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「僕はトップ・オブ・トップじゃない」 鎌田大地、セリエAで1カ月ぶり出場後の沈黙と笑みの意味は?

中村大晃カルチョ・ライター
2023年12月13日、CLアトレティコ・マドリー戦での鎌田大地(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

ラツィオの鎌田大地が、1カ月ぶりにピッチに立った。

2月10日のセリエA第24節カリアリ戦、鎌田は後半78分から途中出場した。ハーフタイムに交代を命じられた1月7日の第19節ウディネーゼ戦以来となる、公式戦6試合ぶりの出場だ。

チームは3-1で勝利し、3試合ぶりの白星で8位に浮上している。

■短時間で上々の評価

アディショナルタイムを含めてもわずか17分の出場だったが、見せ場はつくった。

特に惜しかったのが、85分のプレーだ。ペドロのスルーパスに反応し、ボックス内でボールを持つと、2人を相手に切り返しから右足を振り抜く。ポストに嫌われ、ゴールには至らなかったが、決まっていれば状況を変える一発となっていたかもしれない。鎌田は両手で顔を覆っていた。

ほかにも83分、タイミングよくスペースにダッシュ。あわやシュートという場面に絡んだ。86分にも味方との連係で左サイドを突破。スルーパスでチームの好機を演出した。89分には自陣で肉弾戦からボールを奪取。体勢を崩しながらも、前方の味方へ巧みにロングパスを通している。

ゴールやアシストはなかったが、マウリツィオ・サッリ監督は「うまく試合に入った」と言及。メディアの評価も及第点(6)やそれを上回る採点ばかりだった。『calciomercato.com』は「良い情熱で試合に入り、ハートと意欲を出した」と評している。

■ミックスゾーンでの“笑顔”

ラツィオ専門メディア『La Lazio Siamo Noi』は、試合後にミックスゾーンで鎌田に取材した際の動画を公開している。英語でのインタビューだ。すでに同メディアの記事から日本でも内容は伝えられているが、その様子を見られる動画はさらに興味深い。(動画はこちら

最初に勝利への喜びを口にした鎌田は、サッリ監督との“フィーリング”を尋ねられると、10秒弱にわたって沈黙した。そして少し笑みものぞかせてから、こう話している。

「今は何かを言うのは難しい。ハードワークを続けなければいけない。そして…うん、僕はハードワークしなければいけない」

現行契約が延長オプションつきの1年と報じられている鎌田は、今季限りでの退団が有力とも言われる。記者からは、今後に関する質問も寄せられた。だが、鎌田は笑いながら「誰も将来は分からない」と答えている。

「何も言えない。(すでに決めたか?)ノーだ」

記者から「ベストの鎌田を見るにはどれくらいかかるか」と聞かれると、鎌田はやはり笑って「分からない」と回答。「フランクフルトでの君を知っている」と言われると、次のように返した。

「でも、イタリアとドイツのサッカーの間には違うことがとてもたくさんある。分からないし、僕も知りたいよ。でも、僕はハードワークを続けなければいけない」

憶測はできない。ただ、サッリとの関係に言及した際の沈黙、去就を問われた際の笑顔から、何か思うところがあるのだろうとは感じられる。

■ため息まじりの「本当に分からない」

その思いを、鎌田がもう少しはっきりのぞかせたのは、ゴールを決めていたら違っていたかと尋ねられたときだ。少しため息まじりに、鎌田は「本当に、どうしていつも、得点できないと『なぜ決められない』と言われるのか分からない」と答えた。

「言うまでもなく、ラツィオでは8番でプレーしている。10~20ゴールを決めることはできない。僕はトップ・オブ・トップのプレーヤーじゃない。だから、僕はラツィオの戦術のためにプレーしなければいけない。今日はゴールを決められたかもしれない。決めなければいけなかった。でも…」

さらに、ゴールは大事かと問われると、鎌田は「イエス。ゴールを決めるのはすべての選手にとって最も大事なことだ」と返している。

「でも、8番でプレーするときは、チームのために守備をし、走らなければいけない。すべての試合でゴールを決めることはできない。でも、僕はトライしなければいけない」

■残り3カ月半に求めること

ラツィオ、サッリ、そして周囲の人々は、鎌田に何を期待したのか。今は何を求めているのか。

シーズンを通じて苦しみ、批判も浴びてきた鎌田だが、選手としてのクオリティーを評価する声はずっと絶えない。

そのひとり、レジェンドOBのブルーノ・ジョルダーノは、サッリのシステムと合わない選手を獲得したとして、クラブが選択を誤ったと繰り返している。

一部のメディアは、カリアリ戦の前に、ルイス・アルベルトが本調子でないにもかかわらず、鎌田を起用しないことへの疑問を投げかけていた。

多くの人が、鎌田大地という選手の力を認めているのだ。しかし、多くの人が、サッリが率いる現在のラツィオにはフィットしていないと見ている。

一方で、想定どおりに物事が進まないのは日常茶飯事で、それでも適応していくことが求められる世界なのも確かだ。シーズンはすでに折り返し地点を回った。

鎌田自身はラツィオに何を期待していたのか。そして今は、何を求めているのだろうか。

双方が様々な葛藤を抱えていることが想像されるなか、確実なのは、今季はあと3カ月半ということだ。この3カ月半を、鎌田とラツィオはどう過ごすのか。どのような結末でも、選手の純粋な笑顔を見られるようになることを願うばかりだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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