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おもしろさを追い求めて30年。高須光聖を突き動かす言葉とは

中西正男芸能記者
今年で放送作家30年を迎える高須光聖さん

日本テレビ系「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」、フジテレビ系「めちゃ×2イケてるッ!」などを手がける放送作家の高須光聖さん(53)。今年で放送作家生活30周年を迎えますが、テレビ番組以外にも、各界の著名人19人が材料費1万円という制限の中で製作するアートプロジェクト「1万円アート 東京3/100(100分の3)テディベア展」(東京・セゾンアートギャラリー、28日まで)も開催中です。おもしろさを追求する奥底にあるのは、仕事を始めた頃に心に突き刺さった言葉だと言います。

”ま、オモロかったらエエか”

数えてみたら、ちょうど今年で30年。考えたら、もうそれだけやってるんですよね。

ずっとバラエティーの仕事をやってきましたけど、そのことによって、だいぶ独特の考え方になってるなとは思います。何か悪いことがあったとしても“ま、オモロかったらエエか”というね。これは染みつきすぎるほど染みついてます。

この仕事を始めてしばらくして、同級生と3人で釣りに行ったんです。メチャクチャ釣れるところがあるからと、日本海側まで友達が車を出してくれて。ただ、行く日になったら、すんごい雨。こんなん、絶対に釣れへんやんと。ただ、もう行くと決めて動いてるから、行くしかない。そして、案の定、全然釣れないんです。そんな中で釣ってるから、雨でずぶ濡れにもなるし。ただね、もうそうなったら、だんだんハイになってきて、帰りは友達と歌いながら運転してたんです。そしたら、またさらにテンションが上がってしもて、山道でカーブを曲がり切れず、ガードレールにぶつかってしまったんです。

もちろん事故なんで、エライことですよ。さすがに慌てて車の外に出て状態を確認したんですけど、そうしたら、前のライトが目ん玉が飛び出たみたいに“ぼよんぼよんぼろりーん”と悲惨なことになってるんです。完全に破損しているわけですから、大変なことなんですよ。修理もできるかどうか分からないレベルだし。ただね、もう、僕は顔が笑ってしもてるんです(笑)。ま、車を出していた友達も、やっぱり友達やから感覚が同じなんで「お前、笑ってるやないか!!」と言いながら、そいつも笑ってるんです。

それまで、車の中で「♪チャッカ、チャッカ…」というリズムのレゲエを聞きながら運転してたんですけど、完全に壊れた車を見ながら、そこからは「♪オシャッカ、オシャッカ」って歌ってました(笑)。

大変なことになったけど、「ま、オモロかったからエエか」。普通だったら、ただただマイナスで終わることが、プラスにもなる。その時の感覚がモノを作る時のヒントにもなる。マイナスが起こった時に、頭のどこかで「ヨシ!」と思えるのはこの仕事のいいところでもあるし、ま、脳が痛んどる証拠でもあるんでしょうけどね(笑)。

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オトナがやる工作みたいな

なので、やっぱりおもしろいことを常にやりたいと思ってますし、今で言うと、それが「1万円アート」でもあるんです。3年前に1回目の「1万円アート」をやって、今回で2回目。言わば、これはアートという名を借りた大喜利なんですよね。お題があって、それに対して物で答えるという。

そもそもは、何かイベントをやりたいなと。普通にイベントをしてもナニなので、夏休みの宿題みたいな感じで、オトナがやる工作みたいなのをテーマにしようかと。制限があった方がやりやすい部分もあるし、じゃ、材料費1万円ということで区切ろう。証拠として作品の横に領収書もつけて展示しましょうとなったんです。

本当にありがたい話、1回で終わらず、今回の2回目につながったんですけど、今回は1万円以外にさらにワクを決めようということで「3/100(100分の3)テディベア」というテーマを設けました。これは、僕が勝手に認識しているところなんですけど、多分、テディベアって、自分は全員に好かれてると思ってるやろうなと。嫌われてると思ったことがない人生やろうなと。じゃ、100人いたら3人の心にはぶっ刺さるけど、97人には見向きもされない。そんなテディベアを作ってみようと。

