常識的なことを一番嫌いますから。

 自分の中に常識があったとしても、それを常識として言うということを恥ずかしいと思わねぇのかというのが談志の美学。葬式で先代の三遊亭円楽師匠がボロボロ泣きながらインタビュー受けてる後ろに行って「うそつけ、この野郎。ウソ泣き」って言うような人だから(笑)。

 談志が今いたら、今の世の中のことはいろいろと理解してるとは思います。今の常識も正確にとらえていたと思います。それでも、あえて、私には「ウソばっかりつきやがって」と言うと思います。

 この1年で生活はかなり変わりましたね。とにかく、朝から頭がフル回転するようにしておかないといけませんから。あとは、毎日のことだから、体調も崩せないし。以前は夜型で平気で明け方の3時、4時まで起きてましたけど、今は夜10時には寝てます。

 芸人は破滅型が一番美しいという美学がある。借金にまみれ、酒におぼれ、女遊びをし、博打をする。ただ、芸をやらせりゃ凄い。でも、どんどんボロボロになって野垂れ死にする。世間からの理解は得られないけれども、それが芸人としては美しいというのが我々の世代くらいまでは残ってるんです。

 でも、私はそれをもともと否定している部分もある。あとは、子どもが小学2年と幼稚園で、2人が大人になるまでは元気でいなくちゃいけない。だから、破滅型なんてことを言ってられないのもあります(笑)。

 食べ物に気を付ける。青汁を飲む。血圧を下げるために朝にミニトマトを5個食べる。ま、芸人にあるまじき行為ですよ(笑)。ただね、それがまた、次の景色を見ることにも繋がると思ってるんです。

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(撮影・中西正男)

■立川志らく(たてかわ・しらく)

1963年8月16日生まれ。東京都出身。本名・新間一弘。ワタナベエンターテインメント所属。日本大学芸術学部在学中に7代目立川談志に入門し、立川志らくを名乗る。88年3月に二つ目、95年11月に真打昇進した。2001年彩の国落語大賞受賞。03年より劇団下町ダニーローズを主宰し、舞台演出家・脚本家としても活動している。18年、19年と「M-1グランプリ」の審査員を務める。16年からTBS「ひるおび!」にコメンテーターとして出演し、同「グッとラック!」では昨年9月から司会を務めている。11月5日、6日には「第四回志らく独り会」(東京・北沢タウンホール)を開催する。

立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。2003年、故桂米朝さんにスポーツ紙として異例のインタビューを行う。「上方漫才大賞」など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、株式会社KOZOクリエイターズに所属する。現在、読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」などにレギュラー出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞する。また、CNN、BBC、ニューヨークタイムズなどが使用する記事分析ツール「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。

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