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新型コロナ禍を切り拓く。公認会計士とMENSA会員のコンビ「Gパンパンダ」が示す“インテリ芸人”の形

中西正男芸能記者
「Gパンパンダ」の星野光樹(左)と一平(写真は所属事務所提供)

 公認会計士の星野光樹さん(27)と元リクルートで高IQ集団「MENSA」会員の一平さん(27)というハイスペックコンビ「Gパンパンダ」。筑波大学附属中学・高校、早稲田大学と同級生で、デビュー2年目で若手芸人の登竜門「NHK新人お笑い大賞」で優勝し、一気に注目を集めました。新型コロナウイルスによる自粛生活が続いていますが、公認会計士として給付金関連の相談を受ける中で、星野さんはよりリアルに窮状を感じていると言います。そんな中、いち早くリモートを駆使したコントやソーシャルディスタンスを逆手に取ったコントを展開。経歴から“インテリ芸人”と呼ばれることも多いですが「本当にインテリ芸人ならば、今の状況を生かして新しいものを作ってこそだと考えています」と歩むべき道を語りました。

公認会計士として見えるもの

 星野:「公認会計士をやっています」と言うと、そちらでしっかり収入があると思われがちなんですけど、そんな感じでは全くないんです(笑)。

 多くの芸人さんが、例えば、居酒屋さんのアルバイトをして生活費を稼ぎながら芸人をやってるみたいな感じで、公認会計士として確定申告を請け負ったりして最低限のお金を得て、残りの時間は芸人としてネタ作りなどをしています。

 ただ、期せずして、新型コロナウイルスで仕事が増えている部分もありまして。

 もともと、確定申告の時期は芸人仲間もたくさん相談に来るので忙しくなるんです。それが落ち着いたと思ったら、今度はコロナに関する給付金関連の相談がドッと押し寄せまして。平均して一日5~10件は電話がかかってきます。自粛が本格化してから今まで200件くらいお話がありました。

 去年に比べて収入が激減した芸人さんもたくさんいますし、芸人仲間のみならず、飲食店の店主さんや企業の経営者さんからも東京都の感染拡大防止協力金の相談もいただいています。

 ただ、芸人仲間からの相談は仕事としてお金をもらうのはなかなか難しいので、個人的に相談に乗って「御礼に、メシおごるわ」という感じです。なので「今度おごってもらえる券」が百数十枚ストックされている状況で、かなりの期間、ご飯は食べられそうです(笑)。

 でも、本当にリアルな話、普段芸人同士ではなかなか話さないことも、こういう局面では見えてきたりもしてますね。

 一平:普段は相手の懐具合や仕事の細かいところまで聞かないですもんね。

 星野:そこは芸人仲間というよりも、公認会計士として聞きますからね。収入や仕事について。そのやり取りの中で「いつ頃、振り込まれるものなのかな?」「何か進展あった?」などと頻繁に尋ねてくる人もいて。自ずと逼迫感が伝わってくる場合もあります。

 収入が激減して、とにかく早くお金がほしい。いつ振り込まれるかによって動きが変わる。場合によっては、芸人という仕事に見切りをつけないといけない。そういうヒリヒリするような思いも感じてしまってます。

芸人になるための資格

 星野:まさかこんな局面が来るとは思ってませんでしたけど、そもそも僕が公認会計士になったのは、おかしな話に聞こえるかもしれませんが、芸人になるためだったんです。

 一平:今は会計士もしてますし、すごくしっかりしたキャラクターみたいになってるんですけど、中学の頃は本当に軽~い感じでした。「どぉ~も~、星野です!」みたいに(笑)。

 星野:もともと、僕らは中学からの同級生でして。当時から、僕はとにかくお笑い芸人になりたくて、まずは文化祭でお笑いをやりたい。目立ちたい。そんな思いで相方を募集したら、唯一、クラスで手を挙げたのが一平だったんです。

