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セリエA天王山でパス100本 インテルMFが世界を魅了した美技と「ロッシーニ・クレッシェンド」

中村大晃カルチョ・ライター
2月4日、セリエAユヴェントス戦でのインテルMFチャルハノール(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

セリエAの首位攻防戦は、インテルに軍配が上がった。

2月4日にサン・シーロで行われた第23節のイタリアダービーは、インテルが1-0でユヴェントスを下した。勝ち点差を4としたインテルは、さらに消化が1試合少ない。スクデット(優勝)争いで大きなアドバンテージを手にしている。

オウンゴールによるウノゼロ(1-0)ながら、インテルは試合の大半を通じて支配的だった。なかでも名将ファビオ・カペッロが勝因にあげたのは、「三大テノール」とも呼ばれるハカン・チャルハノール、ニコロ・バレッラ、ヘンリク・ムヒタリアンの中盤だ。

■伝説の名手たちに比肩する超絶技巧

そのひとり、トルコ代表のチャルハノールは、前半25分のプレーで見る者を驚嘆させた。

自陣でパスを受けると、足裏を使ってボールをコントロールしながら前方をチェック。素早く右足を振り抜き、左サイドを駆け上がっていたフェデリコ・ディマルコに正確無比なパスを通したのだ。

ユヴェントス選手たちの間をすり抜けた約50mのパスは、ディマルコがクロスを上げるのに完璧なお膳立てとなった。残念ながら得点に至らなかったが、それだけで料金に見合うという美技だった。

元イタリア代表でユヴェントスOBのアンドレア・バルザーリは、フアン・セバスティアン・ベロンやシャビ・アロンソのようだったと、チャルハノールのパスをレジェンドたちと比較している。

■成功率94%のパス100本

しかし、チャルハノールが評価されたのは、この美しいパスを通したからだけではない。この妙技は、試合を通じて彼が成功させた100本のパスのひとつに過ぎなかった。

リーグ公式データによれば、チャルハノールは126回のボールタッチから成功率94%という精度で100本ものパスを通した。“安パイ”のパスではなく、前方につなげた回数でチーム最多を記録しながらの数字だ。

『La Gazzetta dello Sport』のダヴィデ・ストッピーニ記者は、「彼がパスを間違えたら、砂漠に雪が降る」と驚嘆。チャルハノールのパフォーマンスを「ロッシーニ・クレッシェンド」にたとえて称賛した。短いフレーズを繰り返しながら音量を増すという、音楽界の表現方法だ。

「優れた指揮者らしく、チャルハノールは『ロッシーニ・クレッシェンド』を選んだ。時間が経てば経つほど、味方からボールを預けられれば預けられるほど、チャルハノールはあらゆるボールを散らしていき、お膳立てされた状態で味方に届けていったのである」

試合が進むにつれ、チャルハノールはどんどんインテル選手にとって頼もしく、ユヴェントス選手にとって厄介な存在になっていったことだろう。

■星と栄光をつかんで輝きを放てるか

ストッピーニ記者は、インテルを「あらゆる楽譜を知るオーケストラ」とも評した。相手を支配して圧倒する試合から、苦しみに耐え抜いて結果につなげる試合まで、どんな展開でも勝利をつかみ取る実行力を持つからだ。

そんなオーケストラを指揮するチャルハノールは、もはやイタリア最高との呼び声高い司令塔となった。欧州最高との声もある。

ただ、その称号を真に手にするのは、栄冠をつかみ取ったときだ。29歳のチャルハノールがトップリーグで獲得したタイトルは、スーペルコッパとコッパ・イタリアのみ。リーグ戦や欧州の舞台でトロフィーを掲げたことはない。

インテル加入1年目、チャルハノールはスクデットに近づきながら、ミラノダービーでの逆転負けを機に、最後は古巣ミランに栄光をさらわれた。元チームメートのズラタン・イブラヒモビッチらに揶揄されたことを、のどに刺さった小骨のように感じているに違いない。

今季優勝すれば、チャルハノールはその小骨を取り除ける。そして、通算20回目の優勝を表す2つ目のステッラ(星)をインテルにもたらした功労者として、歴史に残る司令塔となるだろう。

おそらく、そのための道筋は、チャルハノールに見えている。ディマルコに美しいパスを届けたときのように。あとはその道を、インテルとともに最後まで突き進めるかどうかだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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