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ウルトラスVSイカルディ、インテルはエースからキャプテンマークをはく奪すべきなのか

中村大晃カルチョ・ライター
自伝出版が思わぬ事態を招いたイカルディ(写真:REX FEATURES/アフロ)

インテルの一部サポーターが、エースであるマウロ・イカルディを主将から降格させよと求めた。インテルは選手に厳しい態度を取っており、キャプテンマークをはく奪するとも言われている。それは、正しい対応なのだろうか。

◆きっかけは23歳が出版した自伝

事の発端は、先週発売されたイカルディの自伝に書かれたあるくだりだ。2015年2月のサッスオーロ戦後、イカルディはゴール裏に陣取るサポーターと激しい口論を繰り広げたのだが、このときの様子を自伝に記したのである。

イカルディによると、子供にユニフォームなどをプレゼントしたところ、ウルトラスの一人が子供の手から奪って投げ返してきたことでトラブルに発展したという。ウルトラスの反応を危惧するクラブ幹部に対し、恐れていないことを強調しようと、サポーターを脅すような言葉を使ったことも明かしている。

だが、インテルのウルトラス「クルヴァ・ノルド」は声明で、イカルディの主張が事実と異なると反論。「インテルにふさわしくない」「我々とはもう終わり」「キャプテンマークを外せ、ペテン師」と激しくののしった。

イカルディはSNSで釈明したが、「クルヴァ・ノルド」の怒りは収まらない。16日のカリアリ戦でブーイングを浴びせ、スタンドにはイカルディを罵倒する複数の横断幕を掲げた。その影響か、イカルディは試合でPKを失敗。インテルはその後先制したが、逆転負けした。

試合後も、騒動は終わらない。「クルヴァ・ノルド」はイカルディの自宅前に脅迫めいた横断幕を掲げた。各メディアの報道によると、矛を収める条件として、「クルヴァ・ノルド」は自伝の一時差し止めを求めているようだ。問題のくだりを削除してからの再出版を要求している。

◆クラブはイカルディに厳しい姿勢

インテルの幹部は、今回の一件でイカルディへのいら立ちを隠していない。ハビエル・サネッティ副会長はカリアリ戦の試合前に、「最も大事なのはサポーター」「対応措置を取る」とキャプテンマークはく奪の可能性を否定しなかった。

ピエロ・アウジリオSDも試合後、自伝に好ましくない記述があったとほのめかしている(『ガゼッタ・デッロ・スポルト』によれば、イカルディはサッスオーロ戦での一件でチームから称賛されたと自伝で記しているが、インテルはこれが事実ではないと漏らしている)。

サネッティ副会長とアウジリオSDは、17日に選手と話し合って対応策を決めると話した。だが、『ガゼッタ』やインテル専門サイト『fcinternews.it』などは、インテルが少なくとも当面はイカルディからキャプテンマークをはく奪する見込みと報じている。

◆お騒がせの問題児イカルディ

イカルディをめぐるトラブルは、今に始まったことではない。同胞のマキシ・ロペスの妻だったモデル、ワンダ・ナラとの“略奪婚”は有名だ。この夏も、そのワンダ夫人が代理人として派手に動き、移籍をほのめかして年俸アップを求め、一部ファンからの不評を買った。

最終的にインテルとイカルディは合意し、契約更新が実現したが、正式発表から10日も経たずしてのトラブル。フランク・デ・ブール監督のもとで今ひとつ波に乗ることができていないインテルだけに、クラブがフラストレーションを感じるのも当然かもしれない。

◆インテルの管理が問題との指摘も

だが、クラブの管理が問題だという声もある。サネッティ副会長とアウジリオSDは自伝の内容を知らなかったとほのめかしており、クラブが事前にチェックすべきだったという指摘だ。

インテルのレジェンドであるジュゼッペ・ベルゴミは、『スカイ・スポーツ』の番組で、クラブがすべてをチェックするのは不可能と擁護。イカルディが自伝で記したことは正しくなかったとしつつ、インテルはキャプテンマークをはく奪するのではなく、別の解決策を見つけるべきとの立場を取った。

だが、元監督のレオナルドはイカルディだけの責任ではないと述べる。3年前の獲得時から、クラブがより厳しく管理すべきだったと指摘。厳格な行動規範を設け、従わせるべきと主張している。

◆そもそもの責任はやはり選手に?

一方で、そもそもまだ23歳と若いイカルディが自伝を発売すべきでなかったという批判もある。地元メディアによれば、元イタリア代表のフランチェスコ・グラツィアーニは「私なら自伝を書くのに少なくとも引退まで待つ」と批判。『Rai』の元記者カルロ・ネスティに至っては、「あの自伝で彼は“自殺”した」とまで述べている。

また、元ユヴェントスのマッシモ・マウロは、『レプッブリカ』のコラムで、「一部サポーターとの衝突で選手が去ることになったら悲劇的だが、関係を悪化させるばかりのキャプテンがいるのも悲劇的」と、イカルディの自覚の足りなさを批判した。

「稼ぐ額が増えれば責任も増す。高給取りなのはそれに値するからで、10ではなく1000の要求に応えなければいけない。10で許されるのは年俸500万ユーロではなく、月給1000ユーロの人だ」

◆「ウルトラス」と「サポーター」は違うという見方も…

だが、カリアリ戦でイカルディがPKを外した際、ウルトラス以外の大勢のサポーターは拍手を送ってエースを鼓舞した。「インテルファン」といっても、「クルヴァ・ノルド」とそれ以外で反応が違ったのも事実だ(アウジリオSDはそういった「不思議な雰囲気」を生み出したこと自体を問題視しているが)。そのなかで、キャプテンマークをはく奪することは、必ずしも正解とは言えない。

◆いずれにしても不穏な空気に包まれるインテル

インテルの対応は17日にも明らかになる見込みだ。だが、イカルディへの処分がどういうものになろうと、不穏な空気に包まれることは避けられないだろう。

公式戦で4試合白星から遠ざかっているインテルは、20日のヨーロッパリーグでサウサンプトンと対戦する。舞台は再び、「クルヴァ・ノルド」が待つサン・シーロ。開幕から2連敗しているだけに、勝たなければ大会敗退の可能性が高まる大事な一戦となる。再び進退問題も浮上してきたデ・ブール監督は、難しい舵取りを迫られそうだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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