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コンテも足を踏み入れたインテルの「狂気の沼」、“自殺行為”回避で数年後に黄金期復活?

中村大晃カルチョ・ライター
7月9日、セリエA第31節エラス・ヴェローナ戦でのコンテ監督(写真:ロイター/アフロ)

就任が決まった1年前、アントニオ・コンテはスティーブン・チャン会長に「パッツァ(クレイジー)・インテルへの準備はできているか?」と問われ、「もうクレイジーはなしだ」と答えた。

6月24日のサッスオーロ戦、インテルは終盤10分間に2失点して引き分けた。

6月28日のパルマ戦、敗北の危機が迫る中、残り5分からの2得点で逆転勝利した。

7月1日のブレッシァ戦、大量6選手がネットを揺らし、今季最多の6得点で圧勝した。

7月5日のボローニャ戦、前半に圧倒してリードを奪ったが、終盤の2失点で逆転負けした。

7月9日のエラス・ヴェローナ戦、終了間際の86分に失点し、ドローで再び勝ち点2を失った。

コンテが来てから1年が過ぎても、インテルはクレイジーなままだ。

◆リーグワースト2位の数字も

サッスオーロ、ボローニャ、ヴェローナとの3試合をすべて勝利していたら、インテルは首位ユヴェントスに勝ち点3差と迫ることができていた。それが逆に、アタランタに抜かれて4位に転落だ。

リードを生かせなかったのは、この3試合だけではない。今季のインテルがリードの状況から失った勝ち点は、20ポイントにものぼる。現地メディアによると、降格濃厚なブレッシァに続き、リーグワースト2位の数字だ。

『Eurosport.it』によると、逃げ切れずに20ポイントを失ったのは、過去10年のインテルで最多だ。

そして、4位のままフィニッシュした場合、インテルは過去約10年と変わらない成績でシーズンを終えることになる。2010年に3冠を達成し、その翌年に2位となって以降の最上位が4位なのだ。

それは、「コンテが来ても変わらなかった」という極論にもつながり得る。実際、今のコンテは就任以来最も批判されており、一部ファンからは退任を望む声も上がった。

◆悪癖続きや不満吐露が批判の的に

順位だけではない。識者やサポーターが指摘するのは、コンテが後半戦に弱いというインテルの近年の悪癖を治せなかった点だ。前半戦と後半戦で平均勝ち点が下がる傾向は変わっていない。

筆者作成
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セバスティアーノ・ヴェルナッツァ記者は、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』で、コンテが「前任者たちのように沼にはまった」と指摘。優勝以上に悪癖の修正が求められていたとし、「コンテはインテルを変えるように求められたが、今のところはインテルの方が彼を変えた」と記した。

そして何より、コンテが戦力・選手への不満を公にしてきたことへの苦言は少なくない。

チャンピオンズリーグのボルシア・ドルトムント戦で逆転負けし、怒りをぶちまけた際は、理解を示す声もあった。だが、インテルは冬にも戦力を補強している。すべてがコンテの希望どおりではなかったが、リーグ有数の陣容だったことは確かだ。

フィリッポ・トラモンターナ記者も『Calciomercato.com』で「敗戦のたびにテレビで火に油を注ぐのを避けられるはずなのは確か」と記している。

『ガゼッタ』電子版のアンケートでは、5000人弱のユーザーのうち、半数以上が危機的状況の責任はコンテにあると回答。4割強の「選手」や7%弱の「マーケットでの間違い」を上回った。

◆「最大の補強」との離別は有益なのか

しかし、コンテの主張は変わらない。ヴェローナ戦後、コンテは「シーズン後に検討」「勝利にどれだけ近いか、遠いかを理解する必要がある。ある者はある考え方で、別の人は別の考え方かもしれない」と、クラブとの相違を示唆する言葉を口にしている。

これを受け、一部のメディアはコンテ退任の可能性を報じ始めた。コンテがユヴェントス時代、編成を巡るクラブとの衝突から、シーズン前に退任したことは周知のとおりだ。

一方で、度重なるスカッドへの不満吐露に、クラブが眉をひそめているとの報道も絶えない。もしもコンテが退任した場合は、マッシミリアーノ・アッレグリが後任に最適との声も上がっている。

だが、インテルにとって、今季の「最大の補強」と評していたコンテとの離別は大きな痛手だ。すでに来季に向けてアクラフ・ハキミを獲得したのも、コンテ戦術の継続を前提したと補強だろう。

トラモンターナ記者は「初めからやり直すのは自殺行為だ」と、コンテ続投の必要を強調した。

「何ももたらすことのない、いつもの移り気で再びやり直すことで、すべてを投げ捨ててしまう真の失敗になることを避けよう」

◆我慢とさらなる改革で大きな成功も?

繰り返すが、コンテが公に不満をぶちまけることへの批判は少なくない。ファブリツィオ・ボッカ記者も、『レプッブリカ』で修正すべきと主張している。

だが同時に、ボッカ記者は「少し我慢しなければならない」とも指摘した。コンテが変えるべき点を変え、周囲が待つことができれば、「数年後に偉大なインテルを生み出す」との見解を示している。

それにはハキミ以外の補強も必要だ。コンテの希望を満たすためだけではなく、さらに改革を推し進めなければならない。そして、そのためには大義名分、つまり今季の順位やヨーロッパリーグでの躍進も求められる。インテルは13日、トリノと対戦する。勝てば2位浮上のチャンスだ。

コンテとインテルは同じ道を歩み続け、狂気の沼から抜け出せるのか。まだ今季の残りの戦いから目は離せない。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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