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CL&ELで泣いたイタリア、名将たちからもVAR待望論 「時代錯誤」「UEFAよ、目覚めろ」

中村大晃カルチョ・ライター
5月2日、CL準決勝でリヴァプールに敗れたローマのナインゴランとマノラス(写真:ロイター/アフロ)

欧州の舞台で、我々は厄介者なのだ――5月4日付のイタリア『コッリエレ・デッロ・スポルト』は、こんな見出しでビデオアシスタントレフェリー(VAR)導入を訴える記事を掲載した。

イタリアサッカー界は、UEFAへの不満を募らせている。チャンピオンズリーグ(CL)でも、ヨーロッパリーグ(EL)でも、いくばくかの不利な判定に見舞われたからだ。

◆欧州で相次いだ誤審

レアル・マドリーとのCL準々決勝セカンドレグで、ユヴェントスが「奇跡の逆転」に迫りながら、終了間際のPK判定に泣いたのは記憶に新しい。バルセロナを相手に「奇跡の逆転」を成し遂げたローマも、そのバルサ戦やリヴァプールとの準決勝2試合で誤審に泣かされた。

ユーヴェのアンドレア・アニェッリ会長がUEFA審判部門を率いるイタリア人のピエルルイジ・コッリーナを非難し、ローマのモンチSDが「イタリアサッカー界は声を上げるべき」と主張するなど、カルチョ関係者は欧州の舞台で怒りをあらわにしている。

ほかにも、イタリアメディアは、今季のELでナポリやミランも誤審に苦しんだと報道。特に、過去の数々の事例まで持ち出した『コッリエレ』は、冒頭のように被害者意識をうかがわせた。

もちろん、これらはあくまでもイタリア目線での主張でしかない。ただ、直近のCLでは、マンチェスター・シティやバイエルン・ミュンヘンなど、ほかにも誤審に泣いたクラブが出ている。

今季のセリエAでVARを経験しているカルチョ関係者が、テクノロジーの助けは役立つと考えているのは確かだ。だからこそ、世界最高峰の舞台に導入しない道理はないと考えている。

◆呼びかける名将たち

導入賛成派には、イタリアの名将たちも含まれる。『コッリエレ』によると、ジョヴァンニ・トラパットーニは「誤審があった場合に修正でき、国際レベルにも適応すべき支えだ」とコメント。カルロ・アンチェロッティも「CLにも導入すべきだ。それも、すぐにね。UEFAは目を覚ますべき」と述べた。

そのほか、以下の指揮官たちも、VARの重要性に言及している。

チェーザレ・プランデッリ

「スタンドの観客がすぐに誤審と分かるのに、当の主審が後になってロッカールームでしか気づけないというのは時代錯誤だ。同時に、CLに、イタリア、ドイツ、オランダ、ポルトガルのようにVARがないことも時代錯誤だよ」

クラウディオ・ラニエリ

「ワールドカップ(W杯)同様にCLでも必要だ。捨てることなどできない手段だよ。使うべきだ。毎週末話題にすることで、それは実現可能だと確信している」

ロベルト・マンチーニ

「VARはジャッジを下すうえでより正確な手段だ。CLは世界最高レベルなのだから、できる限り正しくジャッジするためにあらゆる手段が必要となる。もちろん、最も正しい形で使うべきだがね」

また、元主審のパオロ・カザリンに至っては、「異論がある」とUEFAの姿勢を厳しく批判した。

「均一的な形でテクノロジーを適用するのは難しいことだが、始めていく必要もある。来季もこの件について何もしないと耳にすると、正直あ然としてしまうね。UEFAが閉ざす理由が分からない」

◆容易ではない導入

なぜ、UEFAはVARを導入しないのか。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は、UEFAのアレクサンデル・チェフェリン会長やコッリーナが、テクノロジーに反対しているわけではないと解説。7月に予選が始まり、5月まで大会が続くCLやELへの導入は簡単なことではないと指摘した。

「その間に数多くの試合があり、すべてのスタジアムでVARを網羅するには、多額の金と、しっかり準備された審判たちが必要となる。それがなければ危険な失敗につながりかねない」

実際、チェフェリン会長が否定的なのは、あくまでも性急過ぎる導入だ。

4月18日付の『ガゼッタ』で、チェフェリン会長は「CLはフェラーリやポルシェと同じで、すぐに運転はできない。練習、つまりオフラインテストが必要だ。どう機能するかを全員が分かっていなければいけない」とコメント。「現実的には、2019-2020シーズンはCLとEUROで導入できるかもしれない」と、いずれにしても導入の日は遠くないと述べている。

◆トーナメント仕様は?

これに対し、『ガゼッタ』が以前から提案しているのが、決勝トーナメント以降に限定し、2018-19シーズンから導入するというアイディアだ。

チェフェリン会長は4月のインタビューで「ルールは最初から最後まで同じでなければいけない。そうでないと、『2カ月前にVARがあったら…』と言うことができてしまう」と、この案を否定していた。

だが『ガゼッタ』は、今回のCLとELにおける誤審を受け、UEFAが国際サッカー評議会に対し、決勝トーナメント以降の導入計画を示す可能性もあり得ると伝えている。

◆万能薬ではない

いずれにしても、忘れてはいけないのが、VARですべてが解決するわけではないということだ。

例えば、ユーヴェが怒りをあらわにしたマドリー戦のPK判定は「明確な誤審」に当たらず、仮にVARが導入されていたとしても、判定は覆らなかった。チェフェリン会長も『ガゼッタ』のインタビューで「申し訳ないが、(VARを導入していたとして)何が変わっていたんだ?」と話している。

この「明確な誤審」の基準が不透明なだけに、シーズン閉幕が迫る今になっても、セリエAでは「なぜこのプレーがビデオ判定にならなかったのか」といった議論が後を絶たない。VARは決して万能薬ではないのだ。

だが、『ガゼッタ』は「テクノロジーがすべての問題とミスをなくすわけではない。だが、大きな助けとなることは確実だ」とも記した。その点には賛同する人が多いだろう。

判定を巡る問題は、審判への脅迫や暴力にもつながっている。少しでも問題の軽減につながるよう、建設的な議論でより良い技術導入が実現することに期待したい。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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