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ミラン監督、開幕1カ月で”解任風”…リーグワースト得点で窮地、改善待ったなし

中村大晃カルチョ・ライター
9月21日、セリエA第4節ミラノダービーでインテルに敗れたミラン(写真:ロイター/アフロ)

ダービーというビッグマッチで敗れたのだから、批判の嵐にさらされるのは当然だ。ただ、マルコ・ジャンパオロ監督率いるミランが問題視されているのは、ライバルに負けたからだけではない。

9月21日のセリエA第4節でミランはインテルに0-2と敗れた。単独首位と好調のライバルを相手に、“番狂わせ”を起こすことはできず。連勝が2で止まり、勝ち点6で8位タイ、得失点差も考慮すれば12位と苦しんでいる。

◆ゴール量産のシーズンに…

24日付イタリア『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙によると、今季のセリエAではゴールが量産されている。4節消化時点で合計123得点は、20チーム制に戻った2004-05シーズン以降で最多の数字という。その中で目立つのが、リーグワーストタイの2得点というミランのゴールの少なさだ。

しかも、2得点のうちのひとつは、エラス・ヴェローナ戦でのクシシュトフ・ピオンテクのPK。流れの中でのゴールは、ブレッシァ戦でハカン・チャルハノールが決めた1点しかない。

攻撃の「顔」であるピオンテクとスソも、まったく輝けていない。ピオンテクは「背番号9の呪い」が騒がれ、スソも例年の序盤戦と比べて不調だ。過去3年は開幕4試合で1得点・2アシスト、2得点・2アシスト、そして3アシストを記録してきたが、今季はまだ1アシストのみにとどまっている。

◆シュートへの道筋なし

もちろん、ゴールの数がすべてではない。ルイジ・ガルランド記者は『ガゼッタ・デッロ・スポルト』で「キスの数が映画のロマンティックさを決めるのではないように、ゴール数がプレーの美しさを決めることはない」と記している。

ただ、同記者がそのうえで主張したのは、結果至上主義から守備を固めるより、リスクを冒してでも得点を狙いにいく姿勢に変わりつつあるのは正しいということだ。

ミランにとって問題なのは、ジャンパオロ監督が内容度外視で結果を求めるタイプではなく、むしろ美しいプレーで勝利を目指す指揮官ということ。にもかかわらず、ここまでまったく美しさを見せられなかった。

実際、ミランはゴールだけでなくシュート数も少ない。4試合で枠内シュート15本は、リーグワースト2位タイ。同じ2得点のウディネーゼ(25本)やサンプドリア(21本)にも大きく引き離されている。

『ガゼッタ』は、枠内シュートの数を12本と計上したうえで、2010-11シーズン以降で最も少ない数字と報じた。4試合で4得点だった2012-13シーズンでも、枠内シュートは25本を記録している。

ジャンパオロ・ミランがゴールを奪うためのプレーを構築できていないのは明らかだ。

◆クラブと指揮官の間にひび

当然、批判の矛先は指揮官に向かう。低迷の責任を問う『ガゼッタ』のアンケートでは、1万5000人強のユーザーのうち、59.5%が「ジャンパオロ」と回答した。27.7%の「クラブ」、12.8%の「選手」と比べ、多くのファンが監督に不満を抱いていると分かる。

アルフレード・ペドゥッラー記者は、『コッリエレ・デッロ・スポルト』で「特にジャンパオロの問題なのが、その手(腕)がまだ見えていないこと。実際には、指一本分も見えていない」と手厳しい。

クラブからも、徐々にジャンパオロに対する苛立ちが漏れている。幹部のズボニミール・ボバンは、ダービーの前から「この時点でもう少し進歩していると思っていた」と口にした。

一方で、指揮官もクラブに思うところがあるかもしれない。第3節ヴェローナ戦で夏の新戦力をひとりもスタメンに起用しなかったように、クラブが獲得した選手にあまり出番を与えていないからだ。

ステーファノ・アグレスティ記者は17日、「ミランとジャンパオロの間に最初のひび」が入っていると指摘した。そのひびは、ダービーを経て、少なくとも埋まってはいない。

実際、ジャンパオロが基本布陣とする4-3-1-2にマッチしたチーム編成だったかは疑問が残る。一方で、ジャンパオロもシステムを変えてやり繰りしようとしているが、スソを最も力を発揮できる純粋な右ウィングに固定しない。クラブと指揮官の方向性にずれを感じるのは否めない。

◆ミランも監督もスロースターター?

新たな監督を招き、哲学を変えたのなら、軌道に乗るまで時間を要するのはもちろんだ。

ただ、25日付『コッリエレ・デッロ・スポルト』によると、ジャンパオロはその傾向が特に強いのかもしれない。過去に率いたクラブでも、就任から最初の4試合で獲得した勝ち点は、最多で7ポイント。手腕が評価された前所属のサンプドリアでも、最初の4試合で勝ち点6だった。すぐに結果に結びつくチームをつくる監督ではないということだ。

一方で、ミランのほうも、マッシミリアーノ・アッレグリ以降の8人の監督のうち、就任後4試合での勝ち点が最も多かったのは、7ポイントを稼いだクラレンス・セードルフとフィリッポ・インザーギ。最後にスクデットを獲得したアッレグリ体制でも、4節終了時で勝ち点5しかあげていない。

ジャンパオロも、そして(近年の)ミランも、ともにスロースターターということだ。

◆残された時間は多くない

だが、今のミランに歯車がかみ合い出すのをゆっくりと待つ余裕はない。財政面の問題からヨーロッパリーグに出場できなかった(しなかった)彼らにとって、来季の欧州復帰は至上命令。理想はCL出場権獲得だ。早い段階で上位から取り残されるわけにはいかない。

おまけに、ダービーを除き、ここまでの対戦相手はいずれも格下だった。10月27日の第9節からは、ローマ、スパル、ラツィオ、ユヴェントス、ナポリとぶつかる。約1カ月の超過酷日程の前に、できるだけ勝ち点を積み重ねなければならない。

だからこそ、ジャンパオロはすでに後がなくなりつつある。『メディアセット』は、クラブが監督解任を「まだまったく考慮していない」としたうえで、10月のインターナショナルウィークまでの3試合で一定の結果と内容を残す必要があると指摘した。

マルコ・ファッリージ記者も、『ガゼッタ』で、トリノ、フィオレンティーナとの2試合で結果や新戦力の起用、そして内容の向上などが必要とコメント。「時間はなくなりつつある」と述べている。

ダニエレ・ロンゴ記者は、『Calciomercato.com』で「オーナーはトリノ戦からまったく違うミランになることを期待している。もしもの際につらい決断を下すことになるのを避けるためにも」と記した。

開幕から1カ月で早くも解任危機が取りざたされ、窮地に追いやられつつあるジャンパオロは、今後もミランで指揮を執り続けられるのか。まずは最初の“テスト”、26日のトリノ戦が注目される。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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