 中高一貫の学校だったんですけど、高校を出たら、そのまま吉本興業の養成所・NSCに入るつもりでした。ただ、厳しい世界だし、親としてはしっかりと生活の糧を獲得できる資格を取ってもらいたいという思いがある。そう伝えられまして、結果、進学して公認会計士の資格を取ることを決めたんです。あくまでも、その先に芸人を見据えた上で。

 一平:たまたま、二人とも早稲田の商学部に入りまして。そこでお笑いのサークル「早稲田大学お笑い工房LUDO」に所属して、コンビを組んだんです。

 星野:会計士になるには、まず試験に受からないといけないんですけど、そこから2年間の実務がないとなれない。僕は20歳で試験に合格して大学4年から実務に入り、卒業後の1年と合わせて計2年。そこでやっと公認会計士としてスタートが切れるという流れでした。

 一平:僕は卒業してリクルートに入社しました。ただ、ちょうどその頃(2015年)に「M-1グランプリ」が復活しまして。星野とはまた違う大学の同級生と出場して、それがウケたんです。そこで気持ち良さが再燃しました。

 もともと僕は「M-1」に強い思い入れがありまして。それが復活したのに、端から見ているだけというのがすごくもったいない気がしまして。せっかく東京マラソンがあるのに、沿道で見てるだけ。そうではなく自分も走りたい。その気持ちが大きくなって、他にも相方を考えたりもしたんですけど、最終的に星野に打診をしようと。星野がダメなら、もう、その道はあきらめようと決めて話をしたんです。

 星野:その頃、僕はあと数カ月で実務を終えて資格を取れるあたり。いわば、やっと芸人への一歩が踏み出すスタートラインが見えてきたあたりで、僕も、他にも相方を考えたりもしてたんですけど、考えた末に一平と組みました。

 一平:晴れて資格を習得して、芸人になるという意味分かんない流れですけど(笑)。

結果が出ない日々

 星野:ただ、入ってからが大変でした。入りたくて入った世界ですし、基本的には楽しいんです。でも、結果が出ない。

 学生の頃のネタのスタンスは、僕がひょうきんもので相方がツッコミ。それがベースの形でした。芸人の世界に入ってからも、基本的にはそのパターンだったんですけど、事務所ライブでも、賞レースでも結果が出ない。ということは、その形に無理がある。もしくは、限界点がある。そういうことだなと。

 そこで、もう一つ奥まで考えると言いますか、それぞれの人間性や立ち位置みたいなことを見直しました。確かに、僕は昔からお調子者ではあったけど、それは目立ちたいがためのことで、よく考えたら、根っからのひょうきんものということではなかった。一平も、定型通りにというか、演技をしっかりするようなことに向いているわけではない。

 再度そんなことを精査して、本来の自分たちになるべく近い形にモデルチェンジしたんです。役柄がガラッと変わって、一平が“ズレてしまっているおかしな人”。僕が“それに振り回される人”という形になってきて、そこからウケ方が変わってきました。

 一平:中期的な目標を作って、そのためには何が必要なのか。特にネタを作ってる星野はそこを考えてくれてますね。

 星野:もちろん、今の形が完成形ではなく、同じようなパターンが続いても見飽きちゃうかと思いますし、まだまだ形を模索していくとは思います。

 今回もコロナがあって、オンライン会議やオンライン面接を使ったコントというのを考えました。時期的にはかなり早くからやってまして、自分たちのYouTubeチャンネルにアップしてました。

 一平:3月の時点でそういうものを出してたんですけど、いかんせん知名度が低かったので目立たなかったですけど(笑)。

リモートを使ったコント中の二人
リモートを使ったコント中の二人

“インテリ芸人”の意義

 星野:自分で言うのはおこがましいんですけど、僕ら“インテリ芸人”って呼ばれることが多くて。取材をしていただいても、そういうタイトルで記事を書いていただくことも多いんです。

