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「ブラックマヨネーズ」吉田敬に見る、天才の思考法

中西正男芸能記者
エッセイ集が話題となっている「ブラックマヨネーズ」の吉田敬

 本質をえぐるような言葉選びで、多くの芸人仲間から“天才”と称される「ブラックマヨネーズ」の吉田敬さん(45)。雑誌「パピルス」「小説幻冬」に連載されたエッセイを書籍化した「黒いマヨネーズ」(幻冬舎)も話題になっています。今年2月の発売から4回重刷のヒット作となっていますが、著書に対する思いにも天才ならではのこだわりが詰まっていました。

最初は断った

 そもそもの話で言うと、5年くらい前に「雑誌で毎月の連載をしませんか?」というお話をいただいたんです。

 ただ、以前もコラムを書いていたことがあって、書くことの大変さを知っていたので最初はお断りしたんです。でも、その時の吉本興業の担当部署の女性社員さんが昔からお世話になっている人でもあったし、文字数も少なめということだったので、ま、それならばやってみようかと。

 それが、連載が始まってすぐにその社員さんは異動で別の部署に行くし、文字数もグッと増えていて、モチベーションはなくなるし、話は変わってるし、どんな感情でオレは連載を続けたらエエんやとなりまして(笑)。

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全部、自分の責任

 ただね、書き始めてから改めて分かったこともありまして。もちろん、これはシステム上仕方のないことなんですけど、テレビでは自分が話したことも編集でカットされたりするじゃないですか。

 「オレ、本当はもっと面白かったのに…」とか「こうなってしまったら、面白さが減るよな」とか、人の手が入る分、テレビにはどこか言い訳したくなるところがあったりもする。でも、原稿は一から十まで全部自分の責任ですから。もし原稿が面白くなかったら、それは100%自分が面白くないと言い切れます。

 そういう意味では、ものすごく大事な場やなと途中から思うようになったんです。これがおもんなかったら、もう終わりやと。それをモチベーションにして書くようになっていきました。

 それと、ただの原稿用紙が命をおびると言うか、白紙から始まって、そこに文字を入れていくことでこんなに充実した原稿になるのかと。「オレ、ホンマにすごいな」という充実感を毎回感じてもいました(笑)。

連載に縛られる日々

 書きあがったら、そう思えたりもするんですけど、ただ、ずっとイヤなのはイヤでした。何をしていても、頭の中に「あ、まだ今月原稿できてないな…」というのがずっとあるんです。ずっと、頭にとりついているというか。

 原稿を書き終わった後は5日くらい連載のことは考えへんと思ってるんですけど、夜にお酒を飲みながらアメリカのDVDとか見てたら「あれ、コレはネタになるんちゃうかな…」と思ったり。ツイッターとかでも、思いついたことを書いてアップした後に「アレ、さっきの、もっと広がるんちゃうか」と思ったりしたら、ツイッターであっさり消費するのはもったいないので(笑)、ツイートを削除してそこから原稿を書き始めたり。ずっと、連載にとらわれてましたね。

 ま、メリットというか、これは悪くないなと思ったのは“メモ”とかですかね。何かしら原稿のきっかけになりそうなことを思いついたら、すぐに紙に書き留めてメモを取る習慣をつけてたんです。そうやって書いたメモが引き出しの中に山ほどたまった。そのメモを取っておいて、後輩が家に来た時に「オレは日ごろからこれだけ準備して原稿を書いてるんだ」と見せつけるという。

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 ただ、そのメモからすんなり原稿ができることはほぼなくて、結局、メモを取ったとて、原稿を書くときはまたゼロから考えて書いてました。なので、結局、そのメモは“後輩にやってる感”を出すためだけの紙切れになってたんですけどね(笑)。

 そんな生活が5年近く続いて「さすがに、もうしんどい。限界やな…」と思っていたら、編集者さんから「ちょうど本が一冊くらいできるくらいになっています」ということを言ってもらえたんで、一つの形として本にしたという感じですね。

献本はしない

 本を出したら、関係者の皆さんに本を配る“献本”をするのが普通みたいなんですけど、僕の中で決めていたことがありまして。それが「献本をしない」ということでした。

 …というのはね、本をタダであげたからには、どこかで告知をしてくれないと、オレ、許せないんですよ(笑)。となると、献本した人全員の行動とか、SNSとか、全部見ないといけないでしょ。どこかで宣伝してくれていたら、そこで〇をつけてOKになるとしても、そこまで一人一人をチェックしていくだけで、生活のかなりの部分を持っていかれる。それならば、最初から本をあげないでおこうと。

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 あと、もう一つは、本をもらった以上は、向こうも読まなアカンとなりますよね。特に後輩は。あげるということはそこの流れを押し付けることにもなるんで、それも申し訳ないなと。読みたい人が買って読んでもらう分には読みたい意志がそこにあるわけですし、もし忙しくても、自分で買った本やから、別に読まなくてもいい。その思いもあるんですけどね。

 ただ、ま、割合で言うと、7:3か8:2くらいで「告知してくれないと許せない」方が多いんですけど(笑)。

田舎暮らしへの思い

 なので、小杉にも献本はしてません。ただ、どうも、人づてに聞くところによると、買ってくれたみたいですね。本人としゃべったわけではないんですけど、たぶん、読んでもくれたと思います。というのは、本の中でも小杉について書いてるんです。姑息な男であるとか。それを読んで悔い改めたのか、それか、純粋にオレの文章の才能にビビッてんのか、小杉が少し優しくなりました(笑)。

 本の次にやりたいことですか?そうですねぇ、田舎暮らしはしたいと思ってますね。なので「よ~いドン!」(関西テレビ)の木曜日とか「ポツンと一軒家」(ABCテレビ・テレビ朝日)とかはメッチャ見てます。

 例えば、1億円と言っても、東京ではそこまで大きな家は買えない。それだったら、田舎で3000万円くらいで豪邸を買って、残り7000万円で遊ぶ。そんな生活をしたいと嫁には伝えてます。

 タイミングですか?今すぐというのは難しいですけどね。ありがたいことに、昔から長くさせてもらっているお仕事が多くて、それを辞めてまで田舎暮らしをするというのは迷惑もかかりますしね。だから、ま、タイミングとしたら、僕か小杉か、どちらかが事件を起こしたらでしょうね(笑)。

 そうなったら、必然的にコンビとしての活動はできなくなりますから、仕事量も減るでしょうし。そら、事件起こすとしたら、小杉ですよね。あいつの淫行からの田舎暮らし…。タイミングとしたら、そのあたりかなと思っています(笑)。

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(撮影・中西正男)

■吉田敬(よしだ・たかし)

1973年6月27日生まれ。京都府出身。94年、NSC大阪校の同期(13期生)として、相方・小杉竜一と出会う。それぞれ別のコンビを組んでいたが、コンビ別れを経て、98年に「ブラックマヨネーズ」を結成。漫才の圧倒的な面白さで関西では注目されていたが「M-1グランプリ2005」で優勝し、全国的な知名度を得る。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」、TBSテレビ「ニンゲン観察バラエティ モニタリング」、関西テレビ「ウラマヨ!」などレギュラー多数。13年に一般女性と結婚。同年、長男が生まれる。エッセイ集「黒いマヨネーズ」が発売中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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