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高須光聖「『まさか』は結構、起こる」

中西正男芸能記者
初めて小説を手掛けた放送作家の高須光聖氏

 日本テレビ系「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」、TBS系「水曜日のダウンタウン」など数多くの番組を手がける放送作家の高須光聖さん(55)。テレビのみならず映画やCMの世界でも存在感を見せていますが、先月、初の小説「おわりもん」(幻冬舎)を上梓しました。「まさか小説を書くとは思ってなかったですし、ナニな話、宮迫が辞めてるとも思わなかった。1年前には想像もできなかったことが起こるのが現実。実は『まさか』は結構、起こるもんだと思うんです」と今の思いをストレートに語りました。

ショートムービーからの想起

 5年ほど前から幻冬舎の方が「小説を書きませんか」と打診してくださっていたんです。ただ、小説を書くのがうまい人はたくさんいらっしゃるし、僕なんかがしゃしゃり出るところではないと思って、お引き受けすることはなかったんです。

 ただ、そこから度々お声がけいただきまして。1年ちょい前にも「何か書きたい題材みたいなものなんてないですかね?」と聞いてくださったんです。

 そこで、2007年に撮った「賽ノ目坂」というショートムービーの話になりまして。ま、30分くらいのものだし、しゃべるのもナニなので、実際に見ていきますかと。二人の罪人の話なんですけど、映像の中では彼らが捕まっているところから始まるので、その前後は描かれていない。だったら、そこを書いてみたらどうだろうかという話になりまして。

なんちゅうモンに…

 月に1回、幻冬舎の担当者さんが原稿を取りに来てくださって、少しずつ書いていくという形だったんですけど「まだ1カ月あるわ」と思いつつも、全然書けなくて。また、いざ小説を書くとなって他の小説を読んでみると、当たり前ですけど、皆さん、とんでもなくうまいんです(笑)。表現方法にしても、ストーリーの運び方にしても。

 それと、なんとなく気になっている江戸時代の職業だとか設定が頭にあったので、そのあたりも絡めながら物語を作っていけたらなと思って時代小説にしたんですけど、これがまたねムチャクチャ難しいんです。

 例えば、今の世の中を書くんだったら「六本木の交差点」と書いた時点で、ま、皆さんの中に何となくのイメージが湧くんです。「新大阪で新幹線を下りて、ホームから階段を降りる」と書いただけで、だいたいの光景が浮かんでくる。

 でも、時代小説やったら、まず主人公たちがどんなところにいるのかを書くだけでも、ものすごくきちんと説明しないと全く分からない。心底思いました。「なんちゅうモンに、手を出してしもたんや…」と(笑)。

 いろいろ考えるけど、全く書けない。締め切りまであと1週間。でも書けない。もちろん、焦ってきます。でも、まだ少し余裕がある。ホンマに焦るのは3日を切ってきたところくらい。もうなんでもいいから書こう。絶対に立ち止まらず、戻らず、とにかく書こうと思って書くんですけど、僕が書くのなんて稚拙なもんやから、辻褄が合わないところも出てきて、また戻るんです。

 そうこうしているうちに、残り1日。もうこうなったら、書くしかない。その一択です。

 とにかく約束していたところまでの原稿を書いて、担当者の方にお見せする。目の前で読んでもらいながら、こちらはずっと言い訳をするんです。「いや、最近、異常に忙しくて…」とか「そこに、またこんな思わぬ流れも加わりまして…」みたいに(笑)。それでもずっと寄り添ってくださって、そんなことを繰り返しながら、なんとか1カ月ごとに原稿をお渡しして作り上げていきました。

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0から100まで自分

 今回、小説を書いてみて思ったのは「放送作家っていかに間を抜いて考えているか」ということでした。もちろん、芸人さんそれぞれの得意なことや性格、スキルも理解しているつもりですし、テレビというものも分かって考えているつもりです。

 ただ、いくらこちらが「こうやったら面白くなるんじゃないか」と思って方向性を決めても、演者がその時に突発的に何かをするかもしれないし、現場の誰かの一声で新しい流れが入ってくるかもしれないし。そうやって撮れたものに、編集という要素が加わる。となると、もともとのこちらの企画と言うのは、すごくざっくりしたことやったんやなと。

 逆に、小説はまず設定とか方向性を決めるのも自分だけど、そこに演出家もいてないし、演者がどう動くのかも何から何までこちらが決める。全部自分だけでやる。これはすごく大変なことだなと。

 でも、ということは100%自分が思うことだけで作れる。0から100まで自分の責任。この感覚は普段の仕事にはないですから。テレビは多くの人が関わっていますから、僕が考えていたことよりも面白くしてもらうこともあるし、その逆についつい言い訳したくなるような時も正直あります。ただ、小説は全部自分。この感覚は新しかったですね。

 ここまで長い文章を書き上げたことがなかったんで、感覚としては遠泳みたいなもんでした。海に出て、はるか遠くに“小説島”が見えている。あんなところまでたどり着けるわけない。ずっとそう思っていましたし、実際にそんな距離を泳いだこともない。

