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ローマの「呪い」に襲われたザニオーロ、20歳の至宝を勇気づけた主将のクロワッサン

中村大晃カルチョ・ライター
1月12日、セリエA第19節ユヴェントス戦でひざに重傷を負ったザニオーロ(写真:ロイター/アフロ)

自陣ボックス付近からドリブルを始め、襲いかかるユヴェントス選手たちを次々とかわす。相手ボックス付近で後方からチャージを受け、前にいた選手と挟まれるようにピッチに倒れる。その瞬間、ニコロ・ザニオーロのひざは悲鳴を上げた。

右ひざの前十字じん帯(ACL)を断裂し、外側半月板も損傷。5カ月後に開幕するEURO2020という大舞台を前に、ローマの若き至宝は長期離脱を余儀なくされた。カルチョの国は、未来を担う20歳を襲った悲劇に心を痛めている。本人の落胆は言うまでもない。

ローマの関係者とサポーターは「またか」とうなだれたことだろう。近年、ACLに関する負傷が相次いでいるからだ。

地元メディアによれば、2014年3月にケヴィン・ストロートマンが最初にACLを痛めてからの6年弱で、同様のケガを負った選手は16人にものぼる(ユース含む)。再発も含めて19回もACLのケガが起きたのだ。「トリゴリア(練習場)の悪夢」「終わりなき呪い」と騒がれたのも無理もない。

対戦相手のクリスティアーノ・ロナウドは、顔を覆ったままストレッチャーで運ばれる若者の頭をなでて慰めた。彼だけではない。ツイッターでは、数多くの励ましのメッセージが寄せられた。

イタリア代表

「がんばれ、ニコロ!」

ロベルト・マンチーニ(イタリア代表監督)

「がんばれ、ニコロ!これまで以上に気迫に満ちた君をピッチで待っている」

アレッサンドロ・フロレンツィ(ローマ主将)

「君という人は、このケガじゃない。君は、この笑顔だ。がんばれ、がんばれ、がんばれ」

ジェンギズ・ウンデル(ローマ)

「とても悲しい。すぐによくなるさ、ブラザー!」

パウロ・ディバラ(ユヴェントス)

「ザニオーロと(同じく負傷した同僚メリフ・)デミラルのケガはとても残念だ。友よ、早く、前より強くなって戻るのを待っている。そしてニコロ、グッドラック。君はカンピオーネらしく戻ってくるさ!」

アルカディウシュ・ミリク(ナポリ、ACL断裂経験)

「僕はどういうものか知っている。でも、力と情熱で以前より強くなって戻れることも知っている。EUROで会おう。がんばれ、ニコロ」

ヴィルトゥス・エンテッラ(プロデビュー時の在籍クラブ)

「君はさらに強くなって戻ってくる」

インスタグラムでも、ローマやイタリア代表の新旧チームメートたち、フランチェスコ・トッティ、クラウディオ・マルキージオといったイタリアサッカー界の先輩たちが激励のメッセージを寄せた。ザニオーロ本人は「前より強く戻ると誓う」と、復帰への意気込みを表している。

もちろん、すぐに立ち直ったわけではない。母親のフランチェスカさんは『ガゼッタ・デッロ・スポルト』に、試合後のザニオーロが「打ちひしがれ、子どものように泣いていた」と明かしている。

そんな彼を励ましたのが、主将フロレンツィだ。試合後にザニオーロの自宅を訪問。松葉づえやクロワッサンを差し入れし、ひざにアイシングをして「ACLのケガは乗り越えられるから心配するな。チームは待っている」などと勇気づけたという。

同じケガを経験し、しかも再発の苦しみも乗り越えてきた先輩の激励は、ザニオーロの心を温めたに違いない。フランチェスカさんは「それから彼らは冗談を始めた。少し笑い飛ばすようになり、だいたい普段のニコロに戻った」と、息子が前向きになったと明かす。

そのほかの仲間たちや関係者も、手術後にザニオーロを見舞った。引退してアルゼンチンから戻ってきたダニエレ・デ・ロッシも病院を訪れている。

クラブはザニオーロを愛し、回復を願い、復帰を待つ人々の声を彼に届けた。

パオロ・アッソーニャ記者は、『スカイ・スポーツ』で「今後待つ再出発への道において、いかに孤独でないか気づくことができたはず」と、周囲の支えを糧にリハビリに専念すべきと呼びかけた。

「復帰の時期をあまり心配することなく、リハビリのことだけを考えなければいけない」

乗り越えた選手が少なくないとはいえ、リハビリが大変な道のりであることは変わらない。つらく、落ち込むこともあるだろう。だが、ザニオーロの周りには、彼を愛し、彼が愛する人たちがいる。必要なときがあれば、いつだって、誰かがクロワッサンを持ってきてくれるに違いない。

16日に退院したザニオーロが、ローマの本拠地オリンピコで開催されるEURO2020開幕戦のピッチに立てるかは分からない。ただ、今は、しっかりと治し、元気に戻ってくるのを願うばかりだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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