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ヨーロッパで発生している大水害ーデータからみえるヨーロッパと日本の意外な共通点

中村晋一郎名古屋大学 大学院工学研究科 土木工学専攻 准教授
(写真:ロイター/アフロ)

ヨーロッパで深刻な水害が発生している。

ユーロニュースによると、7月16日時点でドイツとベルギーで90名を超える死者が発生しており、西ヨーロッパ全体で数百人が行方不明となっているようだ。

Europe floods: More than 90 dead across Germany and Belgium with hundreds still missing

ヨーロッパの洪水。ドイツとベルギーで90人以上が死亡、数百人が行方不明。

ドイツでは1300人が安否不明という報道もあり、被害は今後増える可能性が高い。

ドイツで推定1300人の安否不明、欧州4カ国で大規模な洪水被害

ヨーロッパと聞くと、穏やかに流れる大河をイメージする方が多いと思うが、ヨーロッパも日本と同様、水害は代表的な災害の一つである。

近年では、2014年に62名が死亡し数十万人の人々に影響が出た「東南ヨーロッパ洪水」、2010年5月から6月にかけてポーランド等の国々で37人が亡くなった「2010年中央ヨーロッパ洪水」、なかでも1997年7月に発生した「1997年中央ヨーロッパ洪水」では、ドイツ、チェコなどで74人が亡くなり、45億ドル(当時)もの壊滅的な被害が発生した。

より長期的に見ると、ヨーロッパの歴史が水害とともあったことがよりあらわになる。

この図は、2018年にnature communications誌に掲載されたヨーロッパ(EU)の1870年以降の死者数(上)と、筆者が作成した日本の1910年以降の死者・行方不明者数(下)の推移を示している。

ヨーロッパ(EU)の死者数(上)と日本の死者・行方不明者数(下)の推移。ヨーロッパの数値は上記のnature communications誌の論文、日本は国土交通省データより引用。黒線は10年平均。
ヨーロッパ(EU)の死者数(上)と日本の死者・行方不明者数(下)の推移。ヨーロッパの数値は上記のnature communications誌の論文、日本は国土交通省データより引用。黒線は10年平均。

ヨーロッパでは、1870年から1960年代まで大規模な水害に度々襲われていたことが分かる。なかでも第二次世界大戦後から1960年代にかけての水害は大変深刻であったこと、その後、水害の被害が急激に減少したことを示している。

この論文では、1970年代以降にヨーロッパでの水害被害が減少した理由として、

・通信と輸送が大幅に改善され、より効果的な避難、救助、救援活動が可能になったこと

・降雨や河川流量の継続的な観測・予測が可能になり、早期警報や災害への備えが改善されたこと

などを挙げている。

一方で、日本に目をやると、日本でも第二次世界大戦直後から1960年代にかけて深刻な水害が多発していたことが分かる。

1947年に利根川の堤防が決壊し東京の下町を飲み込んだカスリーン台風、1953年に九州に深刻な被害をもたらした西日本水害、そして日本史上最大の死者・行方不明者を出した1959年の伊勢湾台風など、毎年のように深刻な水害が発生した。

そして日本も、ヨーロッパと同様、1970年代以降に治水施設や防災体制を充実することで、水害の被害を大幅に削減することに成功した。しかし近年になり、現在も懸命な捜索活動がつづく熱海での土砂災害のように、日本でも戦後の当時を想起させるような、悲しく悲惨な水害が毎年のように発生している。

ヨーロッパも日本と同じような水害の歴史を持ち、克服してきた経験を持つ。そして、全世界が直面している気候変動は、今回被害が出ているドイツやベルギーといったヨーロッパの国々、そして日本での洪水を激化させると予測されている。

現在ヨーロッパで起こっている大水害に対して、彼らが今後どのように対処していくのか、それはヨーロッパだけなく、私たち日本にとっても重要な教訓となる可能性がある。

是非、引き続き注視してほしい。

名古屋大学 大学院工学研究科 土木工学専攻 准教授

国内外のフィールドで,水を通した社会、地域づくりに関する教育・研究を行っている.1982年宮崎県都城市生まれ.東京大学大学院 工学系研究科 修士課程修了後,民間建設コンサルタント,東京大学 総括プロジェクト機構「水の知」(サントリー)総括寄付講座 特任助教,名古屋大学 大学院工学研究科 専任講師などを経て,2018年11月より現職.そのほか,市民団体「善福寺川を里川にカエル会(通称:善福蛙)」共同代表等を務め,水辺や健全な水循環の再生に向けた実践を行っている.専門は国土デザイン学,水文学,水資源学.博士(工学).

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