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メルテンス、契約延長報道&いじめ被害の子に神対応…「ナポリ名誉市民に」の声も

中村大晃カルチョ・ライター
2019年9月29日、セリエAブレッシァ戦でのメルテンス(写真:ロイター/アフロ)

どんなことも、カルチョの世界では正式発表されるまで分からない。それでも、ナポリの人々はすでに歓喜している。ドリース・メルテンスの契約延長が濃厚と報じられたからだ。

◆最多通算得点保持者

メルテンスは2013年に加入。当初は左ウィングを主戦場としていたが、ゴンサロ・イグアインが退団した2016-17シーズンにストライカーとして才能を開花させた。

今季は秋以降のチームの不振もあり、セリエAで一時期ネットを揺らせない時期もあった(21試合出場で6得点)。だが、チャンピオンズリーグでは7試合で6得点とゴールを量産。クラブ通算得点(121)でナポリの神様ディエゴ・マラドーナを抜き、元主将マレク・ハムシクの記録に並んでいる。

◆「違う結末がふさわしい」

だが、現在の契約は2020年6月30日まで。今季限りでの退団か、契約を延長するのか、絶えず去就が注目されてきた。特に、3月頭にアウレリオ・デ・ラウレンティス会長と会談し、延長で大筋合意と報じられたにもかかわらず、その後音沙汰がなかったことで、ファンの不安は募っていた。

類まれな得点力を誇るベルギー代表アタッカーに関心を寄せるクラブは少なくない。新型コロナウイルスの影響で全クラブが経済的打撃を受けているなか、フリーで獲得できるのは大きな魅力だ。

直近では、特にインテルやチェルシーへの移籍が騒がれた。特に、セリエAでの実績があることで、ラウタロ・マルティネスのバルセロナ移籍がかまびすしいインテルが合意に近いとも噂された。代表のチームメート、ロメル・ルカクが熱心に誘ったとも言われている。

当然、ナポリのファンは気が気でない。「Ciro(チーロ)」の愛称で親しまれるメルテンスの残留を求める声が大きくなっていく。SNSでは「#MeritiamoUnFinaleDiverso」(オレたちには違う結末がふさわしい)とのハッシュタグがトレンドとなった。

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』によると、「お前はオレたちのひとり。出ていっちゃダメだ」「ここなら王様。家にいられるぜ」「引退するまで大好き」など、愛のメッセージが相次ぐ。パンデミックと闘う医療従事者も、防護服の背部に「オレたちと残ってくれ」と記した(画像は下の記事内)。

◆社会的貢献

サポーターの熱い想いは、メルテンスにも届いていたようだ。前述のハッシュタグのある投稿に、「いいね」をしていたという。そして5月18日、呼びかけが奏功したのかは分からないが、イタリア複数メディアが「メルテンスは契約延長で合意」と報じた。2022年までの新契約を結ぶ見込みという。

ナポリっ子が熱狂したのは言うまでもない。そしてさらに彼らを喜ばせる知らせも届く。同年代の子どもたちにいじめられた13歳の少年を、メルテンスが自宅に招待したのだ。

『イル・マッティーノ』紙によると、少年はチャット内で同年代の少年と口論になり、公園に呼び出された。待っていたのは、約10名の仲間たち。少年は謝罪してその場を乗り越えようとしたが、殴る蹴るの暴行を受けた。サッカー好きだという少年は、暴行されながらも「ドリブルするみたいに」最悪の事態を避けようとしたという。

衝撃的な動画が報じられ、メルテンスは同僚ロレンツォ・インシーニェと動いた。サイン入りユニフォームをプレゼントしたのだ。そしてメルテンスはそれだけにとどまらず、少年を自宅に招いた。「サッカーを愛している」という少年にとっては、忘れられない時間になったことだろう。

メルテンスは以前から社会的な活動に励んでいる。直近のパンデミック期間の貢献だけではない。身分を隠してホームレスの人たちに援助したり、捨て犬保護の活動に勤しむなど、これまでも様々な振る舞いが称賛されてきた。

◆仕事を超えた絆

自治体は何かしらのかたちでメルテンスに報いようと考えているようだ。『ガゼッタ』によれば、市のスポーツ評議員は、クラブと協力し、メルテンスに名誉市民の称号を贈ることを考えていると明かした。実現するかは分からないが、選手がどれだけ感謝されているかを表していると言えるだろう。

繰り返すが、契約延長は正式発表されていない。ただ、ナポリがメルテンスを愛し、メルテンスがナポリを愛しているのは確かだ。ナポリ出身の作家マルコ・マルスッロは、20日付『ガゼッタ』のインタビューで、「ドリースはナポリでもう一度生まれた」と話している。

「だから、仕事を超えたこの絆がつくられた。もはや、彼はナポレターノだ」

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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