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主将イカルディの説教ツイート、ファンの反発で炎上 不振インテルは転落を止められるか

中村大晃カルチョ・ライター
2月3日、セリエAボローニャ戦でのインテル主将イカルディ(写真:ロイター/アフロ)

転がり落ちていく彼らを止められる人物は誰なのか。そもそも、止めることは可能なのだろうか。

インテルが危機的な不振に陥っている。2019年に入り、コッパ・イタリアで2部相手に圧勝したのを除くと、公式戦4試合で1分け3敗。セリエAで年明けから白星がなく、コッパではPK戦の末にベスト8敗退に終わった。

特に、絶対王者ユヴェントスの敗退でタイトルのチャンスがあったコッパ・イタリアで、ホームにもかかわらず、土壇場のPKで一度は息を吹き返しながらも敗退したのは痛手だ。続くボローニャ戦も、9月30日から白星がなく、監督を交代したばかりの格下相手に喫した黒星だった。

データサイト『Opta』によれば、ボローニャがアウェーで勝利したのは、2017年12月以来、22試合ぶりという。サン・シーロの観客が強烈なブーイングを浴びせたのは言うまでもない。

◆追い込まれるスパレッティ

当然、真っ先に問われるのは指揮官の責任だ。ルチアーノ・スパレッティ監督は崖っぷちに追い込まれている。

マリオ・スコンチェルティ記者は、『コッリエレ・デッラ・セーラ』で「チームとしてはミランのほうがインテルより良い」と主張。ジェンナーロ・ガットゥーゾ監督が、卓越せずとも戦力に適したプレーを構築しているのに対し、インテルは「どんなチームなのかまったく明白ではない」と批判した。

実際、次節パルマ戦がスパレッティの去就を決めるとの声もあり、ファブリツィオ・ボッカ記者は『レプッブリカ』で「シーズン終了までもつかも確実じゃない」と記した。暫定監督にOBのエステバン・カンビアッソを、との声も上がっている。

仮に今季を乗り切ったとしても、スパレッティが来季もベンチに座る確率は低いとの見方は強まりつつある。チェルシー前監督のアントニオ・コンテの“影”が迫り、解説者のマッシモ・マウロは『レプッブリカ』で「コンテがインテルに行くだろう」と断じた。

◆このままではCL出場も危うい?

だが、不振の原因が指揮官だけでないのも当然だ。特に12月以降、インテルはラジャ・ナインゴランの素行や主将マウロ・イカルディの契約延長騒動、そしてイヴァン・ペリシッチの移籍志願と、立て続けに主力にピッチ外の問題が浮上した。

また、インテルはセリエAで唯一、ビハインドを背負うとそこから勝ち点を挙げることができていない。マッテオ・マラーニ記者は『スカイ・スポーツ』で「リーダーシップ、困難の中で助けとなる選手がいないという問題がある」と指摘する。

確かなのは、低迷の長期化だけは避けなければいけないということだ。現時点では3位と来季のチャンピオンズリーグ(CL)出場圏にあるが、振り返れば勝ち点5差以内に4チーム(ミラン、アタランタ、ローマ、ラツィオ)がひしめいている。

アルベルト・チェッルッティ記者は『Calciomercato.com』で「このインテルは3位にも、4位で来季のCLに出場するにも値しない」と手厳しい。だが、財政面からも必須であるCL出場のためには、負のスパイラルから抜け出さなければならない。

◆スランプの主将がSNSでファンに“説教”

特に懸念されるのが、深刻な得点力不足だ。年明けのリーグ戦3試合はすべてノーゴールに終わっている。『Opta』によれば、これはクラブ史上、1956年以来63年ぶり2度目のことだ。失点数がリーグ2位なのに対し、得点数は8位タイ。トップのアタランタには17点差もつけられている。

不振の象徴と言えるのが、エースのイカルディだ。ここまでリーグで9得点だが、昨季の同時期の18得点から半減している。何より、リーグでは現在6試合無得点。これはインテルに加入してから初めてで、サンプドリア時代の2013年以来のことという。

しかも、その間に代理人でもある妻ワンダ・ナラがメディアやSNSで“活躍”し、契約延長交渉では年俸倍増を要求していると報じられ、さらには冬の休暇からの合流に遅刻し、最大級の罰金を科せられ、それに対して気分を害したとの報道も出回ったのだから、印象は悪くなる一方だ。

加えて、ボローニャ戦でのファンのブーイングに心を痛めたのか、イカルディはSNSでキレてしまった。「困難も障害も成功の階段における重要なステップと喜んで受け入れる」。これだけなら前向きな言葉だったが、そこに「負けたら愛さないというなら、勝っても愛すな」と書き記したのである。

これには、多くのサポーターが反発。ツイッターでの投稿には批判が殺到し、炎上した。

「契約延長をしないと愛さないというなら、延長しても愛すな」

「インテルを愛する者はあなたに説明してもらう必要などない」

「自分は会社員だが、給料に見合わなければ賃上げはない。あんたも同じだ」

「ボローニャ戦のような“ショー”を見るために集まった5万人もの人をなんと呼ぶ?」

「目を覚ませ。重圧にも耐えられるのがインテルにふさわしいということだ。それができないなら、このユニフォームを着ることなどできない」

「障害と困難は毎年金庫を叩きながら乗り越えるものではない。成功は、サポーターも含めた全員が、汗をかき、犠牲を払ってたどり着くものだ。我々はすでにそれをしてきたし、今後も続ける。君とチームが同じようにしているとは思えない」

サポーターだけではない。セバスティアーノ・ヴェルナッツァ記者は『ガゼッタ・デッロ・スポルト』で「熱狂的な応援は、離婚の可能性が最低限である唯一の結婚」とし、「ボローニャ戦のような台無しの試合には、異議を唱える権利が十分にある」と、甘んじて批判を受けるべきだと主張した。

さらに、同記者は「近年のインテリスタはチームに対して強い信頼を置いてきた。(対して)イカルディのインテルは何を勝ち取った?何もない。“ゼロ・ティートゥリ(ゼロ・タイトル)”だ」と、イカルディがインテルにトロフィーをもたらしていないことを指摘している。

契約延長交渉や何かとお騒がせな夫人のことは別に、イカルディがインテル愛を強調してきたのは知られている。『コッリエレ・デッロ・スポルト』は、サポーターの怒りの理由はあくまで成績不振と報じた。ただ、イカルディは以前もインテルのウルトラスと対立し、一時は主将はく奪を求められたこともある。今回のツイートが再び亀裂を生むのか懸念されるところだ。

インテルを取り巻く空気がこの上なく悪いことは疑いない。近年同様、インテルはこのまま暗いトンネルをさまようことになるのか。それとも、光明を見出すことができるのだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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