 ただ、今回何とか島までたどり着いたことで「あ、泳げるんや」ということにもなったし、自分の筋力のクセというか、しんどくなったらこんな泳ぎ方をするんだというようなことも知ることができた。

「まさか」は結構、起こる

 まさか、自分が小説を書くとは思ってもみなかったですからね。少し前までは。ただ、これっていろいろなことがつながっているんやなとも思うんですけど、1年経って「まさかこんなことが起こっているなんて」ということは世の中にたくさんあるんやなと。

 例えば、女子ゴルフの渋谷さんでしたっけ?あ、渋野(日向子)選手ですね。あの人が、ここまでみんなが知る存在になるなんて、1年前はほとんどの人が思わなかった。ま、そんなこと言いながら、僕、名前間違えてますけど(笑)。バスケの八村塁選手もそうですよ。もちろん、知っている人もたくさんいるけど、ここまでのことになるとは。

 本当にナニな話ですけど、1年前にはまさか宮迫(博之)が辞めてるとも思わないし、おかもっちゃん(岡本昭彦吉本興業社長)があんな会見をやるとも思ってなかった。

 僕の周りでも、これだけ思いもよらないことがあるということは、世界全体で見たら、こういったことがどれだけあるんだろうと。日々の生活でもだし、実験とかビジネスの場でも多々あるんだろうなと。

 実は、そのあたりのことが今回の小説の根底にもあって、想像しえないことは起こる。「ウソやろ!?」ということはある。「まさか」は結構、起こる。

 僕なんかがいろいろ考えて書いていることよりも、もっとウソみたいな現実はたくさんあるだろうし、窮地に追い込まれても、そういうことで逃げ切ったり、切り抜けたりすることもある。今生きている人は、なんなら、そういうことの連続の中で生きてきた人の流れをもらって生きてるわけですしね。

 「オレの人生も、こんな感じで終わるんやろうな…」という風に思っていても、思いもよらぬことが起こる時もある。そのためにはあきらめないことが必要ではあるんでしょうけど、実際にあるにはある。妙に期待をあおるわけでないですけど、そこは自分も体感してきたところではありますからね。

 ストレートに話がつながるか分かりませんけど、ついこの前も、嫁と子どもたちとご飯を食べにいったんですよ。いつも行く焼肉屋さんに。食べてて、なんというか、いつもより何となく少ないんですよ。頼む量が。いつもやったら、あと一つくらい肉を頼むところを頼んでいない。僕も嫁も、なんとなく物足りなさはあるんだけど「ま、エエか…」という感じでお店を出たんです。

 で、歩いていると、いつもはすごく混んでいるイイ感じのコーヒーショップが空いてたんです。誰も並んでいない。滅多にないチャンスだし、僕、コーヒーが好きなんで、普通やったら絶対に入ろうとするんです。でも、ここもなんとなく、本当になんとなく、入らずに家に帰ったんです。

 そうしたら、家のドアを開けるなり、煙がもうもうと充満している。慌てて煙の方向へ行くと、子どもの哺乳瓶を煮沸消毒するために湯煎していて、コンロの火を消したつもりがそのまま家を出てしまっていて。哺乳瓶も溶けてグニャグニャになっていたんですけど、すんでのところで火事は防げた。

 なぜいつもより肉を頼まず早めに焼肉屋さんを出たのか。なぜ、空いていてチャンスだったのにコーヒーショップに寄らなかったのか。説明はつきません。でも、そんなことって、あるんですよね。いくらでも。神様がまだ生かそうとしてくれているのか、そこまで苦しいことをさせんでもエエかと思ってくれたのか…。理由は分かりませんが、あるんです。

 良いことも、まさかの流れで生まれることもありますもんね。アマゾンでやっている「ドキュメンタル」も、松本(人志)と飯を食ってて、なんとなくしゃべってたんですよ。「こんなんも、エエんちゃうかな」と。別にノリノリでしゃべっていたわけでもなく、なんとなくでしゃべっていたものが松本のアタマに引っ掛かり、動いていって、現実のものになった。こんなことがいろいろな方向で、たくさんあるわけで。すごいもんやなと思います。

 今回、小説は初めてのことでしたけど、できれば、また書いてみたいと思っています。ま、書くとなったら、またあのしんどい時間が来るわけですけど…。でも、何か間違って、ひょっとしたら「ハリー・ポッター」みたいになるかも?しれませんしね(笑)。あれも言うたら、作者の思い付きから始まっているわけですから。そら、世の中、分かりません。何が起こるのか分からないのが、現実ですから。

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(撮影・中西正男)

■高須光聖(たかす・みつよし)

1963年12月24日生まれ。兵庫県尼崎市出身。「ダウンタウン」の松本人志、浜田雅功とは小学校の同級生で、大学卒業後、MBSテレビ「4時ですよーだ」で放送作家デビュー。以後、日本テレビ「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」、フジテレビ「ダウンタウンのごっつええ感じ」など人気番組を数多く担当し「日経エンタテインメント」放送作家ランキングで1位となる。今年8月には初の小説「おわりもん」(幻冬舎)を上梓。地位も名誉も金も親もない二人の男が面白おかしく戦国時代を渡り歩いていく時代小説。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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