Yahoo!ニュース

C・ロナウドはユーヴェの「問題」? 不均衡の中で最適解を模索する王者

中村大晃カルチョ・ライター
9月21日、セリエA第4節エラス・ヴェローナ戦でのC・ロナウド(写真:ロイター/アフロ)

ミッドウィークにチャンピオンズリーグ(CL)があり、さらにその先には首位インテルとのイタリアダービーが待っている。それを考えれば、9月28日のセリエA第6節は、王者ユヴェントスにとって熱の入る一戦ではないだろう。だが、スパル戦は今後を左右する試金石となるかもしれない。

◆サッリ、ナポリ時代と逆の変更

ユヴェントスは9月24日の第5節ブレッシァ戦で、2-1と逆転勝利した。マウリツィオ・サッリ監督は、前節で今季初めてシステムを4-3-1-2に変更。アーロン・ラムジーをトップ下に置き、ゴンサロ・イグアインとパウロ・ディバラを支えるかたちで臨んだ。

クリスティアーノ・ロナウドは、軽い筋肉の問題で今季初めて欠場した。だが、“王様”がいない中で、ユーヴェはこれまでよりも良い内容を披露。開幕から「まだサッリのチームではない」と言われ続けたが、この試合で「道筋が見つかったのではないか」とも評価されている。

サッリ監督はナポリを率いた際も、開幕からの3試合で4-3-1-2を採用したが機能せず、4戦目から4-3-3にシステムを変えた。その後のサッリ・ナポリが、あのジョゼップ・グアルディオラも絶賛する美しいサッカーを見せたのは周知のとおりだ。

その時と真逆の4-3-3から4-3-1-2への変更は、サッリ・ユーヴェの新たな武器となり得る。

◆新システムはエースと共存できるのか?

ただ皮肉なのは、ブレッシァ戦にエースがいなかったことだ。そして、C・ロナウドがピッチに立っている時に機能するシステムでなければ意味がないのは言うまでもない。

ユヴェントスに移籍してから、C・ロナウドは左サイドを起点にプレーしてきた。だが、4-3-1-2の2トップの一角としては、よりペナルティーエリアに近いポジションを取らなければいけない。ただ、これまた周知のように、C・ロナウドには自由にプレーさせることが重要だ。

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のファビオ・リカーリ記者は、「スパル戦はC・ロナウドが戻る。そして、サッリにはいつものジレンマだ。だれを外す?きょうの時点でディバラ(を外すの)は愚かだ。だが、C・ロナウドと共存するかたちを見つけることが、最初の宿題になるだろう」

また、同じ『ガゼッタ』のルカ・ビアンキン記者も、4-3-1-2へのシステム変更には良し悪しがあるとしたうえで、デメリットのひとつは「C・ロナウドを得意の左サイドから外すこと」だと指摘した。

「ペナルティーエリアという新しい住みかへの引っ越しをC・ロナウドが了承するかを理解する必要がある。スパル戦はその最初の答えだ」

アルベルト・ポルヴェロージ記者は、『コッリエレ・デッロ・スポルト』で「ダイヤモンド型の中盤でC・ロナウドが左サイドにいたら、チームはバランスを失う。つまり、ダイヤモンドかC・ロナウドかということだ」としたうえで、このように記している。

「いずれにしても、我々はすでに知っている。いつでも、なんであっても、つねにC・ロナウドだ」

◆C・ロナウドがいることの“デメリット”も

C・ロナウドが不在だったブレッシァ戦では、存在感を失いつつあったディバラが輝き、その背番号10とミラレム・ピアニッチがセットプレーから決勝点を奪った。C・ロナウドが直接フリーキックを“独占”しがちにもかかわらず、得点を奪えていないのは、先日から報じられているとおりだ。

つまり、“王様”がいないことのメリットがポジティブに働いたのがブレッシァ戦だったと言える。裏を返せば、C・ロナウドがいることのデメリットもあるということだ。

アルベルト・チェルッティ記者は、『Calciomercato.com』で、サッリ監督が就任時にC・ロナウドを「必要不可欠」と評したことで免罪符を与えたと指摘する。チームメートが放出危機やCL登録メンバーから外れる事態に陥った一方で、C・ロナウドは「好きなところでプレーし、成功していないのに、フリーキックも含め、いつ、いくらでも、シュートを打つ自由がますます与えられている」という。

ただ、C・ロナウドがこれまでの実績でその地位を築いてきたのも確かだ。2-2で引き分けたアトレティコ・マドリーとのCL開幕戦で、終了間際に決勝点に迫ったプレーは、欧州制覇を目指すユーヴェにとって、再び「これがC・ロナウドを獲得した理由」と納得できる1シーンだった。

チェルッティ記者も「実際には戦術面でC・ロナウドが問題になることはない。彼のようなカンピオーネ(最高級の選手)を議論にかけるのはバカげている」と強調している。

同記者が「C・ロナウドはユヴェントスの問題」と記したのは、34歳という年齢からだ。ブレッシァ戦欠場は「小さな、だが重要な警鐘」とし、重要な局面でC・ロナウドがプレーできなくなることこそ、ユヴェントスにとっての懸念要素との見解を示した。

◆次戦で確信深めれば勢いに

いずれにしても、まずはC・ロナウドが復帰するスパル戦で、新システムが機能するかを見極める必要がある。新たなかたちでC・ロナウドとディバラ(やイグアイン)の連携が輝けば、悲願の欧州制覇に向けて大きな前進となるだろう。

サッリはC・ロナウドという絶対の“王様”を気分よくプレーさせながら、チームメートも力を発揮できるかたちを見出せるのか。盟友マルコ・ジャンパオロと違い、激しい重圧にさらされていない今のうちにそれができれば、サポーターの心もつかめるかもしれない。戦術家サッリにとっては、ワクワクするチャレンジでもあるのではなかろうか。

スパル戦では不幸でブラジルに緊急帰国したアレックス・サンドロがおらず、ダニーロやマッティア・デ・シリオも負傷中とあり、左サイドバックにブレーズ・マテュイディが緊急起用する見込みだ。万全の状態でないのはネックだが、いずれにしてもC・ロナウドと新システムの出来が注目される。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

中村大晃の最近の記事