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ピオンテク、無得点でセリエA開幕へ 攻撃懸念のミランに忍び寄る「背番号9の呪い」

中村大晃カルチョ・ライター
8月17日、プレシーズンマッチでのピオンテク。開幕後はネットを揺らせるのか(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

欧州の強豪には惜敗だったのに、プレシーズン最後の格下とのテストマッチは、まさかのスコアレスドローに終わった。セリエA開幕を控え、ミランに暗雲が立ち込めている。

サマーツアーでバイエルンとベンフィカに0-1で敗れ、マンチェスター・ユナイテッドとは2-2の末にPK戦で屈したミラン。だが、開幕を1週間後に控えた8月17日、チェゼーナとの最終テストでは、セリエCに昇格したばかりのチームを相手にゴールを奪えなかった。

◆エースを筆頭に攻撃陣が不作

得点不足は、チェゼーナ戦に限ったことではない。ミランはプレシーズンの6試合で5得点。そのうちのひとつは、オウンゴールだ。ノヴァーラ、フェロニケリ、そしてチェゼーナと、格下相手に3試合していることを考えれば、物足りない数字だろう。

サムエル・カスティジェホのシュートがオウンゴールを誘ったのを除き、ゴールを記録したのは、新加入テオ・エルナンデス、スソ(2得点)、ファビオ・ボリーニ。アタッカーのレギュラー候補で得点したのはスソだけだ。さらに、1点は直接FKで、流れからのゴールはミドルシュートの一発しかない。

特に心配されているのが、いまだノーゴールのクシシュトフ・ピオンテクだ。昨季、イタリア挑戦1年目ながらブレイクし、シーズン途中にジェノアから加入して以降もゴールを量産したエースである。

アレッサンドラ・ボッチ記者は、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のコラムで、「フィジカルコンディションの遅れと解釈することはできない」と懸念。ピオンテクが孤立していると指摘した。

今季のミランはマルコ・ジャンパオロ監督が就任し、フォーメーションが4-3-1-2に変わっている。システム変更が時間を要するのは当然だ。

加えて、新戦力ラファエウ・レオンの加入決定が遅かったため、プレシーズンでコンビを組んだのは、元来サイドアタッカーのカスティジェホだった。また、トップ下を務めてきたのも、適性が疑問視されているスソだ。指揮官は評価するが、首脳陣がアンヘル・コレアの獲得に動いていることこそ、「トップ下・スソ」に不安がある証拠と言える。

◆呪縛は解けるのか

監督が代わったうえに、相棒たちが本職でないことが、新チームの中でピオンテクが(まだ)機能できていない理由なのは確かだ。ただ、今夏のある変更が気になるミラニスタも少なくないだろう。ピオンテクが背番号を「19」から「9」に変えたことである。

アレシャンドレ・パト、アレッサンドロ・マトリ、フェルナンド・トーレス、マッティア・デストロ、ルイス・アドリアーノ、ジャンルカ・ラパドゥーラ、アンドレ・シウバ、ゴンサロ・イグアイン…レジェンドのフィリッポ・インザーギが引退してから、ミランの9番を纏ったストライカーはこぞって苦戦してきた。

昨冬、ピオンテクの背番号が「19」になったのも、この過去があったからと言われる。だが今季、ピオンテクは“呪いの番号”を背負うことを選んだ。インザーギ引退から7年。呪縛を解くのは自分だと名乗りをあげたのだ。

ところが、その矢先にゴール欠乏症の恐れが騒がれ始めたのだから、サポーターが気をもんでも不思議ではない。マルコ・パソット記者も、『ガゼッタ』で「9番の呪いを言い訳にすることはできない。だが、時にそれを考えないのは難しい」と記している。

◆開幕すれば大丈夫?

ただ、夏のテストマッチと公式戦はまったく別物だ。そして、ふたを開けてみたらプレシーズンの評価が一変、というケースは数え切れない。

ミランOBのジョゼ・アルタフィーニも、『ガゼッタ』で「真剣勝負になったらすぐ得点を取り戻すと確信している」とコメント。「ピオンテクは真のボンバーで、どのシステムでも力を出せる。1年目がまぐれではないと示すだろう」と、開幕後の得点量産に太鼓判を押した。

ポーランドサッカー協会会長のズビグニェフ・ボニエクも、やはり『ガゼッタ』で「新システムのメカニズムを吸収するための時間が必要」と強調。1年目が出来すぎだったことに触れつつも、攻撃志向のジャンパオロの下でネットを揺らせぬはずはないと、不安視する声を一笑に付している。

◆長所の胆力こそが鍵

もちろん、脚光を浴びて迎えた2年目だけに、各クラブの徹底分析に苦しむことは想像に難くない。今のように、少しゴールから遠ざかれば、批判の集中砲火という日々が待っている。ボニエクも、その重圧こそが、今季のピオンテクにとって最大の困難とした。

ただ、9番を選んだことが示すように、ピオンテクはプレッシャーを恐れる選手ではない。それは昨季すでに証明している。ボニエクも「精神バランスが素晴らしいのが彼の才能。常に自信を失わずに冷静を保つ」と称賛。そのうえで、若き後輩にこうアドバイスしている。

「ゴールにとらわれずに、良いプレーをすることを考えろ。問題ないさ。常に得点を決めてきたんだ。今季も量産するだろう」

ミランの開幕戦は25日。敵地でウディネーゼと対戦する。昨季、クシシュトフはウディネーゼ戦で2試合1得点。ゴールを決めたのは、ホームではあったが、ミラン加入後だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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