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ナポリと「1」差、天王山で酷評も…セリエ優勝争いは絶対王者ユヴェントスがまだ優位?

中村大晃カルチョ・ライター
4月22日、セリエA第34節ナポリ戦で落胆するユヴェントスの選手たち(写真:ロイター/アフロ)

4月15日に「6」となり、3日後に一時は「9」にもなった。だが、結局は「4」になり、そのさらに4日後、ついに「1」となった。セリエAで優勝争いを繰り広げているユヴェントスとナポリの勝ち点差だ。

◆「ほぼ確実」からの失速

「Sei,quasi sette(6、ほとんど7)」――4月15日の32節でナポリがミランと引き分け、ユーヴェがサンプドリアに快勝した翌日、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は王者の試合レポートでこう見出しをつけた。勝ち点差が「6」となり、7連覇はほぼ確実という意味だ。

だが、わずか3日後、絶対王者に落とし穴が待っていた。

18日の33節、ユーヴェは残留を争うクロトーネを相手に先制。同時刻開催のウディネーゼ戦でナポリがビハインドを背負い、この時点で勝ち点差は暫定的に「9」へと開いた。しかし、その後失点したユーヴェは格下相手にまさかのドロー。さらにナポリが逆転勝利し、差は「4」に縮まった。

これにより、「スクデット争いはまったく分からなくなった」(『コッリエレ・デッロ・スポルト』)など、メディアの論調も一変。現役時代にユヴェントスとナポリの双方でプレーしたマッシモ・マウロは、『レプッブリカ』電子版のコラムで「ごう慢ユーヴェ、これでナポリは夢を見られる」と記した。

◆天王山でムード一変

迎えた22日の天王山。ユーヴェは90分のカリドゥ・クリバリのゴールでナポリに0-1と敗れた。リーグでのホームゲームを落としたのは、今季2度目。過去4シーズンで1敗だった鉄壁の要塞に、ほころびが見え始めている。何より、残り4試合で勝ち点差はついに「1」となった。

ユーヴェはチャンピオンズリーグ(CL)出場を争う5位インテル、3位ローマとのアウェーゲームを残している。一方、ナポリの相手はフィオレンティーナ、トリノ、サンプドリア、クロトーネ。ヨーロッパリーグ出場権や残留を争うチームたちだが、ユーヴェと比べて日程が有利なのは確かだ。

こうなると、世論は一気にナポリへと傾く。『メディアセット』のアンケートでは、5000人近いユーザーのうち、7割近くが「ナポリ有利」と回答。『Calciomercato.com』の編集部でも、8対6で「ナポリ派」が上回った。

実際、『スカイ・スポーツ』によると、勝ち点3制度に移行してから、残り4試合で「1」差だったケースは3シーズンあり、そのうち2回は2位チームが逆転優勝を果たしている。

◆王者に相次ぐ批判

不本意な内容で負けたことも、ユーヴェの印象を悪くした。『OPTA』によると、オンターゲットのシュートはゼロ。現スタジアムになった2011-12シーズン以降、リーグ戦で初めてのことだ。

ジョゼップ・グアルディオラすら感嘆する美しいサッカーを構築し、自らの哲学を貫こうとする夢想家マウリツィオ・サッリと対照的に、現実主義のマッシミリアーノ・アッレグリ監督は、最終結果のために芸術的な美を捨てることを厭わない。天王山に待ちの姿勢で臨んだのも、「引き分けても残り4戦で4差(+直接対決でリード)」という条件を考えれば、不思議ではなかった。

しかし、この日の王者はあまりに攻めなかった。攻めようとしなかった。逃げの姿勢から出たバックパスに、ホームのファンが嘆息したのも、1度や2度ではない。

『ガゼッタ』のヤコポ・ジェルナ記者は「後半はまるでプロヴィンチャーレのようだった」と酷評。同紙は23日付の戦術分析ページで「なぜプレーをあきらめた?」と見出しをつけるなど、アッレグリ監督とチームの戦い方に辛らつだった。

前述のマウロも、再び『レプッブリカ』のコラムで、「気の滅入る試合」だったと述べている。

「ユーヴェでは『勝てばいい』と言われる。だからこういう試合でも構わない。ただ、土壇場で失点すればすべてが台無しになる。それに、スペクタクルなサッカーとはまったく別物だ。バルセロナでこのようなことは受け入れられないだろう」

『スカイ・スポーツ』のマッテオ・マラーニ記者も「ユーヴェが支配した6年間で、これほど服従的で押しつぶされたユヴェントスは記憶にない。ホームでそのようなことがまったくなかったのは確実だ」と、絶対王者の姿勢に衝撃を受けたと漏らしている。

さらに、マラーニ記者は「ユーヴェがナポリに逆転され、優勝を逃したら、天王山は非常に重くのしかかる。そのとき、人々は『ユヴェントスのサイクル』について考えるべきだろう。これほどの打撃を受ければ、もう以前と同じとは考えられない」と、一時代の終わりもあり得ると主張した。

◆それでも有利なのは…?

だが、“ユーヴェ推し”はなくならない。例えばスパルのレオナルド・センプリチ監督(「52%でユーヴェ、48%でナポリ。ユーヴェは勝つことに慣れており、いずれにしてもこのスクデットを逃さないと思う」)のように、同じリーグを戦う同僚の間でも、依然としてユーヴェ有利の声がある。

その一人、カリアリのディエゴ・ロペス監督は「アッレグリはグループマネジメントのマエストロだ。ユーヴェが優勝するだろう。彼が率いているからだ」と、現役時代に指導を受けた先輩が優勝要因になるとした。

名将アッリーゴ・サッリも、『ガゼッタ』のコラムで、試合後に喜びを爆発させたナポリとファンに「過剰な高揚感と重圧は大きな成功に慣れていないグループの問題になり得る」と警鐘を鳴らし、「1差をつけているユーヴェはまだ有利」とコメント。結果至上主義には苦言を呈しつつ、「アッレグリの選手たちはなかなか屈しない。最も美しいわけではないが、彼らは最強だ」と記している。

残り4試合で「1」差だった過去の3ケースのうち、2位チームの逆転優勝が2回と前述したが、唯一首位チームが逃げ切った1997-98シーズンのスクデットを手にしたのは、ユヴェントスだった。

◆最高のリーグ

確かなのは、今季の欧州主要リーグでタイトルレースがこれほどヒートアップしたのがセリエだけということだ。カルチョは今、大きな注目を集めている。

ユヴェントスが7連覇を遂げるのか、ナポリの28年ぶりの悲願達成なるか。両チームのサポーターには、やきもきする日々が待っている。それ以外のカルチョファンは…『コッリエレ・デッロ・スポルト』電子版と同じ想いではないだろうか。

「どういう結末を迎えるのか、我々には分からない。だが、一点の曇りもなく言えるのは、これは近年で最高のリーグ戦ということだ」

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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