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CLでゴールのラツィオGKはどんな選手? 鎌田大地を救う得点生んだ苦労人の歴史

中村大晃カルチョ・ライター
9月19日、CLアトレティコ・マドリー戦で同点弾を決めたラツィオGKプロヴェデル(写真:ロイター/アフロ)

チャンピオンズリーグ(CL)におけるラツィオの今季を救うゴールだった。鎌田大地を救ったと言っても、大げさではないかもしれない。

9月19日のCLグループステージ第1節で、ラツィオはアトレティコ・マドリーとホームで1-1と引き分けた。ビハインドを背負ったまま迎えた後半アディショナルタイムのラストプレーで、守護神イヴァン・プロヴェデルが劇的な同点弾を決めている。

■鎌田大地は“オウンゴール”で厳しい評価

セリエAで開幕4戦3敗と低調な船出となり、試合序盤に苦しむことも多く、出だしが重要だったラツィオは、悪くないスタートを切った。だが前半29分、エリア外からのパブロ・バリオスのシュートに鎌田が反応。出した足に当たったボールがプロヴェデルの逆をつき、ラツィオは先制を許す。

記録はバリオスの得点だが、オウンゴールのようなかたちで決まったこの1点は、終了間際まで追いつけなかったラツィオに重く響いた。それだけに、鎌田が厳しく評価されるのも不可避だった。

ラツィオ専門サイト『La Lazio Siamo Noi』は、失点関与を「不運」と評し、及第点の6点をつけている。だが、多くは及第点を下回る採点だった。失点に絡んだ影響を踏まえ、やや同情的ではあるものの、辛口採点になるのはやむを得なかったという印象だ。

■キャリア通算2点目のGK

CLグループステージは6試合の勝負。グループ最強と言われるチームが相手だったとはいえ、ホームでの開幕戦を落とせば、決勝トーナメント進出に暗雲が立ち込める。

フェイエノールトやセルティックと同組になったラツィオの16強進出は確実というのが、イタリアのメディアの見方だ。それだけに、出だしでつまずけば、重圧は増していただろう。リーグ戦での低調もあり、ラツィオを取り巻く空気が非常に重くなっていたことは間違いない。

それだけに、プロヴェデルの劇的同点弾はラツィオを救う一発だった。まだ立場が盤石でない鎌田のことも助けたゴールと言えるだろう。

CLの歴史で得点をあげた守護神は、プロヴェデルが4人目。2010年以来13年ぶりで、PKを除けば2009年以来14年ぶりの快挙だ。

ただ、人生の半分を費やしてきたプロヴェデルのGK生活において、ゴールはこれが初めてではない。ユーヴェ・スタビア時代の2020年2月7日、セリエBのアスコリ戦でもネットを揺らし、2-2で引き分けたチームに勝ち点をもたらしている。

■GKに縁のあった元FW

いずれのゴールも見事なヘディングで、感嘆した人も多いだろう。この得点感覚は、幼少期に養われた。15歳まで、プロヴェデルはFWだったのだ。

ポルデノーネのアカデミーでシーズン27得点をあげていたプロヴェデルだが、2009年に人口2万人の街オデルツォでGKトライアルに参加。そこでリアピアーヴェのGKコーチの目にとまり、スカウトされる。こうして、プロヴェデルの戦場は、前線からゴールマウスに変わった。

ただ、本人は子どものころから守護神に憧れていたという。きっかけは、EURO2020のオランダ戦で活躍した元イタリア代表のフランチェスコ・トルドだ。のちにU20イタリア代表で指導も受けており、運命の“出会い”だったのかもしれない。

GKとの縁で言えば、もっと昔からのエピソードもある。プロヴェデルの母はロシア人だが、母方の祖父母はレフ・ヤシンのご近所さんだったという。ヤシンは守護神ながら唯一バロンドールを受賞した伝説のGKだ。

■下積みから最優秀GKへ

だが、プロヴェデルのプロキャリアは、決して順風満帆ではなかった。16歳でウディネーゼ、18歳でキエーヴォのユースに移籍してからは、レンタルでピサ、ペルージャ、モデナ、プロ・ヴェルチェッリと転々。2017年にエンポリに加入し、2018年に24歳でセリエAデビューを果たした。

チームの降格で再びセリエBで戦うことになったプロヴェデルは、ユーヴェ・スタビアへのレンタルを経て、2020-21シーズンのスペツィア移籍でセリエAへの復帰を果たす。そして2022年夏にラツィオへ移籍。当初は、ルイス・マキシミリアーノの控えという立場だった。

ところが、2022-23シーズンのセリエA開幕戦で、同僚が立ち上がりに一発退場。急きょ出番が回ってきたプロヴェデルは、好機を逃さなかった。そのまま定位置を奪うと、リーグ最多タイとなる21回のクリーンシートを記録。年間最優秀GKに選出されるほどのブレイクを遂げたのだ。

そんな遅咲きの苦労人は、『La Gazzetta dello Sport』によると、穏やかな生活を好むという。2歳の息子がおり、その小さな手のタトゥーを自身の腕に入れるほど溺愛。音楽好きでピアノを弾き、チェスや卓球も趣味のF1ファンだそうだ。また、歴史の本を読むのも好きだという。

CLという欧州最高峰の舞台で、自らも歴史をつくったプロヴェデルは、インスタグラムで自身を「かつて夢を抱き、今も夢を育み、これからも夢を見続ける少年」と評した。29歳となった“少年”は、これからどんな歴史を記していくのだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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