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バロテッリ酷評の新生イタリア、救世主はキエーザ? 賛辞の嵐に警鐘も

中村大晃カルチョ・ライター
9月7日、UEFAネーションズリーグのポーランド戦でのキエーザ(写真:ロイター/アフロ)

新たに始まったUEFAネーションズリーグの初戦で、ロベルト・マンチーニ監督のイタリア代表は、ホームでポーランドと1-1で引き分けた。終盤のPKで追いつき、黒星発進を免れた形だ。

ワールドカップで60年ぶりに予選敗退という屈辱を味わい、復活を目指している新生イタリア代表だが、初の公式戦の評価は芳しくない。

例えば、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』の採点で及第点以上だったのは、出場14選手のうちわずか6名。「6」のレオナルド・ボヌッチとジャコモ・ボナヴェントゥーラ、アンドレア・ベロッティ、「6.5」のジョルジョ・キエッリーニ、「7」のジャンルイジ・ドンナルンマとフェデリコ・キエーザだけだった。

◆復帰バロテッリは批判の的

批判の的となった一人が、代表復帰後初の公式戦で精彩を欠いたマリオ・バロテッリだ。マンチーニ監督の愛弟子は、『ガゼッタ』採点でチームワーストタイの「4.5」だった。『コッリエレ・デッロ・スポルト』は、「重荷」「フェノーメノ(怪物)ではない」と辛らつだ。

イタリアサッカー界を代表するかつての名将アッリーゴ・サッキは、「サッカーはチームスポーツであり、足よりも知性が重要」などと述べ、バロテッリにはチームへの貢献がないと酷評した。

これに対し、バロテッリの代理人ミーノ・ライオラは「知性も品格もないことを示した」「もう終わった人にいちいち意見を聞く理由が分からない」などと、カルチョ界の御大をこき下ろしている。

なお、ライオラ発言には10日付の『ガゼッタ』が反論。サッキの苦言は「バロテッリと代表のための悲しみの訴え」であり、「イタリアサッカーのためにサッキがしてきたことは、もっと敬意を払うに値する」と主張、ライオラの言葉は「受け入れられない」と、怒りをのぞかせた。

◆期待を寄せられるキエーザ

バロテッリを巡る騒動の一方で、評価が急上昇中なのが、途中出場でPKを獲得したキエーザだ。

『ガゼッタ』の寸評で、ファビオ・リカーリ記者は「我々にクリスティアーノ・ロナウドはいないが、優れた選手がいるならどうしてベンチに置いておくのだ?」と、キエーザはスタメンにふさわしいと主張。同紙は翌日の一面でも先発起用を訴えた。『コッリエレ』も「新たなスタートを求める代表の顔としてベスト」と、期待を寄せている。

先輩たちからの評価も確かだ。かつてアッズーリ(イタリア代表)の右サイドで活躍したフランコ・カウジオ、ブルーノ・コンティ、ロベルト・ドナドーニは、『ガゼッタ』でキエーザに太鼓判を押した。

コンティは「真のタレントだから、うまくやれるだけのクオリティーをすべて備えている」とコメント。「議論の余地がない基礎技術」を必要とする両サイドでのプレーをこなせるキエーザを称賛した。

ドナドーニも「どんな監督でもチームにいたらうれしい選手」「素晴らしいクオリティー」と賛辞を寄せ、「リスクを冒してでも率先してやろうとするのが好き」と、積極性を高く評価している。

◆安易な救世主仕立てに警鐘も

ただ、20歳と若いキエーザだけに、過剰な重圧をかけてはいけないとの声もある。

カウジオは「キエーザや(フェデリコ・)ベルナルデスキのような若手を重視しなければいけない」と、起用してさらなる向上をうながすべきとしつつ、「バランスをもって、落ち着いてやらなければいけない。そうでなければ、つぶしてしまう恐れがある」とつけ加えた。

また、救世主に祭り上げることに警鐘を鳴らしたのは、マリオ・スコンチェルティ記者だ。『コッリエレ・デッラ・セーラ』で「今の狂ったような称賛の嵐は大げさ」と指摘した。同記者は、イタリアに優れた選手が少ないことが、わずかなタレントをすぐ持ち上げる理由との見解を示している。

『コッリエレ』のイヴァン・ザッザローニ編集長も、9日付のコラムで、イタリアは「必死に誰かをたたえようとする新聞の一面で選ばれるのではなく、ピッチ上で選ばれたカンピオーネ(最高級の選手)」を、10~15年も生み出していないと嘆いた。

同編集長は「再び卓越した存在となり、失った国際舞台の中心に戻りたいのであれば、教育の仕方を修正し、活躍できるチャンスがある時に起用して、多くの若きタレントたちを忍耐強く成長させなければいけない」と、選手の育成に注力すべきと訴えている。

◆「運命の人」になれるのか

だが、サッカーでは育成と同時に目の前の結果も求められる。そして、10日のポルトガル戦で結果を残すために、イタリアサッカー界が期待しているのがキエーザだ。マンチーニ監督は「君らみんなが求めたじゃないか」と、周囲が求めるキエーザの先発起用を明言している。

スコンチェルティ記者は「思いもよらずして、彼は一時代の始まりのように、あまりに長く欠けていた運命の人のように評価される」と、キエーザの両肩に早くも大きな重圧がのしかかっていると指摘した。

かつての名選手エンリコ・キエーザの息子は、その重圧を乗り越えられるだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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