 となると、見ていただく方々の印象としては「コイツら調子乗ってんな!」「ムカつくなぁ…」「ナニ自慢してんだよ」とか、そういう思いにもなりやすい。それは事実として、重々承知しています。

 話が壮大になっちゃうかもしれませんけど、最初に「横山エンタツ・花菱アチャコ」師匠が今の漫才の形を発明されて、そこからテレビが出てきたり、インターネットができたり、いろいろな変化がもたらされました。今回のコロナも、お笑いの在り方が大きく変わる時期だと思っているんです。

 もし、僕らが本当に“インテリ芸人”だとしたら、こういう時こそ状況を踏まえて「こんなやり方もあったんだ!」というものを生み出す。「これならみんなが楽しめる!」というものを提示する。そういう流れを作れたら、きちんと真っすぐ見てもらえる“インテリ芸人”になれるんじゃないかなと。そして、そうなりたいという思いもあります。

 一平:2018年に「NHKお笑い大賞」で優勝したんですけど、あれは、全ての条件が奇跡的に整ったというか、全部が全部、最高の目が出たというか。その結果、優勝できたというのは、自分たちが一番分かっています。

 なので、2019年はその結果に追いつこうとした年でした。そして、今年に入ってやっとコントの妙味というか、ネタ作りの面白さの歯車が噛み合ってきた。そこでのコロナでした。

 でも、どんな世の中になっても対応できる。そうじゃないといけないと思いますし、例えば、ソーシャルディスタンスを活用したコントなんかもやってきました。

 以前「ゲスの極み乙女。」の川谷絵音さんがされているラジオ番組に呼んでいただいたことがありまして。ラジオのみならず、食事などにも誘っていただき、その中で言っていただいた言葉が、今より一層、心に響いています。

 去年「アメトーーク!」(テレビ朝日)に出してもらったんですけど、そこで僕の言動がもとでネット上でプチ炎上することになってしまいまして。そんな話を僕がしたら、川谷さんがおっしゃったんです。

 「オレより炎上してる人なんていないから大丈夫。物を作る人間で一番大事なのことはいいものを作ること。いいものを作っていれば大丈夫だから」

 実際、川谷さんにいろいろな声は寄せられたのかもしれないけど、いいものを作り続ければ支持する人は必ずいる。僕が言うのはおこがましいですけど、それを本当に体現されているなと。とにかく、いいものを出し続けよう。それを強く思っています。

 …よく考えたら、ここまで二人ともほとんど面白いこと言ってないですけど、これは大丈夫なんですかね(笑)?

 星野:それで言うと、さっき言ってたリクルートを辞める時の東京マラソンの例え。あれは“沿道で見てる”というより“一般参加してる”という例えの方が正しかったと思うので、その意味では、さっきのはボケなのかなとは思ってたんだけど(笑)。

 一平:ボケにしたら、相当繊細な味(笑)。

■Gパンパンダ(じーぱんぱんだ)

1992年7月4日生まれの星野光樹と92年6月12日生まれの一平(本名・岡部一平)のコンビ。ともに東京都出身。筑波大学附属中学・高校の同級生で、二人とも早稲田大学商学部に進む。星野は20歳の時に公認会計士の試験に合格し、税理士の資格も所持。一平は大学卒業後、リクルートに就職。高IQ集団「JAPAN MENSA」の会員でもある。大学時代は二人ともサークル「早稲田大学お笑い工房LUDO」に所属。大学卒業後はそれぞれ社会人として働くが、2015年に「M-1グランプリ」が復活したことを受け、16年にワタナベコメディスクールに入学。同スクール卒業後の17年にワタナベエンターテインメント所属となる。18年には「NHK新人お笑い大賞」で優勝。リモートやソーシャルディスタンスを活用したコントなども展開している。YouTubeチャンネル「GパンパンダBamboo!x2」(https://www.youtube.com/channel/UCtVEAes7EgR9TRGQ5qLDvUg)でネタ動画を配信中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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