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ユーヴェ連覇を止めるのはアタランタ? 近年と一線画す「開幕ダッシュ」は吉兆か

中村大晃カルチョ・ライター
9月30日、セリエAラツィオ戦でのアタランタ主将アレハンドロ・ゴメス(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

絶対王者とタイトルを競うのは、ネラッズーロ(青と黒)だ。ただ、一騎打ちでなく三つ巴になったらどうだろうか。それでもやはり、競争相手のユニフォームはネラッズーロかもしれない。

◆2強以上の好発進

2020-21シーズンのセリエAも、有力な優勝候補はユヴェントスだ。指導未経験のアンドレア・ピルロ監督が就任したことで懸念は尽きないが、もともと戦力は国内有数。ケガで昨季を棒に振った頼れる主将ジョルジョ・キエッリーニも戻ってきた。

そのユーヴェを上回る優勝候補との声もあるのが、アントニオ・コンテ体制2年目のインテル。右サイドにアクラフ・ハキミ、中盤に指揮官の愛弟子アルトゥーロ・ビダルというワールドクラスを加え、コンテが昨季不満を表した層の薄さも改善した。

スクデットを目指すレースで、フロントローからスタートするのが、この2チームなのは間違いない。だが、開幕から3試合を消化し、彼らを上回るロケットスタートを切ったのは、ミランとアタランタだ。

ヨーロッパリーグ予選を勝ち抜き、セリエAでも3試合連続クリーンシートの3連勝を飾ったミランの評価は高い。それでも、今季のミランを優勝候補と見る向きは少ないだろう。近年を考えれば、彼らが目指すのは上位復帰とチャンピオンズリーグ(CL)出場権確保だ。

一方、アタランタは近年、国内のみならず世界にその名を轟かせてきた。イタリアで最も欧州的と評されるジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督のサッカーは、昨季CLで対戦したマンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督も高く評価する。準優勝したパリ・サンジェルマンを準々決勝で敗退寸前に追い込んだのは記憶に新しい。

◆ロケットスタート

ガスペリーニ就任から5年目の今季、アタランタは好発進した。トリノとの初戦を4-2で制すと、上位を争うライバルのラツィオを4-1と粉砕。そして第3節でもカリアリに5-2と快勝している。

データサイト『Opta』によれば、開幕3試合すべてで4得点以上をマークしたのは、セリエAで初めてのこと。欧州5大リーグでも、1987-88シーズンのレアル・マドリー以来という。

また、開幕3試合で13得点は、1972-73シーズンのミラン以来となる数字だ。

しかも、13得点のうち10得点は前半のうちに決めており、さらにそのうち5得点は開始30分以内にマークしている。まさにロケットスタートだ。

◆後半戦に絶対の自信

これまで、ガスペリーニのアタランタはどちらかといえばスロースタートだった。特に開幕から最初のインターナショナルウィークまでの勝ち点は、過去4シーズンで0→0→4→3。開幕3試合での勝ち点を見ても、3→3→4→6と推移している。

就任から3年は、序盤で勝ち点を落とし、下位から中位を経験し、後半戦、特に終盤で一気にまくる傾向にあった。昨季は早い段階で上位に立ち、それを維持していったが、開幕4試合は2勝1分け1敗という成績だ。

ラツィオを下した試合後、ガスペリーニはスクデットについて、慎重な姿勢を示したうえで、前半戦を終えた時点で競っていれば、「あらゆることが起こり得る」と話した。

現時点でスクデットを話題にするのが早すぎなのは確かで、重圧がかかるのを避けたい狙いがあるだろうが、一方で後半戦への自信もうかがえる。実際、ガスペリーニのアタランタは後半戦に強い。

1年目は前半戦で6敗し、後半戦は2敗だった。2年目も6敗→4敗、3年目は7敗→2敗、昨季が4敗→2敗と、ガスペリーニが新戦力にも戦術を浸透させ、課題を修正してから負けなくなる傾向にある。特に、リーグラストの10試合で喫した黒星は、過去4年でわずか2つしかない。

過去4シーズンの前半戦と後半戦の平均勝ち点を比べれば、特に近年はその差が明らかだ。

筆者作成
筆者作成

先頭集団で折り返し地点を迎えることができれば、そこからのアタランタはタイトルを競うライバルたちにとって大きな脅威となることが予想される。

◆名将たちも賛辞

それだけに、アタランタはいよいよ優勝候補の一角と評価する識者も少なくない。マリオ・スコンチェルティ記者は『Calciomercato.com』で「トライすべき」と述べ、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のステーファノ・バリジェッリ編集長は「スクデットを競えるか? イエスだ」と話した。

元日本代表監督のアルベルト・ザッケローニは、4日付『ガゼッタ・デッロ・スポルト』で「多くの人が『今に落ちる』と言うが決して落ちない。常にチームプレーをし、誰が出ても製品が変わらない」と、アタランタを称賛している。

「有数の得点能力を持ち、今では精神的に過去2年の結果のレガシーもある。層の厚みも増し、解決策が増えた。そして最も重要な選手、ヨシップ・イリチッチがまだいなくてこれなんだ」

6日付の『ガゼッタ・デッロ・スポルト』では、マルチェッロ・リッピもアタランタを優勝候補のひとつと認めた。最右翼はユーヴェとしたうえで、こう続けている。

「ユーヴェとのその他の差が大きく縮まったとも見ている。そしてその他には、アタランタもいる」

クラブ規模から「イタリアのレスター」とも称されたことがあるアタランタは、プレミアリーグで実現したような奇跡を起こすことができるだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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