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団結する冨安所属のボローニャ、夢は欧州挑戦? 数字に表れるミハイロビッチ効果

中村大晃カルチョ・ライター
8月30日、セリエA第2節スパル戦でのミハイロビッチ。ボローニャは闘将と団結(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

闘将がいなくても、闘志は伝わった。それだけで勝利が永遠に続くわけではない。それでも、彼らがどこまでいけるのか、期待する人は少なくないはずだ。

冨安健洋が所属するボローニャは9月15日、セリエA第3節でブレッシァを敵地で4-3と下した。前半で1-3と2点のビハインドを背負いながら、後半に3得点しての逆転勝利だ。

◆監督不在もスピリットはピッチに

この日は今季初めて指揮官が不在だった。白血病と闘いながら、開幕からの2試合で指揮を執って周囲を驚かせたシニシャ・ミハイロビッチ監督が、治療で病院を離れられなかったからだ。

だが、その声は現場にしっかり届けられた。ハーフタイムに指揮官の喝がチームに伝えられたという。選手たちは奮起し、試合をひっくり返した。終了の笛が鳴るや、冨安らがピッチに横たわったことは、ミハイロビッチの檄に応じた選手たちが力を出し切ったことを物語る。

ルイジ・ガルランド記者は、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』で「ブレッシァにシニシャはいなかった。だが、彼のスピリットや絶対に屈しない男の模範はあった」と記した。

ボローニャは3試合を消化して勝ち点7。『ガゼッタ』によれば、これは2002年以来のことだ。まだ3試合とはいえ、王者ユヴェントスと並ぶ2位に位置すると予想した人は少ないだろう。

◆ミハイロビッチ哲学と「ボローニャ・ユナイテッド」

ブレッシァとの試合後、ボローニャのチームバスはミハイロビッチが入院する病院に向かった。主将ブレリム・ジェマイリによれば、自然発生的に全員で「行こうぜ」となったという。窓際のミハイロビッチとチームがやり取りする様子を、『ガゼッタ』は「現代のロミオとジュリエットのよう」と表現した。

同紙はボローニャについて報じる際、「ボローニャ・ユナイテッド」という言葉をたびたび用いている。ミハイロビッチの病気が発覚して以降の団結ぶりは、世界が知るところだ。

得点者の多さも、「We Are One」をスローガンにしたチームの団結力のあらわれかもしれない。ここまで6得点のボローニャは、ニコラ・サンソーネ、ロベルト・ソリアーノ、マッティア・バーニ、ロドリゴ・パラシオ、リッカルド・オルソリーニ(+オウンゴール)と、ゴールスコアラーが全員異なる。

攻めの気持ちをつねに求めるミハイロビッチの哲学は、プレーのデータにも表れている。

リーグの統計によると、ボローニャは3試合でシュート本数が49本(枠内23本)とアタランタ(48本)を上回って最多。コーナーキック27本、クロス26本も、それぞれリーグ2位の数字だ。

『コッリエレ・デッロ・スポルト』も、ボールポゼッションが平均64.6%でリーグベストと伝えている(ヴェローナ戦77%、スパル戦59%、ブレッシァ戦58%)。ミラン(62.6%)、インテル(61.3%)、ナポリ(58.6%)を抑えての堂々のトップだ。

もちろん、ヴェローナとブレッシァが退場者を出した恩恵も大きい。ただ、昨季のミハイロビッチ就任後のポゼッションは、平均50.1%だった。ボールを持つことへの意識が高まっているのは確かと言えるだろう。

◆欧州&クラブレコードの夢

指揮官の手腕は明確な結果につながっている。就任以降の計20試合で手にした勝ち点は37ポイント。『コッリエレ』によれば、同期間ではローマやナポリと並ぶリーグ6位タイの数字だ。

9月18日『コッリエレ・デッロ・スポルト』参照、筆者作成
9月18日『コッリエレ・デッロ・スポルト』参照、筆者作成

つまり、ミハイロビッチが指揮を執るようになってから、ボローニャは欧州カップ戦出場権を競うペースでポイントを積み重ねていることになる。

また、ミハイロビッチは前回指揮を執った2008-09シーズンを含め、ボローニャでのリーグ戦で1試合平均勝ち点1.39を記録している。『コッリエレ』によると、これはレンツォ・ウリヴィエリの1.43に続く2位の数字。クラブレコードに迫っているのだ。

ボローニャが20年以上ぶりに欧州への切符を手に入れ、ミハイロビッチは「クラブ史上最高勝ち点の指揮官」に…今季これが実現すれば、昨季残留を争い、10位で終わった彼らにとってまさに夢物語だ。クラブも、チームも、サポーターも、期待に胸を膨らませているに違いない。

◆好調ホームで真価問われるテスト

ただ、もちろん、真価が問われるのはここからだ。これまでの3試合は、昇格組2チームを含む格下との対戦だった。次節はいよいよ強豪とぶつかる。相手はパウロ・フォンセカ新監督のサッカーが評価されつつあるローマだ。

心強いのは、ホームで現在8連勝していることだ。昨季から今季にかけ、カリアリ、サッスオーロ、キエーヴォ、サンプドリア、エンポリ、パルマ、ナポリ、スパルを沈めてきた。

もちろん、ここでもビッグクラブはナポリしかいない。しかも、彼らとの対戦は、昨季最終節の消化試合だった。それでも、ホームでの好調が自信になることも確かだ。

『コッリエレ』は「このハードルを見事に乗り越えれば、欧州という夢を競う可能性が本当に確かなものとなる」と伝えている。

冨安にとってイタリアでのデビューシーズン、ミハイロビッチ率いる「ボローニャ・ユナイテッド」は、どこまで飛躍できるか。まずは、22日のローマ戦に注目だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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