とにかく買い出しが大変

例えば、僕の作ったモノで言うと、タイトルは“ロストラブ”。僕はテディベアを女の子に見立てたんですけど、その子がある日突然カレシにフラれる。絶対に自分のことを大好きでいてくれると思っていたカレシに。その時の心の中はこんな感じになってるんちゃうかという女心、テディベア心を表現しました。100人中3人は「私も失恋したところだし、気持ちは分かる」と共感するかもしれないけど、97人は「ウワッ…」と思う。そんな心の闇を持ったテディベアを作ってみました(笑)。

ただね、これをやる時に、みんなが言うのが買い出しが大変だと。というのは、参加してくれたのは、みんなしっかりとした立場のある人(バカリズム、ベッキー、西野亮廣ら)ばっかりなんですよ。当然、お金は1万円以上、持ってるんです。ただ、ルール上、1万円までしか使えない。なので、材料を買いに行って1万円を超えちゃうとレジから返しにいかないといけない。「あ、すみません、これ戻してきます…」と言って、もっと安い品を取りに行く。レジの人はこんなイベントの文脈なんて知らないですから「コイツ、安いもんばっかり持ってきよるなぁ」と思うという(笑)。

エンタメの力のスゴさ

そんなこんなで30年やってきましたけど、こういうことをずっとやっている一つの原点というか、今でも頭に残っている言葉があるんです。僕が24、25歳の頃、大阪時代に取材をした中学校の先生のお話なんですけどね。

その先生は、もう結構なお年で、見た目は正直おじいさんになってる方でした。ただ、学校は相当な不良が集まる中学で、いかつい生徒ばっかりがいる中で先生をやるのは大変じゃないですかと。同じ教師と言っても、女子高とかでキャピキャピしている人もいるし、「イヤになりませんか?」と、僕も若気の至りで失礼なことをお尋ねしたんです。それに対してその先生が静かにおっしゃったんです。

「いやいや、まったくもって、大丈夫です。彼らは体の中にエネルギーがあるんです。ただ、それをどう表現していいかが分からない。だから、いろいろな方向に出してしまっているだけなんです。なので、それを右に左にちょっとそらしてあげれば、立派な男になる。負けん気の強いすごい起業家になったり。こっちは手助けをしてるだけです」と。

そして、続けて「一番難しいのはエネルギーのない子です。何を言っても響かない。動かない。そういう子は本当に大変です。そもそも、僕の話を聞こうとしない。こういう子を動かすのが、あなた方がやっているエンタメの力なんですよ」とおっしゃったんです。

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今でも先生の言葉が心に…

おもしろい番組を見て、心が動く。テレビに出ていたところに行ってみよう、何かを買いに行こうと思う。人が何かを起こすことを促す、エネルギーのタービンを巻くことができるのがエンタメなんだと。これは、すごい言葉やなと思いました。

…ま、そんなことを四六時中考えて「よし、動かない若者にエネルギーを与えるぞ!!」という思いを握りしめながら番組を作ってるわけではないです(笑)。でも、心の中に今でもしっかりとその先生の言葉があるのは事実です。

ただ、ホンマにすごい先生やと思いますけど、本気で悪い生徒に囲まれたり、心底、怖い目にあったら、そんな「右へ左へ」と合気道みたいなことは言うてられへんやろうなとは勝手に思ったりもしてましたけど(笑)、僕の心は確実に右へ左へ揺さぶられました。

■高須光聖(たかす・みつよし)

1963年12月24日生まれ。兵庫県尼崎市出身。「ダウンタウン」の松本人志、浜田雅功とは小学校の同級生で、大学卒業後、毎日放送「4時ですよーだ」で放送作家デビュー。以後、日本テレビ系「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」、フジテレビ系「ダウンタウンのごっつええ感じ」など人気番組を数多く担当し、「日経エンタテインメント」放送作家ランキングで1位となる。2014年にはタレント・千原ジュニア、クリエーターの箭内道彦氏、teamlab猪子寿之氏らが参加し、アートプロジェクト「1万円アート 歪んだ大人展」を手掛ける。現在、第2弾として、100人中3人の心には突き刺さるテディベアをテーマにした「1万円アート 東京3/100(100分の3)テディベア展」(東京・セゾンアートギャラリー、28日まで)を開催中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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