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明大替え玉受験騒動から30年目の告白。なべおさみの今

中西正男芸能記者
昨年から吉本興業に所属し、YouTubeチャンネルも立ち上げたなべおさみ

 昨年から吉本興業の所属となり、新境地を開拓しているなべおさみさん(80)。2月28日からYouTubeチャンネルも開設し、さらに新たな一歩を踏み出しました。1991年には明治大学の“替え玉受験”で世間を騒がせることにもなりましたが、そこから約30年を経て今の思いを語りました。

芸能界はケチ

 ありがたいご縁をいただいて、去年から吉本興業の所属となりまして、吉本新喜劇にも出演させてもらっています。

 これまでいろいろなプロダクションを渡り歩いてきた僕だからこそ、これは感じることだと思うんですけど、吉本は僕の理想郷。サケが海を経てもともといた川に戻ってくるみたいな感覚がね、不思議とあるんですよ。

 若い頃の自分ではなく、今、80歳になった自分が吉本にいる。ここにも意味があると思っています。

 現実に吉本新喜劇の若い役者さんには才能がある人がたくさんいます。そういう人たちが躍動する姿を見ていると、こちらの頭にも「この人がこういう感覚を持てば、間違いなく良い喜劇役者になる」というビジョンみたいなのが浮かんでくるんです。

 それを押し売りにならない形で、気づかせる。次代を背負って立つ人材を見出す。そういう意味を持って、今、僕はここに立たされているのかなと思いますね。

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 僕も62年ほどこの仕事をやってきましたけど、芸能界ってのは、基本的に“ケチ”なんです。僕は主に喜劇役者をやってきましたけど、自分の利得、自分が得てきた感覚みたいなものは絶対に人に悟らせない。そういう思いが根底にあるんです。

 僕ら役者の鑑みたいな本、世阿弥が残した「風姿花伝」を読んだら分かるんですけど、そこにも一族以外には心得を漏らすなと書いてあります。そこからして、ケチなんですよ。

 僕も、最初読んだ時は「ケチなことを書いてる本だなぁ」と思ってたんですけど(笑)、何回も読み返すうちに「あ、これは違うんだ…」と。

 こんなケチなことで良いと思う?本当にこの仕事を栄えさせていくためには、こんなことでいいの?そんな思いが、実は裏テーマというか、高度な反面教師として込められている。気づく人間にだけ気づくようにしてある。それが本当の狙いだと僕は思ったんです。

 話が少し横道にそれたかもしれませんけど(笑)、だからこそ、自分はケチにならず、自分が得てきたもの、学んできたものを若い人に渡していく。それをするのが吉本に来た僕の役目だと強く感じているんです。

YouTubeチャンネル開設の意味

 そんな中、今回、YouTubeも始めました。やっぱりね、僕が遅れてるのはこういう部分でもあるし、若い人のマネはできないけど、そこに身を置けば、少しくらいは理解ができるのかなと。

 今の世の中は、バリバリ活動するような世代に合わせて作られてます。渋谷駅の地下道の表示を見て、サッと乗りたい電車に乗れるお年寄りはほとんどいないですよ。

 でも、あえて80の僕がYouTubeを使って思いを伝える。同年代の人たちに「まだまだ楽しいこともあるもんだな」と共感してもらえるような、そして、先ほどの新喜劇の若い人たちへの伝達みたいに、若い人にも何かを渡していける。そんな場がYouTubeを使って作れたらなと思っているんです。

 若い頃から、僕はね、常にノートを持ち歩いて「これは話せるんじゃないか」というテーマを移動中だとか、ちょっとした合間に毎日書き溜めてきたんです。

 まさか、何十年後にYouTubeというものが世の中にできて、またそれを自分がやるなんて思ってもみなかった。でも、今、それをやるとなったら、これまでナチュラルにやってきた蓄積が全部、YouTubeのネタになるんです。これもまた面白いものだなと。

艱難辛苦の30年

 そりゃ、これまで本当にいろいろありました。91年にいわゆる“替え玉受験”があって、艱難辛苦の30年でした。91年以降、スケジュールは決して埋まっていたわけではないですし、ずっと身を縮めて生きてきました。

 父や母が戦中、戦後をそうやって生き延びてきたように、売り食いの生活でしたよ。本当に正直言って。金になるものは何でも売りました。絵なんか一枚も残ってないですから。そうやって生きてきました。

 だからこそ、今、働いて吉本からいただけるお金は、干天の慈雨みたいに嬉しいですよ。今、自分が吉本にいる意味。そして、そこで意味を果たしていく喜び。その結果、得られるお金。これが本当にありがたいことだと感じています。

 そういうものをね、僕は至らない人間だから、30年かけて分からされたのかなと思います。これは贅沢かもしれないけど、分かったんだから「できたら、もう少し生かしてね」とは天に言いたいです(笑)。

 動かなくなるまでやるべきことをやって、動かなくなったら、僕の役目は終わり。80になってそれを見つけられたというのは、本当に幸せなことだと思っています。

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(撮影・中西正男)

■なべおさみ

1939年5月2日生まれ。東京都出身。明治大学在学中からラジオ台本などを執筆し、歌手・水原弘の付き人などを経て、タレントとしてデビューする。64年、日本テレビ「シャボン玉ホリデー」で全国的な人気者になる。78年から日本テレビ「ルックルックこんにちは」内のコーナー「女ののど自慢」で司会を担当し、人気コーナーとして確立させた。91年、長男で元たけし軍団のなべやかんの明治大学替え玉受験騒動でバッシングを受ける。2019年5月から吉本興業に所属。今年2月28日からYouTubeチャンネルも開設した。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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