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鎌田大地が移籍のラツィオはどんなチーム? 歴史・現状・監督・役割は?

中村大晃カルチョ・ライター
6月20日、ペルー戦での鎌田大地。13人目の日本人セリエA選手に。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

8月4日、日本代表MF鎌田大地のラツィオ加入が発表された。2022年夏に吉田麻也がサンプドリアを退団して以来、通算13人目のセリエA日本人選手の誕生だ。

約1カ月前、鎌田はすでにセリエAの選手になりつつあった。だが、一時は確実とも言われたミラン移籍が破談となり、以降はイタリアや欧州の様々なクラブからの関心が噂になっていたのは周知のとおりである。

最終的に鎌田が選んだラツィオとは、どのようなクラブなのだろうか。

◆SSラツィオのプロフィール

設立は1900年。本拠地はイタリアの首都ローマだ。同じ街を拠点とするASローマとのダービーマッチの熱狂ぶりは、世界でも有数。両サポーター間のトラブルも少なくなく、当局の警戒レベルは常に高い。

ホームスタジアムはローマと共同で使用する「スタディオ・オリンピコ」。1953年にオープンし、1990年のイタリア・ワールドカップを機に改修された。収容約7万人。コッパ・イタリアの決勝でも使用される。2021年に複数国開催されたEURO2020の開幕戦の舞台でもあった。

セリエAでの優勝回数は2回。1973-74シーズンに初戴冠を果たしたが、1980年代はセリエBで長く過ごすなど厳しい時代にあった。しかし、セルジョ・クラニョッティ会長時代の1990年代に黄金期を迎え、1999-2000シーズンにスヴェン・ゴラン・エリクソン監督の下で2度目の優勝を飾る。

黄金期のラツィオでプレーした面々を見れば、その豪華さがうかがえるだろう。アレッサンドロ・ネスタ、シニシャ・ミハイロビッチ、フアン・セバスティアン・ベロン、ディエゴ・シメオネ、パベル・ネドベド、ジュゼッペ・シニョーリ、ロベルト・マンチーニ、クリスティアン・ヴィエリなど、多くのスターが在籍した。また、古くはセリエAの通算得点記録を持つシルヴィオ・ピオラが活躍したクラブでもある。

クラニョッティ体制での経営の悪化を受け、ラツィオを買収したのが、現在の会長クラウディオ・ロティート。徹底的な緊縮財政でサポーターの反感を買いながらも、約20年にわたってラツィオを率い続けている。クセのスゴい会長だ。

ロティート体制で3回制したコッパ・イタリアでは、通算7回の優勝を達成しており、これはユヴェントス、ローマ、インテルに次ぐ4位の数字。ただ、2019年を最後にトロフィーは手にしていない。5年ぶりの戴冠への貢献を鎌田に期待するサポーターも少なくないだろう。

◆直近の成績と指揮官

昨季、マウリツィオ・サッリ現監督の下で躍進したのは後押しだ。就任1年目はセリエAで5位だったが、2022-23シーズンは2位となり、チャンピオンズリーグ(CL)出場権を獲得した。欧州最高峰の舞台への切符があることは、鎌田の選択にも大きく影響したに違いない。

下積み経験が長く、セリエA初挑戦が2014年と遅かった苦労人のサッリ監督は、ロティート会長同様に気難しい一面のある人物。2015年から3シーズン率いたナポリで世界的な名声を手にした。以降はチェルシー、ユヴェントスでタイトルも獲得。「サッリ・ボール」という言葉は有名だ。

チェルシーとユヴェントスを1年で去ったが、ち密なプランをチームに植えつけるサッリは時間を必要とする戦術家。だがだからこそ、ラツィオでは2年目で新たな展望に導いて迎える3年目の今季にかかる期待が大きい。

◆夏の補強

だが、技術部門を長年率いたイグリ・ターレが退団して迎えた今夏の補強は、ここまで順調ではなかった。セルビア代表のセルゲイ・ミリンコビッチ=サビッチという、近年のセリエAを代表するインサイドハーフがサウジアラビアに去った一方で、鎌田との契約までは強化が進んでいなかった。

新戦力は昨季スペインにレンタル移籍していたバレンティン・カステジャノスのみで、鎌田が2人目。金銭面の折り合いがつかず、サッリ監督の望む補強が実現しなかった一方で、クラブが選んだ選手は指揮官の希望に合わないという状況だった。サッリとロティートの不和も騒がれたほどだ。

それでも、先日の会議で状況が打開された様子。直後に鎌田の加入が一気に決まり、さらにウィングのグスタフ・イサクセンも獲得間近と言われる。新シーズンはCLにも出場するだけに、選手層の薄さは懸念材料。サッリのシステムに慣れる時間も必要なだけに、できるだけ早くスカッドを完成させたいところだろう。

◆現チームと鎌田の役割

基本布陣は4-3-3。エースのチーロ・インモービレは、2019-20シーズンにセリエAの1シーズン最多得点記録タイをマークするなど、セリエA得点王に通算4回輝いている。

守備では昨季加入したアレッシオ・ロマニョーリが最終ラインを統率する。ミラン時代の終盤に評価を落としたが、もともと好きだったラツィオ加入で復活を遂げた。

中盤の注目は、これまた“クセスゴ”なテクニシャンのルイス・アルベルト。昨季序盤は監督との衝突も騒がれたが、次第に存在感と出場機会を取り戻し、後半戦はレギュラーの座を奪還している。

過去にもクラブとの間でたびたびトラブルがあったL・アルベルトは、今夏も契約延長を巡ってひと悶着あった。練習や親善試合を拒んでクラブや指揮官の怒りを買ったと言われている。ただ、その後は契約延長交渉にも進展があったようで、軌道修正されたようだ。

新シーズンのラツィオで焦点となるのは、前述のように中東へ去ったミリンコビッチ=サビッチの穴を埋められるか。そしてその後継者と言われているのが鎌田だ。インモービレと並ぶ近年のチームの顔だったセルビア代表MFとの比較は、決して小さくない重圧となる。

だが、偉大な前任者を忘れさせる活躍もあるのは、直近の例を見てのとおりだ。昨季のナポリ優勝に貢献したクビチャ・クバラツヘリアやキム・ミンジェのように、鎌田がミリンコビッチ=サビッチに代わるラツィアーレのアイドルとなることを期待したい。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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